小さなエルフと魔導陣師への誘い 3

「ほんっとドワーフって野蛮よね! 図書館で丼飯どか食いしてるくせに人の事言えるのかしら!」


 エルフの少女は地下4階から目的の壁を見下ろしながら、自身の傍若無人ぶりを棚に置いてドワーフにプリプリ憤慨している。


「サラも大概だよ! 僕は何も悪くないのに〜! それも置いて行っちゃうし!」


 脳が割れるほどの衝撃に耐えながら命からがらドワーフの男から逃げた比呂彦は、理不尽な制裁に対する不満をサラにぶつけた。


「あら。悪事を見逃す事はそれはそれはいけない事よ。それに超希少種のハイエルフのさらに珍しい子供をあんなひどい目に会わす気? それはとてつもなくいけない事よ」


「僕だって希少種だよ! あー。タンコブ出来てきた!」


 両手でタンコブが出来た部分を抑えながらサラに抗議の視線を送る。


「でもあなた達最近人口の増加を図ってるじゃない。何を企んでるか知らないけど。ンフフ」


 確かに比呂彦が生まれる数年前から子供の出生率が上がっていた。それは小等部でも顕著に良く見て取れる。学年が下がるにつれて人数が増えており、数年前に増築したばかりなのだが既に新しい増築案が校舎のいたるところに貼られている。


「ほら。無駄話はこれまでよ! 本題に移りましょう」


 自ら話の軌道修正をするほど好奇心を抑えきれない様子のエルフの少女は、意気揚々と扉の奥への侵入計画を俺に告げた。


「あなたのすべき事は一つ! 壁の内部調査よ」


「えー! 無理だよ。そもそもどうやって入るの?」


「ンフフ私ハイエルフなのよ? 魔法くらい簡単に使えちゃうんだから」


 手の甲を腰に当てエッヘンとその筋の通った美しい鼻を高々とさせている。


「作戦を発表するわね。作戦名「アトノミー・オブ・ア・シークレットアート」、通称AOC作戦よ。まず、あなたもちろん館員が魔導人形という事は知ってるでしょうね。え? 知らない? ンフフわかったわ。この、なんでも知ってる賢いサラ師匠が教えてあげる!」


 魔導人形とは魔力で動く人形の事である。人型という事もあり様々な行動を可能としている。基本的には家事やお店の従業員代わり、街の警備や景観の維持など公私ともにたくさん普及している。が、魔導人形は元々軍事目的で造られたものである。

 

 先の戦争で魔導人形が圧倒的戦闘力を誇ってしまい、数々の批判の嵐が直撃した。そこで、非戦闘用の魔導人形を日常に溶け込ませることで批判の鎮圧を図ったという経緯である。

 

 しかし、一度世間を揺るがす大事件が起こる。街で、ある魔導人形が突然暴れ出したのだ。非戦闘用の魔導人形はある一定以上の出力を出せないようにプログラムされているのだが、そのプログラムを書き換えられてしまい街やそこに住む者たちを殺戮し始めたのだ。

 

 この時の魔導人形における「非戦闘用」たる所以はプログラム上でしかなく、その躯体は兵器の搭載こそされてはいないが、それ以外は戦闘用と同じであった。

 

 それ以降は魔導人形の躯体も非戦闘用となり、セキュリティーも強化され魔力も無供給状態ならば半日で起動停止する仕様に変わった。そして、既に造られた魔導人形は即刻破棄となったが、一部の地域で大量の魔導人形が喪失したり、盗難されたと偽って隠し持ったり、裏で高値で売買されている状態にある。

 

 完全非戦闘用となった魔導人形はその後、多機能化という技術競争が起きたり、魔導人形が市民権を得るなど技術や倫理の進化に貢献している。


「ということよ」


「そ..そうなんだ」


 まだ本題にも入っていないのに既にクラクラとしている比呂彦に構わず話を続ける。


「で、館員の魔導人形の特徴はサーチ能力がとても高い事よ。それも大魔導図書館の館員となればなおさらね。でもね、私の魔法をもってすればその程度の感知能力、なんて事はないわ。びっくりしないでよね」


 そう言うとサラは、比呂彦と一定の距離をおいて両手を胸の所で組み、瞼を閉じた後、透き通る声で詠唱を始めた。しかし、声の内容を聞こうとするともやがかかって聞き取れない。

 

 軽く瞼を閉じて小さな声で呟くサラは、本当にエルフなのだと実感できるほどの説得力があった。


 詠唱が始まってからサラの透き通った白く認識しづらい身体が更に認識困難になっていく。


 そしてサラの体が次第に無くなり始め、完全に消えた。


 その瞬間


 ビィィィィィーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!


「図書法第6章24条の2に該当する魔法を検知。図書館を緊急に閉鎖します。第1次厳戒態勢に移ります。館員が調査しますので、調査終了までお越しの皆様はその場で待機してください」


 大樹で出来た図書館の、窓の機能を果たしていた太い樹々の合間に樹液の膜が満たされた。館内は一瞬にして暗くなったが、光源が定かではない煌きによって光を取り戻した。


「.........。ね!」


 冷汗をかきながらも気丈に振る舞う。


「『ね』じゃないよー!!!」


 魔法で透明な状態になったサラだったが、照明の光に何か魔法がかかっているのか光が当たる頭の方だけ姿が見えるようになっていた。


「とりあえずここを離れましょう! その前に魔力の因子を消さないと。ってそんな時間もないわね。早くいきましょ」


 サラは自身にかけた魔法を解いた後、比呂彦の左腕をサッと掴み周りの状況を確認した後、しなやかな動きでその場を後にした。

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持たざる万能魔導陣師 水戸 松平 @hutter

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