第六話 親友の抱いた想いにどう向き合う?

親友の抱いた想いにどう向き合う?-1

 周囲が騒がしくなってきた。

 その騒がしさがまさか、多江から始まるとは思ってもみなかったけれど。

 高校生になったからかねぇ?


 高校生は子供でも大人でもない大切な時期なんてよく言われる。

 学園モノのゲームでの共通事項だ。

 現実にもある程度当てはまることだと思う。


 世間が十七歳という年齢にこだわる理由はやはりこの年齢が境界線だからだろう。特に我々ヲタはこの十七歳という年齢に偏執といえるほどこだわりがある。


 高校に入ってからの変化は多江のことだけに収まらない。

 陽太郎と嗣乃への手紙攻撃もぱったり止まったことも、大きな変化を感じさせることだ。


 手紙ブームがこの高校にはないというのもあるだろうが、手紙文化が絶えている訳ではなかった。

 自治会の仕事で朝早く登校していると、番号ロック付きの下駄箱の隙間に紙を差し込もうとする男女はちらほら見かける。

 だが、太郎と嗣乃の下駄箱に差し込む生徒は皆無だ。


 見た目だけでお付き合いしたいなんて思わなくなるのかねぇ。

 陽太郎は穏やかだが、誰とでも仲良くやれるほどのコミュ力はない。

 嗣乃はお淑やかさとは無縁で、結構攻撃的だ。

 そんなマイナス面をしっかり見るようになるのかもしれないな。


 それ以前に、この二人についてはもうデキていると考えている人間が増えているから……だったら良いな。


「おはよ」


 せっかく自転車で目が冴えていたのに、教室に入ると突然眠気が襲ってくるのはきつすぎる暖房のせいだろう。

 席にいたフロンクロスこと向井桐花におざなりな挨拶をしてしまった。

 今の挨拶は中々フランクにできたと思う。


「お、おはようご……おはよう」


 面白い挨拶だな。


「…………」


 会話が終了してしまった。

 知り合ったばかりの相手と流れで会話するなんて俺には無理だ。


 一時間目はロングホームルームだった。

 昨日のこともあったからか、貝のように口を閉ざすのが得意な向井桐花はやはり何も言おうとはしない。ただ、何となく気安かった。

 先週までは向井桐花側の尻を少し浮かせてないと落ち着かなかったのに。


 陽太郎は向こうで男女に囲まれて会話をしているが、内容に明らかに付いて行けていないような顔をしていた。

 昨日放送していたドラマの話をしているようなのだが、陽太郎は俺と積みアニメを消化していたので一瞬たりとも見ていなかった。


 第一、あの漫画原作のドラマを見て視聴率に貢献すること自体大間違いだと食事をしながら俺と酷評し合っていた。

 昨日の会話内容をそのまま話したら、周囲から敵視されるのは間違いない。

 

 だが、陽太郎はその辺をよく弁えている。

 陽太郎はどんな駄作に対しても必ず褒めるポイントを見つけるのだ。

 あの台詞が使われているのは良かったとか設定変更は仕方ないとか、そのくらいの許容を見せるから敵を作りにくいのだ。


 褒めることに慣れていない我々ヲタにとっては少々難関だが、俺はなんとか実践している。

 そのお陰で多江とも話が弾んでいたと思う。


 それにしても、先生が来ないな。

 少しだけ寝ておくか。


 机に突っ伏した瞬間、『大丈夫?』という通知が表示された。

 送り主は『フロンクロス クリスティニア』だった。


 隣にいるのにチャットかよと思ったら、陽太郎の席の辺りに立っていた。

 嗣乃に引っ張って行かれたんだろう。

 向井桐花の方から心配のチャットを飛ばしてくれるのは、なんだか嬉かった。


 しかし、なんて返事すれば良いんだろう。


『なんで?』


 色々思い詰めた挙げ句、会心の返事がこれか。


『疲れさせてごめんなさい』


 なるほど、向井桐花は全部自分のせいにしてしまうタイプのようだ。

 なんでも他人のせいにしたくてたまらない俺よりちゃんとしているな。

 さて、どう返せば良いものか。

 なんでも良いから女子と会話する時は褒める所を探せという嗣乃先生の教えを実践するべきだろうか。

 そして話題を逸らして今日の寝不足の理由を追及される前にうやむやにしたい。

 告白するずっと以前にフラれて寝不足ですなんて言えるか。


『昨日は楽しかったよ』

『白玉もうまかったよ』


 ぶっきらぼうな返信になってしまった。

 絵文字やらスタンプやらは使わない主義というか、使い所が本気で分からない。

 向井桐花も一切使わないから構わないだろう。


 ガツっという鈍い音がした方向を見ると、桐花がミリタリーなケースに入った携帯を床に落としていた。

 よほど俺の返信がキモかったのかな?


『また作ります』


 携帯を握り直した桐花から間髪を入れずに返信されてきた。嫌われてはいないらしい。

 そして嗣乃からも『100点』と一言チャットが飛んで来た。


『人の画面覗くな』


 なんだか照れくさいので、こう返すのがやっとだった。


「席つけー! 日直は挨拶省略な! おはよう!」


 どたどたと我がクラスの担任が入ってきた。

 どこで道草食っていたんだ。


「せ、先生」


 一番前の女子生徒が交野先生に恐る恐る声をかけた。


「え? 何? 伝達事項多いんだよね。急いでんのよ」


 遅れてきた分際で何を言っているんだ。


「日直決めてません」


 大袈裟に驚く通販番組の外人みたいな顔したってあんたの失態は取り戻せねぇよ。


「ユーアンドユー! 日直!」


 日直は窓側の一番前からと決まった。

 つまり明後日は俺と向井桐花が日直か。号令かけられるのかな?

 今から心配になってきた。


「先生、日誌は……?」


 また通販の外人みたいな顔をすんじゃねえ。


「に、日誌とかいらねーよ! よし、みんな学級委員決めろ! うちのクラスまだって言ったら教頭に超絶説教食らった!」


 それで遅れたのか。

 俺達がドブさらいをしていた丸二時間一体何をしていやがったんだこの先生は。


「ほれ立候補! 挙手! あ、くそダサい作業着着てる連中と金髪は無しね! 自治会は学級委員と両立できるほど甘くねーから! さあ! ハリアップ!」


 おずおずと二人で手を上げる連中がいた。しかも隣同士で。

 まさか数日でフラグブチ建てたなんて言わないだろうな!? 言うな!


「異議は? 無しね! はい二人よろしく!」


 その後もとんでもないハイペースでクラスの仕事割が決まって行った。

 だが後少しというところで、無常にも一時間目の終了を告げるチャイムが鳴ってしまった。


「あとはこっちで適当に決めるから! 解散!」


 相変わらず無茶苦茶な先生だな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る