14章 グローバル・インターナショナルの飛躍』

 オイルショックを乗り切った島崎広敏のグローバルは、島崎を社長として第2期の創業期に入った。社名も『グローバル・インターナショナル』に変えた。人によっては「二つともおんなじ意味やおまへんか」と云う人も、「世界が二つとは結構ですなぁー」と云う人もあった。島崎はそんなことには構っていなかった。1980年までの5カ年で年商3倍の3百億、神戸を代表するアパレル企業になることを目標とした。

 自然に大きくなるでは何かあった時には弱い。目標を立て、それを達成するためにはどうするか、数字を作るには数字を追うだけでは出来ない。体質をどう変えるか。量を作るには質を変えなければならない、量は質を既定する。弁証法である。「哲学も商売も一緒やなぁー」が実感であった。


「やっぱり、本は読まんとあかん。なぁー竹野」

社長になった途端、「哲学」とか「弁証法」とかどないなってるんやと、竹野は思った。

「それより、社長、あんな土地買って、ビル建てて大丈夫ですか?」

 創業の下山手通の40坪は二人の住居ではなく、倉庫代わりになっていた。近くのビルを借りたが、手狭で作業効率が悪かった。その分、余分な人件費の無駄も発生した。そんな折に、磯辺のバッティングセンターの土地を買わないかと云う話が銀行から持ち込まれた。

 元プロ野球選手だった人物がやっていたが、最近利用者も少なくなり、ゴルフの練習場にするには小さ過ぎて、資金のいることもあって、売り急いでいると云うのであった。磯辺から磯上にかけての辺は倉庫街であった。でも貿易センタービル*も出来、近辺は表情を変えようとしていた。何より三宮に近い。

 

 木戸会長も入れての銀行の担当者の説明はこうだった。

「借りるより買いなはれ、土地は下がりまへん。あのへんは確実に上がります。神戸市が貿易センタービルを建てたのは、あの辺を倉庫街でなく開発しょうと云う現れです。土地は担保になります。値上がり分は含みになります。この含み分を含んでお金をお貸ししょうと云う話です。建物はその分で建ちます。家賃は要りません。その分を金利や返済に当ててください。会社には必ず資産は要ります。おいしい話は将来性ある分野か企業にしかいたしません。私らはファッション産業を買っています。何時までも川重や三菱に頼っていては神戸の先がおまへん。銀行は金を貸す商売です。どっかに借りて貰わんと生きていかれまへん」

 大きな金額の買い物だったが、担当者の話には説得力があった。木戸も島崎も決心した。レンガ造り風タイル張りの本社ビルが磯辺に完成した。地下1階駐車場、1階出荷場、2階ショールーム、3階、4階、事務所、5階企画室と役員室、6階社員食堂と独身社員寮。5階建ての予定だったが、6階は木戸会長のたっての希望だった。島崎と竹野は下山手の共同生活時代を思い出して感無量であった。

 

新本社落成にあたる挨拶で島崎は次なる課題を指摘した。

1 布帛ブランドの充実

2 多ブランド化の推進

3 東京支店の開設

4 パートナーショップ

5 直営店を持って小売ノウハウを習得する。

の五つであった。数字よりこれらを実現したときに売上300億は自然と達成出来るであろうと言うことであった。

 1、2はとりもなおさず商品の充実であり、3は営業力の拡大強化であり、4はグローバル流のFCであった。グローバルの取引先は品揃え専門店より発している。100%のFCより、3割程度の他社取り扱いを認め、小売店のトータル売上を落とさないやり方で、これは取り引き先専門店に概ね歓迎された。7割程度に達した店をパートナーショップとして、取引条件等を優遇した。5は銀座と三宮にフラッグ店を作りこれらの課題を順次達成し、1980年には売上目標を達成した。神戸では押しも、押されぬアパレルとなったのである。


注釈と資料

貿易センタービル:1969年(昭和44年)、霞が関ビルディングに次いで日本で2棟目に竣工した、高さ100mを越す高層ビルである。神戸における高層ビルの幕開けであった。阪神・淡路大震災においては震度7のエリアに在りながら、構造への被害は皆無であった。


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