コミュ障少年とネクラ少女、味方になる-2

 数日に渡って行われたクラス対抗球技大会はあっという間に終わった。


 飛ばないボール作戦は功を奏して、内野偏重守備は安全且つ荒れた展開の試合展開を演出してくれた。

 来年も白馬を競技委員長にしてソフトボールにしないかという話が出ている程だから、大成功と言っても差し支えないだろう。


 球技大会以降は自治会の仕事も小康状態が訪れた。

 ゴールデンウィークにみっちり作業をしたお陰で、学園祭までのスケジュールは取り戻せた。

 だが、まもなく季節は梅雨に入る。

 そうなれば、自ずとできることは限られてしまう。


 もう一つ特筆すべきことといえば、夏服に衣替えするシーズンとなったことくらいか。

 ただ、着る機会がほぼなかった。

 あんなものを着て自治会の汚れ仕事なんてできやしないからだ。

 白馬だけは七割くらいの確率で制服を着ていたが。


 おしゃれ最優先の瀬野川も連日の暑さに陥落し、今はジャージばかりだ。

 スカートの方が涼しそうだが、そうでもないらしい。


 しかし、今日は万年ジャージの自治会に夏用ユニフォームが届くという。

 模試だかいう余分なテストのお陰で午前授業のみだったその日、交野先生が愛車のデミオを自治会室の前に乗りつけた。

 ハッチバックからポロシャツが大量に入った段ボールを降ろすと、中にもう一つ大きな荷物があった。


「え、エアコン様だー!」


 叫んだ多江に全員が反応した。

 いわゆるスポットエアコンというやつが車の中から現れたのだ。

 全員の興味はエアコンへ向いてしまったので、俺は一人で段ボールの中身を覗き込んだ。


 先程の段ボールの中はぐちゃぐちゃに詰め込まれたポロシャツだった。

 色も素材もバラバラで、肩口に生徒自治委員会とプリントされているだけだった。


 一年生に支給されたポロシャツの左胸には、勘亭流書体で『祭』というロゴマークが入っていた。

 どこからどう見てもリサイクル品だ。


 涼しくなった自治会室内で女子達が着替える中、男子は外で着替えさせられた。

 エアコンの設置はほとんど俺と旗沼先輩でやったのに。

 窓を半開きにした所に排気ダクトを装着したりと色々面倒だったのに!


「祭りレッドォォ! ほら! なっちも!」

「ま、祭りレッド?」


 赤いポロシャツを着た瀬野川が意味不明なポーズと共に意味不明な台詞を吐きつつ、同じく赤いポロシャツを着た白馬にもポーズを強要する。

 レッドが二人いたら戦隊バーサス物になってしまうぞ。


「祭りブラックー!」


 何故かノリノリの杜太が訳の分からないポーズを取った。


「ま、祭りネイビー……?」


 嗣乃に無理矢理ポーズを取らされる哀れな金髪が続く。

 そして嗣乃がめっちゃ俺を睨んでいた。何を催促していやがるんだ。

 仕方ないのでポーズを決めた。


「以下略」


 これで面倒な連鎖は終わりだ。

 俺もネイビーだし。


「つっきノリ悪! ヲタなのにノリ悪!」


 嗣乃がうざったい。


「もうブラックとネイビーしかいねえだろ。ピンクとか白とか着ろよ!」

「はぁ!? ブラ透けるだろうが!」

「つ、つぐや、あたしが言うのもなんだけど、女子力! 女子力!」


 多江にたしなめられるとは。


「はい、全員着た?」


 山丹先輩がくだらない会話を断ち切ってくれた。


「それ、家で余った奴にプリントしただけなんだ。変なロゴ入っててごめんね」


 家? シルク印刷が趣味なの?

 いや、これはどう見てもちゃんとしたプリントだ。


「先輩の家って?」

「え? うちヤングマインドだよ?」


 ヤングマインドはこの高校の制服が買える数少ない商店街の服屋の一つだ。まさかそこが先輩の家だったとは。


 この巨大県立高校の制服供給のほとんどを担っているのだから、さぞかし美味しい商売なんだろうなあ……なんて、そんな訳ないか。同業が次から次へと廃業していった結果だろう。


 あれ? ということは自治会ジャケットって。


「もしかして、自治会ジャケットの大きさがみんなぴったりなのって」

「そういうこと。あ、でも原価でやってるからね! 利益は人件費でマイナスよ」


 得意気に言われてもな。

 服のサイズって個人情報に入らないんだろうか。


「みんな我が家の在庫整理に付き合ってもらってありがとね!」


 神社のお祭りに使うポロシャツの発注数を間違えられたんだそうだ。


「お金はもらったけどあまりは引き取ってくれなかったのよ。捨てるのもお金かかるし」


 金の話が多くて嫌になってくるな。

 スポットエアコンも山丹先輩の店の工場で使っていたが、新しい物を導入して余ったんだそうだ。儲かってるじゃねぇか。


「さーておめーら! 今日は無事に帰れると思うんじゃねえよ? 備品捜索決死隊、出動!」


 訓練された先輩方が、交野先生の意味不明な号令に「おう!」と答えた。


 今日も長い一日になりそうだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る