第25話 ナイフを探せ③
雨の日も、風の日も、雪の日も、ソーチョーは毎朝必ずゴミ拾いをした。何も可笑しなことでは無い。犬を飼っていれば、散歩をする。それと幾分も変わらないと彼は思っているのだから。でも、ゴミを集めて、分別して、排出する。これをすることが本当に彼の目的なのだろうか。もっとその先に何かがあるのではないだろうか。
歩いていると、足元でカランという軽やかな音が響き渡る。そこには空き缶が転がっており、どうやら蹴飛ばしてしまったようだ。
「危うく、見逃すところだった」
心ここにあらずなのか、彼はゴミ拾いをしていながら、目の前の大きなゴミに気づかなかったらしい。
彼はそれを拾い上げるが、まるで水が滑り落ちていくように、手から落としてしまった。高い位置から落とされたそれは、先ほどのかろやかな音とは程遠いような、耳が痛くなる甲高い音を響かせた。
彼は、拾い上げたほうの手を胸の前で静止した状態で、真っ直ぐに伸びる目の前の道を見据えていた。
そこには、一つの人影があった。確かに、空き缶を拾い上げるまでは、なかったのだ。ちょうど太陽が顔を出したばかりで、嫌がらせのように浴びせる光で、ソーチョーは目を細める、手で顔を覆うようにして光を遮った。
「何のようだ......」
そう言うと、ソーチョーはゆっくりと覆っていた顔を現していった。眩しさで直視は出来ないらしく俯き加減であるが、下から睨み付ける瞳には、獲物を狙うような怪しげな光が宿っていることが確認できる。
「
髭を蓄え、よれよれのスーツに身を包んだ男は、一気にまくし立てると、ソーチョーに向かい指を指した。
「矢田
ソーチョーは未だに、男の顔を直視できないにも関わらず、男は、はっきりと正面を向き、彼の顔を捉えていた。
「失踪したその日に、彼がお前の家の近くに居たことも確認されてるんだぞ」
「誰だよ、それ」
「罪悪感でも覚えたか? クズどもを集めて、養っているらしいじゃないか」
男は、居間にやって来たときと同じように、声を上げて笑いだした。
「例え、彼の親友を養おうと、お前の罪が晴れることは無い。絶対暴いてやるからな」
「妄想、激しいんだな」
「ただ捕まえるんじゃ面白くない。だから、じわじわと追い詰めてやるよ。お前の善意を踏みにじるやり方でな」
「勝手にしろ」
ソーチョーはそれだけ言うと、男に背中を向け、歩き出した。雄たけびのような意味の分からない言葉を細い背中いっぱいに浴びながらである。
「意外と早かったな」
口先だけで呟くと、ソーチョーは空を見上げた。先ほど男の後ろに広がっていた空には溢れんばかりの光が差込んでいたにも関わらず、今見上げている空は、雲に覆われ、真っ暗であった。
「黒か......」
「......はあ、笑いすぎて腹痛いわ」
叫ぶような笑い声が鳴り止んだ時には、すっかりソーチョーの姿は消えてしまっていた。
そんな時、男のスマホが愉快なメロディーを鳴らし始めた。
「はい。あー。この前はどうも。ソーチョー君と一緒に住んでいる方ですよね。連絡してくれてありがとうございます。では明日の夜7時に駅前のカフェで会いましょう。そして、彼のこと沢山お話しましょうね」
男は、満足そうな顔で会話を楽しみながら、光の中へと消えていった。
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