伸ばす理由

 僕のゼミの友人、神山は男だけど髪が長い。膝あたりまである。


 ある日、ゼミ室で2人だけで隣同士の席に座ってだべっていた時に訊いてみた。


 「お前ってさ、なんでそんなに髪伸ばしてるの?」


 すると神山は、いつもの人のよさそうな笑みを浮かべて、「ん?それはね」と言って椅子から立ち上がった。僕も思わずつられて立ち上がりそうになったが、神山に手で「座ってて」と制されたのでやめた。

 神山はそのまま僕の後ろに立った。僕が振り向いて彼を見上げると「前向いて」と言われたので向き直った。


 不意に、首全体に違和感が現れた。さらさらとした感触の何かが当たっている。いや、巻き付いている。巻き付く力が徐々に強くなってきている。

 首を絞められている、と気づくのに随分時間を要した気がした。

 そうか、この感触は髪か。


 意識が薄れていく中、最後に、神山の声が笑いながらこう言ったのが聞こえた。


 「だってこうやって使えて便利じゃん?」





 「まさか彼が殺されるなんて…まだ信じられません」


 涙ぐみながらテレビのインタビューにそう答える神山の髪は、肩にも届かないほど短くなっていた。

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