第2話『ミック』

「キミタチは今から一時間以内に脱出しないと全員死にます!」

その笑顔のキャラクターは、元気よくそう言った。


僕らは、その言葉に静まり返った。


と思ったのは一瞬だけだった。


「よし!割ろう!」

と、陸上部の沢谷さんが言いながら、テクテクとそのタブレットに向かっていく。

その顔に笑みは一切ない。

笑うとめちゃくちゃ可愛いのだけどね、沢谷さん。


「え?なに?なに?」

と、タブレットの中の笑顔のキャラクターが戸惑っていた。

彼に物理的な手足はないので、ただ画面の中で慌てている。


沢谷さんは全くその声に耳をかさず、両手でガシっとつかむ。

そして、水平に持ったタブレットを振り上げた。

膝に当てて半分に割る気だろう。


彼女はマジでやる。

彼女に躊躇というものはない。

判断の速さが半端ないのだ。


そして、さらに一瞬振り上げ。



タブレットを振り下ろした。



その瞬間僕が膝とタブレットの間に挟まっていた。


痛い痛い痛い。


そう、僕は膝とタブレットの間に挟まる形でその行為を阻止したのだった。


彼女の判断はとてつもなく速い。速いが。

この場面で、躊躇なく判断してもらってはこまる。


「ちょ!!コウ!!何するのよ!!」

と、全く一ミリも悪びれずに、陸上部の沢谷さんは言った。


そして、僕は女子高生の膝蹴りを浴びて、床に倒れた。

一部のマニアは羨ましがられるとこだろう。

マジで痛いけど・・・。


と、倒れる僕を見てバックステップをする。

え?なんで?と思った瞬間


「スカート覗く気でしょ!!」と言った。

むちゃくちゃなことを言う沢谷さん。


倒れたのあなたのせいなんですけど・・・。

こんなむちゃくちゃな話があるのだろうか・・・。

美少女じゃなかったら大変な事になっているぞ・・・。


「やりたい放題か・・・」

と僕は沢谷さんに言った。


「不可抗力を装ってセクハラするのが一番悪質よね!」

と沢谷さんは言って笑った。


「言いたい放題、やりたい放題過ぎるでしょ!」

と笑いながら言いつつ、スクッと僕は立ち上がった。


「とりあえず、タブレット貸してもらっていい?」

と僕は、僕が救ったタブレットを沢谷さんに渡すよう促した。


「しょうがないわね・・・」

と沢谷さんがいいながら、僕にタブレットを渡す。

すると、タブレットから大きな声が響いた。


「ちょちょちょ!!こんなことってある??」

と画面の中のキャラクターは言った。


「ちょっと、声大きいよ!」

と僕は言った。慌てるキャラクターの抗議を真面目に聞く気はなかった。


「こんなかわいいキャラクターの話を聞かずにいきなり、割ろうとする人なんて初めてみたよ」

と、まくし立てる、自分で自分のことを可愛いというキャラクター。


「ということは、こういうのは初めてじゃないのね?」

と図書委員の佐倉さんは言った。

そのどうでもいいやり取りの中の『はじめてみた』という単語を聞き逃さない、如月さん。

クール美少女だ。とてもかわいい。


「ご名答!」

と溢れんばかりの笑顔で答えるキャラクター。


「そのまえに、僕のことはミックって読んでもらえるかい?」

とそのキャラクターは言った。

ミックは細かい注文をつけてきた。

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脱出教室 なかの @nakano

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