第二十八話 謎の女と傷病少年と過干渉少女

謎の女と傷病少年と過干渉少女-1

 三日は経過しただろうか。


 記憶にあるのは旗沼先輩にお姫様だっこされたこと。

 教頭先生の車で病院に連れて行かれ、病院のベッドで点滴を打たれたこと。

 そして、母上に思い切り笑われたことくらいだ。


 母上が叱らずに俺の無様な姿を嗤ったのはきっと、俺の状態に気付けなかったと自分自身を責める陽太郎と嗣乃への気遣いだ。

 本当は思い切り叱りたかっただろうに。情けない。


 俺は大きな勘違いをしていた。

 チームワークを大事にするふりをして、何もかも一人でコントロールしようとしていた。

 その結果が睡眠不足による極度の疲労に、冬だというのに脱水症状。

 自業自得のオンパレードだった。


 教頭先生の車の中で、桐花がひたすら咳き込みながら何かを言おうともがいていた。

 そんな桐花に何も言ってやれなかった。


 皆は学校帰りにわざわざ寄ってくれたりはするんだが、桐花だけは来てくれたことがなかった。

 下で声が聞こえた気はするんだが、顔を出してはくれなかった。

 嗣乃に聞いても、知らないと突っぱねられてしまう。


「……痛っ!」


 パンパンに腫れた片腕にはアイスノンが巻かれていたが、動かすだけで痛んだ。

 点滴をされた場所だ。

 老練そうな看護師さん曰く、若くて元気だから血管が点滴針を弾いてしまって薬液が入りにくいことがあるそうだ。

 元気じゃないから点滴されたと思うんだけど。


 それにしても暇だ。

 嗣乃によってネットに繋がる物は全て奪われてしまった。


 多江の漫画やらラノベも、瀬野川が貸してくれた風呂用の小型テレビも何の慰めにもならなかった。

 情報機器を奪われるのは苦痛と思っていたが、そうでもなかった。

 最近は忙し過ぎて世情にも疎くなっていたからか、無いなら無いで暇だなぁと感じるだけだった。


 情報を得ることに一定の快感はあるが、人に話したくなるようなネタは既に拡散されているもんだ。

 自分がその拡散に加担する必要なんてない。


 そんな無駄な時間をうまく転換できていれば、もっと効率のいい毎日が送れていたのかもしれかった。


 もう一つ、大事なことを忘れていた。

 俺一人が息巻いても巻かなくても、出来上がる物はほぼ同じだ。

 それに、誰か一人が欠けるだけで成り立たない組織なんて失格だ。


 もし委員長の俺がいなくても機能しているんだとしたら、それは組織として健全である証拠だ。

 誰が欠けてもカバーし合えるならそれで良いはずだ。

 俺達にはそれができるのに、何で一人で突っ走ってしまったんだろう。


 陽太郎と嗣乃が離れていくという辛さはあった。

 でも、それだけで俺がここまで焦りを募らせる理由にはならなかった。

 俺の焦りを産んでいた一つはきっと、宜野だ。

 突然降って湧いた清廉潔白な奴。

 俺は無意識に宜野に負けたくないと思ってしまったのかもしれない。

 そこから、完全におかしくなってしまったんだ。


 なーんてね。

 んなわけ無いんだな、これが!


 俺には宜野にそこまでの対抗心を燃やす必要がそもそもない。

 容姿については大敗を超える惨敗だが、能力的には俺の方が優っている。

 圧勝と言って良い。


 俺氏、一年の学年最高責任者。

 宜野、平の生徒会役員。

 しかも、今は仕事もせんと演劇部客演にほぼ専念。

 その線でいけば奴が俺に勝てる要素など何一つない。何一つ!


 ふむ、一度倒れたくらいで俺の下劣な神経は治ったりしないようだ。


「はぁ……暇死する」


 何時間かに一度、声が出せるか確認してしまうほど暇だった。

 例の予算については間違いなく平行線のままだろう。

 せっかく時間があるのだから、次の策を練らないとな。


 考えることだけはやめるな。絶対にだ。

 方法は一つしかないという考えにも囚われるな。

 きっと道は見つけられる。


 なんて格好付けてないと、心が保てなかった。

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