隣の咳嗽

金曜21時頃、満員電車にて。



ケホッ ケホッ


(あー前の席空いた。やっと座れる…)ボスッ


コホッ コホッ


(今週は本当疲れた…)


ゴホッ ゴホッ


(さっさと帰って泥のように眠ろう…)


ゴホン ゴホン


(…そう言えば、左隣に座ってる女の人、さっきからずっと咳してるな)


ゲホン ゲホン


(風邪かな。最近急に寒くなってきたもんなぁ。無理もない)


ゲホン ゲホン


(マスクもしないで、手で押さえてるだけだから、本当に今日思いがけず引いちゃった感じかな。何にせよお大事に)


ゲホン ゲホン


(そう言えば、あのレポートの提出期限って来週だっけ?後で確認しておかないと…)


ゲホン! ゲホン! ゲホン!


(…)


ゲホン! ゲホン! ゲホン! ゲホン! ゲホン! ゲホン! ゲホン! ゲホン! ゲホン!


(ちょっと…流石にヤバくない?顔赤くなってるし…。声掛けて背中さするだけでもした方が…)


ゲオッ! ⁉︎ …ズリュッ。


(⁉︎ ⁉︎ ⁉︎ ⁉︎ ⁉︎ ………………い、いや、私は何も見てませんよ。うん、何も見てません。一際大きな咳をした勢いで、押さえていた手をはねのけるように、赤黒いぬるぬるした腸っぽい内臓が口から飛び出してきた瞬間なんて全く見てませんよ。胸の下辺りまで一気にドバッと結構な量出たところなんて見てません。彼女がめっちゃ焦った顔して、内臓を即吸い込んで体内に戻したのも見てません。本当に!)


……………


(本人も呆然とした顔してるよ…。周りの人達、誰も吃驚してないから気付いたのは私だけみたい…。って、いやいや!気付かなかったんだけどね!)


……………


(そう言えば、驚いたら咳止まったみたいだね。良かったね!あ、これはこれで良くないね…)


その後も、彼女は咳をすることはありませんでしたが、左手で胸を押さえて放心状態になっていました。なんとなく話し掛けられないまま、私は自宅がある次の駅で下車してしまいました。彼女、色んな意味で大丈夫だったかな…。

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