謎の女と傷病少年と過干渉少女-2
考えることをやめるな。
やめるな。
「ありゃ……?」
気付けばベッドの横の壁は付箋まみれになっていた。
そこにやり残した物やらなんとなく書きたい物を書き散らしてはペタペタ貼っているだけだが、なかなか壮観だった。
「えへへ……カッコいいな」
俺、壊れてきたなぁ。
「安佐手君、開けていい?」
白馬か。
日曜日にご苦労なことだが、あまり素直に言葉を返したくなかった。
あ……。
「あああ、ちょっと待った! 今開けるな! 開けないで!」
ベッドの隙間へ付箋を剥がしては投げ込んでいく。
内容が自治会のことだけであればともかく、適当に等比数列とか好きな英単語とかを書いて貼っていたのを見られたらいよいよ死ぬしかない。
「い、いいよ!」
「良かった。安佐手君もそんなにバタバタ音を立てられるなら大丈夫だね」
「あぁ? 最悪だよ」
「何が最悪よ!」
あ、白馬の後ろに居た嗣乃に聞かれてしまった。
「普通に食事摂れるようになったんだから喜びなさいよ! ちょっと買い物して来る。その間はなっちゃんと仁那が相手してくれるんだから感謝しなさいよ」
くそ、徹底してやがるな。
俺を情報から遠ざけるべく監視をつけやがったな。
「相手なんかいらねーよ携帯返せ!」
「そりゃ母上に交渉してよ」
はい、そりゃ無理ですね。
「あ、かーさん達今日は教頭先生と飲むってさ。親子二代迷惑かけたって平謝りしてたんだからね」
「え……? あぁ、そう」
はぁ、申し訳ないことこの上ない。
母上達よりは迷惑かけてないと思うから、許していただきたいんだけど。
「汀さん、僕らが見てるから行ってきていいよ」
「なっちゃんごめんね、こんなことお願いして。つっき、これからお客様が来るんだから少しは居住まい正して。ベッド畳んで座布団出して!」
「は? 客?」
誰だよ。
わざわざこの無様な姿を見に来たいなんて奴は。
しかも嗣乃の包囲網を突破できる人物なんて先生くらいしか。
「うん。今仁那ちゃんが国道のところで誘導するために待ってるんだよ」
何を仰ってるの白馬さんや。
「へ? 依子先生なら家庭訪問してるから分かるだろ」
「先生? 違うよ、笹井本会長だよ」
なんだ生徒会長氏か……へ?
「な、なんで!? なんで他校の一年をわざわざ見舞いに来るんだよ? ずっと風呂にも入ってないんだぞ?」
「善意のお見舞いなんだからちゃんと応対しろっての! とにかくベッド畳んで。みんな入れないから!」
いや、話なんてされても三日ばかし現実から離れていて無理なんだけど。
「お、お前はなんで買い物なんか行くんだよ!」
「時間がないの。いっぱい買うもんあるから。よーも連れてくし」
「ちょっと待ってくれよ、今学祭準備どうなってんだよ!? 会長さんとこと決めたヘルプは!? 予算の件は!?」
「あん? 学祭の話はしないって約束だから」
だったら話すことなんてないだろ!
動こうにも、点滴で腫れた腕は体を起こそうとしただけで痛みを放った。
「あ痛でで!」
「だ、大丈夫? 汀さん、アイスノンまだあるかな?」
そんな大げさに心配される程ではないんだけどね。
おかげで冷静になれた。
「今持ってくる!」
嗣乃が階下へと走っていった。
痛みが走ったのは一瞬だけだったが、とりあえず痛い演技は続けて置いた方が良さそうだ。
ベッドの下の付箋は見つけられたくないんだよ。
「白馬、動かすと痛いから、このままじゃ駄目かな?」
「もちろんだよ! 安佐手君の健康が最優先なんだから」
下の方から瀬野川と嗣乃が言い合う声が聞こえた。
会長氏、もう到着してしまったのか。
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