第5話 

 あの大役から2ヶ月。私の日常はガラリと変わった。

 上辺だけの友達がたくさんいた私に、友達…というか仲間?みたいな子達ができた。

 アリスに椎花にひーちゃんコト、雨音密。

 みんな私の大切な仲間だ。

 あの日帰りの車の中で雨音達が何をしてるかざっと教えてもらた。

 削除屋なる裏家業をおこなっていること、アリスはあの辺一体を治めていた任侠一家の生き残りで抗争に巻き込まれて家族を失い、体の自由も失った事。椎花も同じような境遇で、実は今の両親は本当の親ではないらしい。

 雨音も…両親を目の前で殺されて…雨音は両親に抱きしめられ守られたおかげで今生きている…。彼女の目の前で両親は重なり合うようにして撃たれ、そして死んだ。

両親からの最後の言葉は「死んだふりをしなさい」だったそうだ…。


 そんな重く深い過去を抱えた彼女たちはある「目的」を持って、この仕事をしている。


 私はまだ…深い事情を知らない。


 ぼんやりと目的もなく生きてきた私。

 用意されたレールを歩くだけで私の人生は平均点を取れただろう。

 でも…それでは面白くない。


 今私の目の前には深く暗い未知なる穴が開いている。

 その穴の底には…覗き込んだ者を捕らえて決して離さない、蠱惑的な色の別な世界が蠢いている。覗いたらもう戻れない。その穴の深淵を私は覗いてみたいと思ったのだ。


 私はもう…その色に…世界に捕らわれている。

 元の「日常」にはもう――戻れない。


「ねぇ、私さーみんなにあえて幸せだよぉー?」

 銃の整備をしながら唐突にそう言うと、柔らかな笑顔で椎花が「私もですよ?理央子ちゃん。」そう言ってくれた。

 雨音は自分の武器である高出力スタンガンの調整をしながら、横目で私を流し見る。

『リオコのそう言う唐突な所、嫌いじゃないわ』アリスが柔らかい顔でそう言った。


 一人では怖い穴の底も、みんなで覗けば怖くない。


 私は今日も、この少し変わった「日常」を生きている。

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平穏に見えるこの日常で @delorean8330

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