第十三話 少女の不満、少年の狼狽

少女の不満、少年の狼狽-1

 一学期の終業式当日。


「うえぇ……」


 情けない声を上げながら、陽太郎が自治会室に戻ってきた。

 パイプ椅子にどしんと腰を下ろした。


「瀞井君お疲れ様!」


 陽太郎の頭を白馬がフェイスタオルで包み、滝のような汗を拭き取った。


「ありがとう有光……撮るのやめてください」


 上級生の女子達が切るシャッター音に業を煮やすイケメンと美少年、腹立つね。


 陽太郎の仕事ぶりは見事だった。

 広大な校庭に集結した全校生徒を前に、自治会の連絡事項を連絡事項を話しきった。

 突然の指名だったのに、見事なものだった。


「瀞井君、お疲れのところ悪いけどもう一仕事頼むよ」

「は、はい」


 旗沼先輩に促され、陽太郎はふらふらと立ち上がった。

 今日の議題は夏祭りの仕事割りで、担当者は陽太郎だった。

 陽太郎が黒板の上辺いっぱいから仕事割を書いていく。


「月人君ちょっと」

「はい」


 山丹先輩がA4の紙とにらめっこしつつ、俺を呼んだ。


「桐花ちゃんって英語話せるんでしょ?」


 山丹先輩は俺を桐花の担当マネージャーか何かと思っているんだろうか。


「いえ、話せませんけど」

「え!? 何言ってんの!? 話せるよ!」


 黒板の前の陽太郎が慌てて否定した。


「だってあいつ留学生と一言もしゃべれなかっただろ」

「突然話しかけられてびっくりしただけだよ!」


 桐花から理不尽な怒りをぶつけられているせいか、どうも桐花の話題になると気分が刺々しくなってしまう。

 でも、多江と話したことについては相談したかった。なんなんだこの気分は。


「なら、英語はできるけど難ありってことでいいよね?」

「まぁ、はい」


 山丹先輩は陽太郎の横に立って何かを話しかけていた。

 すごい身長差だ。


 陽太郎が各役職を記載した最後に、もう一つ役職を書いた。


「通訳?」


 思わず口に出してしまった。

 今の俺の台詞、CM前の引きみたいでゾクゾクしてしまう。

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