第二十六話 生徒自治委員会、瓦解前夜

生徒自治委員会、瓦解前夜-1

 忙しければ忙しいほど、余分なことへ意識が向けづらい。

 それはむしろ良いことかもしれなかった。


 昨今は陽太郎と嗣乃が何をしているのかが一番の心配だ。

 先日から学園祭実行委員会でコンビを組む多江と杜太がちゃんとうまくやってくれているかも心配だ。

 正直、瀬野川が白馬に愛想を尽かされないかも若干心配だったりもするんだが。


 今日は授業のない土曜日のはずだった。

 自治会にも休みが言い渡されていたのに、委員長閣下に休みなど許されなかった。


 旗沼先輩と俺は町役場へと向かっていた。

 役場は一ヶ月に一度ある土曜営業日だったので、どうしてもこの日に出向くしかなかっただけなんだけど。

 一時駐車場の設置と、シルバー人材センターへの交通整理の仕事を依頼するためだ。


 役場を出ると、今度は電設屋さんへと向かう。

 ダンス部に使って良いと安請け合いしてしまった中央棟五階に、追加の電源を設置してもらうためだ。


「すいません……電気が足りなくなるとは思わなくて」

「いやいや、分かっているはずの僕が承認する前に承認しちゃってごめんね。向井さんのおかげで予算豊富だから助かったよ」


 桐花発案のJKコーディネート(却下済み名称、ただし通称化)には助かりっぱなしだ。

 余分な電気設備費はダンス部の売り上げから徴収する予定ではあるが、そんな未来に稼げるか分からない金で学校側の承認は取れないからだ。


「僕は湊の家で学園祭Tシャツ作りの手伝いがあるからまた明日ね。制服で寄り道しないでくれると助かるよ」

「は、はい、ありがとうございました」


 旗沼先輩を見送ってから、駅前の自転車置き場へ向かおうとしたところで足が止まった。


 猫の看板のカラオケ屋の駐輪場に、見覚えがある自転車が二台見えた。

 見間違いようがなかった。

 俺が乗っている自転車と全く一緒だ。


 ほう……ほほー!

 あいつらカラオケ屋でお楽しみ中かね?

 やっぱり高校ってアレなんだな! 人生の分岐点なんだな! 俺を除く!

 よし、逃げよう! リアルが充実している人達から逃げてしまおう!

 あ! 俺最近全然ネトゲしてない! つまりバーチャルすら充実してない! どうしよう!


 馬鹿な思考をしつつも県道をひたすら漕ぎ、田んぼの間を碁盤の目に走る広域農道をひた走った。


 大きく息を吸って吐きながら軽めのギアでペダルを回し、少しずつギアを上げて加速する。

 自転車で長時間一人で走るという行為は始めたばかりの頃は慣れなかった。


 でも、今はその時間が貴重だった。

 手持ち無沙汰になっても携帯を取り出したりすることもできなければ、条例でイヤホンを使うことすらできないから、ただ漕ぐしかないのだ。


 いつも携帯を見ていないと世情に疎くなるんじゃないかと変な心配をしていたが、それはむしろ良いことだった。


 多少世情に疎くなってから、クラスメイトとの会話が増えた気がする。

 情報を常に入れていないと会話に付いていけないと思いきや、分かっていない方が聞き役として会話に混じっていられるのは新鮮な驚きだった。


 聴いているだけでも知らないことの方が多いので飽きないし、しかも自分が興味を持って追求したことなんてない話まで聞けることもある。これが案外面白かった。


 そもそも俺みたいなコミュ障に話を構築する力なんてないんだから、聞き手に回る方がずっと楽だ。

 自治会という組織に所属しているからか、話しかけられることも多くなった。


 滅私奉公みたいな活動をするのも案外悪くないもんだ。

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