傘の向こう

雨の日、傘をさして歩いていた。

周りの人達もみんな傘をさしていた。


ふと気付いた。

前から来る人の傘の生地の部分。

そこに、ガリガリにやせた赤ん坊のような何かがはりついている。

すれ違いざまに見たら、それは怒りをたたえた表情で生地を睨んでいた。

いや、もしかしたら生地を通り越して下にいる傘の持ち主を睨んでいたのかもしれない。


辺りを見回してみた。

誰も気付いていないようだったが、大多数の人の傘に、あの赤ん坊のような何かがいた。

透明なビニール傘にはついていないようだった。

じゃあ、ビニール傘じゃない私の傘にも…?

見上げた生地には、小さな影が映っていた。


疲れているのかと一度目を閉じ、再び開いた。

何か達は消え去っていた。

いや、見えなくなっただけなのかもしれなかった。


気のせいなんだろうとは思う。

だけどそれ以来、ずっとビニール傘を使っている。

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