噛みついたもの

「霊感ってある?」


 首を振った私に、同僚は続けた。


「うん、私もないと思ってたんだけどね… まあ、大した話じゃないんだけど…」




 以下、同僚の話。

 半年前、友達の家に居候していた頃のこと。その日は友人が仕事で不在だったため、同僚は1人で眠っていた。暑苦しい夜だった。

 



 と。


 がぶっ


 唐突に手首に痛みが走り、目が覚めた。

 頭を起こして腕を見た。


 狐がいた。

 オレンジ色っぽい毛皮の、小型犬ほどのサイズの狐。それが手首に牙を立てているのが、夜の闇の中で妙にはっきりと見えた。


 いやいや、狐って。いくら山中にある家だからって…


 寝起きで若干ボーっとした頭でそう考えながらも、重くなる瞼にあらがえず再び眠りに落ちた。




 翌朝、起床して手首を確認したが傷も痛みもなかった。

 夢だったのだろうと、帰宅した友人に笑い話のノリで話した。


 すると、友人が思い出したように言った。


「そう言えば、昨日夜職場の窓から道路を眺めてたら狐が歩いてたんだよ。すぐ視界から外れちゃったけどさ。あんな車がびゅんびゅん行きかうところで何してたんだろう?」




 それを聞いた途端、同僚は「その狐、轢かれて死んだんだ。死んだ後、私のところに来たんだ」と思ったそうだ。


 もちろん何の根拠もない。

 なぜ友人ではなく、自分のところに来たのかも分からない。

 だが、なぜかそう確信した。

 


 

「だから、自覚はなかったけど、もしかしたら私って霊感あるのかもしれないなーって思って…




 で、なんでこんな話したかっていうと、この会社、たまに2階になんかいる気配がするんだよね。物音がしたから急いで行ってみても誰もいなかったりとかするの」

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