第15話/キレてしまう設定

第15話


 お説教なんて勘弁なわけで、急いで向かったのは―――。


「遅いですよ」

「スリッパだから仕方ないだろ」


 俺は強い日差しに目を細めながら、汗の伝う首筋に手うちわで風を送りつけた。


(お説教なんて勘弁だが……この子から有益な情報を聞き出せるかもしれない)


 この世界の俺について何か知っていそうな予感がする。

 現時点で確かなことは、俺が平凡な学生ではないことだ。


「まだ乾いてなかったんですか。

「え?……あぁ、そうだ」


 思い出して頷く俺。

 どうやら奇姫との会話も盗み聞きされていたらしい。

 

(うーん……それだけこの俺が、憑々谷子童が好きってことか)


 実は屋上に呼んだのもお説教じゃなくて告白のためだったりするのだろうか(期待)。


「憑々谷君」

「お、おう!?」

「なぜ姿勢を正すのですか? まぁいいですけど。……君は半ば脅迫だったとはいえ、奇姫の指示に従ってはならなかったんです」

「指示……?」

「先ほども言いましたが、武闘大会へのエントリーですよ」


 トピアが屋上の手摺に近づいていく。


「……昨日はエントリー受付の最終日。その日までであればエントリーのキャンセルも可能でした。つまり、君は駆け込みをしたんですよ」

「え。ちょっと待ってくれ、昨日だって?」

「はい。しかしなぜ今度は首を傾げるのですか?」


 それは意外だからだ。エントリーした日が昨日だったなんて。アリスパパとの死闘からだいぶ経ったように思う。一週間寝てたと言われたら信じ込んでしまうかもしれないくらいに。


(それに昨日、俺は巨大な岩石に押し潰されて死んだはずだ。なのにこうして生きてる。まぁ著者が俺の死をなかったことに改変したんだろう。だとしたら彼女は―――)


「……いや。奇姫がどうなったのか知りたくてな」

「ずっと寝込んでますよ」

「え?」


 俺は目を点にした。奇姫が……寝込んでいる?


「はい。君が酸欠で倒れた後、あの子はパニックに陥りながらも君に心臓マッサージと……人工呼吸を行ったみたいです。正しい行動とはいえ、君と唇を重ねた事実をまだ受け止められずにいるのでしょう」

「……嘘だろ?」

「本当です。わたしが直接聞きましたから」

「…………」


 思わず手を口元に添える俺。


(えっ、てことは俺、初チューはアイツと!?)


 相手は美少女だ。それなのに初チューできて全然嬉しくないのだが。だって俺その時の記憶ないし。アイツの唇の感触なんて残ってるわけないし。

 くそ、すごいガッカリだ。俺も彼女と同じで無視できそうにない……。


「さて、話を戻しましょう」


 落胆の色を隠せない俺に構わず、トピアが続ける。


「君が大会エントリーの駆け込みをしたので、組織は今大慌ての状態です。いかにして君を棄権させるのか。その策を練っているのですよ」

「待て。組織ってのはなんだ?」

「知らないとは言わせませんよ。……異能力による犯罪を異能力をもって取り締まる、特殊部隊です」


 知らない……。

 な、何だよ、俺はこの世界の警察に目をつけられてるのか?

 ど、どういうことなんだ……。




「被害者面はやめてください。君だって自覚はあるはずです。君は……であると」




 ……!? 

 は、ははは! さすがにその設定はキレてしまうな!?


「い、いきなり何を根拠に言ってるんだ!? 俺が実際に国一つ滅ぼしたってのか? 違うだろ! だったら俺は今牢屋の中にいるはずだ! のんきに学生生活していられるはずがない!」

「はい、君の言う通りです。わたしも社会から永遠に隔離すべきではと、散々社内会議で意見しているのですが……」

「まともな意見!?」


 トピアは強硬派か! そして敵キャラなのか! 

 い、いや冷静になれ俺。まだそうと決まったわけじゃない。


「というかお前、学生なのに警察官なんだな。ラノベじゃありそうな設定だけど」

「ラノベ?……まぁとにかく、君が危険人物であることは間違いありませんよ。入学後の精密検査で君の異能力値はメチャクチャだったんですし」

「メチャクチャって言うなよ……。具体的にどうだったんだよ……?」

「さあ? わたしは君の監視役というだけであり、君に近づいたのもそのためだけです。君のことを深く知る必要なんてありませんよ」


 それはそれでムカつく。

 まるで俺に興味がないみたいじゃないか。本当は超あるくせに。


 と、俺が奥歯を噛み締めた時、屋上に一陣の風が吹き付けた。トピアのスカートが面白くらいに捲れあがる。下着が、白地のパンツが丸見えになった。


(え! み、見えた!?)


 俺は半瞬遅れて目を逸らした。だが男の本能が彼女の下着から離れられない。

 動物の絵柄付きだった。羊っぽい顔だけどちょっと違う。

 あれはたぶん……アルパカ?


「……み、見ましたね」


 トピアは慌てたように裾を抑え、羞恥に頬を赤らめていた。

 そのヒロインっぽい一面が見られて、俺は嬉しくなった。


「なぜニヤニヤしているのですか? わたしの下着をバカにしてるんですか? いえ、そうです。そうとしか考えられません。わたしが大好きなアルパカを……嘲笑っているんです」

「いやいや、嘲笑ってなんかない」


 否定したものの俺はまだトピアの可愛い表情が見れて笑っていた。

 するとトピアはさらに頬を赤らめ、


「あぁ、いいこと思いつきました。今から君を病院送りにします。そうすれば来週末の武闘大会に君は参加できなくなりますね。組織が危惧している大会での君の暴走を防げますね」

「は? お、おい?」


 こちらに歩み寄ってくるトピアから殺気が感じられ怯んでしまう俺。

 や、やばい! これは奇姫の時と同じ展開なんじゃ―――!?




「以前の手合せがわたしの実力と思わないことです。―――加速装甲ブーストアーマー、発効!」

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