第二十七話 眠らぬ事は愚かなり
眠らぬは愚かなり-1
真っ直ぐで純粋、ねぇ。
あれから数日、宜野の言葉はずっと俺の中で引っかかっていた。
向井桐花ことクリスティニア・フロンクロスを宜野はそう評した上で、俺達に染まらないようにして欲しいと願った。
まったく意味が分からない表現だった。
俺に言わせれば、桐花は相当なひねくれ者なんだけどな。
根暗に生まれついたのは俺同様仕方ないにしても、桐花はひねくれ者と表現した方が正しい。
アメリカへ連行されてしまう恐れはあったとはいえ、たくさんの人が差し伸べた手を振り払ってきたのだ。
ゲームのキャラであれば結構ポイント高いが、ここは現実だ。
桐花は真っ直ぐ純粋と表現されるような存在ではなく、変わり者だ。
だから俺達と平気でつるんでいられるんだと思う。
過ごしてきた時間は俺達よりも宜野の方がずっと長いのは分かる。
きっと桐花が純粋な子だと思える場面をたくさん見てきたんだろう。
でも、今の桐花にそれが当てはまるとは到底思えなかった。
自治会の新兵器、教職員用タブレットは便利この上なかった。
背中に『管理者:交野依子』というラベルが貼られてはいたが、一年委員長専用機として活用されている。
そんな便利なデバイスに表示されている過去の議事録に、その内容以上に困った点を見つけてしまった。
『宜野実優斗』
これ、なんて読むんだ?
議事録の名前にルビはふられていなかった。
『みゆと』かねぇ? もしかして、『ミュート』とか?
黙ってろという親の思いかねぇ。んな訳ないか。
笹井本会長氏はとても分かりやすかった。
『笹井本かとり』。うん、平仮名って良いよね。間違えようがない。
末っ子派でもないのに『トッティ』と呼ばれていた理由も納得した。
どうでも良いことだけど。しかし、なんだか苗字みたいだ。
名前の読み方以上に、俺は宜野の態度に捕らわれっぱなしだった。
淀みがなく、飾り気がなかった。
いつの間にか、日付が変わっていた。
昨日交野先生が予算を召し上げられたという話を持って来てから、眠気が襲ってくるのはいつも明け方だ。
まともにのどを通るのは昼の弁当だけで、朝も夜も食べることが多少苦痛を伴う作業になっていた。
やっぱり、俺に委員長職は荷が重いんだろうな。
こんな状況でもグースカ眠れる奴こそ適任のはずだ。
学園祭の未完リストを開くと、まだこなせていない内容が多かっった。
自治会の通常業務は、これに輪をかけて手つかずなことだらけだ。
原因ははっきりしている。
山丹先輩が細かい仕事を取りこぼしているのだ。
陽太郎にフォローを頼んでからは多少減ってはいるが、根絶はできなかった。
ベッドに横たわると、まだ何かやれることはないかという不安に襲われてしまう。
明日こそはちゃんと寝るぞ。
明日こそ……って何日思っているんだか。
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