第5話 いびつ

一つ屋根の下で暮らす。そういった暮らしで連想されるのは、家族の温かい関係性ではないだろうか。

 心を許せる。一番の理解者。そんな人々の関係性である。


 

 ある休日の午前中。思い思いに目を覚ましたゴミ屋敷の住人達が、自然と居間に集う。


「あれ? ソーチョー居ないの?」

「どーせ、ゴミ拾いでしょ」


 しかし、そこには家主であるソーチョーの姿だけが無かった。まあ、住人達はこの光景を見慣れているようであるが。


「ただいま......」


 噂をすればというのはこういうことかと、説明できそうなタイミングで、ソーチョーはドアから顔を覗かせた。


「「「おかえり」」」


 まるで打ち合わせをしていたかのように、ぴったりと揃った声で、四人は笑い声を上げた。

 ソーチョーは、集めてきたゴミの選別などをし終えると、ソファーを占領し、ポストからとったばかりの新聞を読み始めた。ガンガンは床に座ってボーっとテレビを眺めているし、ジジは窓を開けて、庭へと出ようとしていた。


「ああ、腹減ったな。朝飯食うか」

 腹に手を当てたギンガは一人台所へと入る。時刻は11時。これは朝飯なのか。


「それ、朝飯っていうのか? でも、俺も朝からなんも食ってないから食うー」

「私も早いけど昼ご飯食べよっかなー」

 ジジとガンガンも次々と声を上げた。

 

「ソーチョーは、食う?」

 三人が声を上げたのだから、彼に聞かない訳にはいかないのだろう。ギンガが声をかけると、彼は新聞から顔を出し、「食う」と言ってコクンと頷いた。


「結局皆食うのかよ。四人分かー。仕方ないな、作ってやるよ」


 ギンガは文句を言いつつも、どこか嬉しげな表情をしていた。手際よく作ろうともせず、時折会話をはさみながら、ゆったりと料理が進んでい た。


「「「「いただきます」」」」


 結局、食べ始めたのは12時半ごろで、完全にお昼ご飯となっていた。食卓を囲む姿を見ると、家族のように見えてきてしまうのが不思議である。


一人一人に用意されたオムライス。濃いめに味付けされたケチャップライスを、フワフワの卵が包み込むと、マイルドな甘さが口に広がる。

 

 家族とは少し違うけれど、とても楽しげな休日の一コマである。しかし、少し覗いた程度では分からないのだ。この屋敷の住民の関係性なんて、判るわけが無い。


「それで、店長がさー」

 食事の時にも話はつきない。些細なことが次々と食卓を飛び交う。


「ねえ、ソーチョー? 今日はどんなゴミを拾ったの?」

「......」


 ガンガンが彼に問いかけるが、彼は何も答えない。目の前にある食べ物を無くすことだけに集中しているようである。そして、他の二人も先ほどのうるささが嘘であったかのように、ピタリと会話を止めてしまった。


「えーっと。聞こえなかったのかな? ゴミ拾いどうだった?」

 流石に静寂に耐えられなかったようで、ギンガがたまらずに声を上げた。


「うーん? 特に変わったものは落ちてなかったよ」

「ああ、そっか。そういえばさー」


 ギンガは不自然に会話を終わらせ、再びたわいも無い会話は始まっていた。



 ちょっと見ただけでは気づかない。しかし、この屋敷は、ずーっと前から、どこかいびつだったんだ。

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