第16話/思うだけ
第16話
トピアが叫ぶやいなや右腕を前に突き出した。するとその指先から光の粒子が溢れ出し彼女の体を包み込む。全ての光が力を失ったかのように消失した時、彼女の格好は制服ではなくなっていた。
「な、ん……だそれは!?」
―――それは、甲冑ほど本格的なゴツさはないものの、コスプレにしてはやり過ぎ感のある武装だった。カチューシャ型の防護ヘルメットにロングドレス型の鎧。肌の露出はほとんどないが、胸と腰のラインがくっきりと見えるので色っぽいデザインだ。
さらに右手にはSF小説で登場しそうな機能美をまとった大型銃。左手には流麗なフォルムの長剣だ。
え。まさかその
ゲームの世界みたいでカッコいい武装だった。
「どうしたんですか? こちらは戦闘態勢です。無防備でいられると逆に殺しにくいのですが」
「こ、殺し!? 病院送りじゃないのか!?」
「死人も一旦は病院に送られるかと。まぁさすがに殺しは冗談ですが。ただ―――」
骨の一本や二本は覚悟してください―――。
そう呟くと同時、トピアが猛スピードで突っ込んできた!
「って、待て! ちょっと待ってください!」
「却下します」
迷いのない長剣が俺の髪をかすめとっていった。
……は、はえええええええええええええ!?
「? なぜまだ無防備なのですか? ひょっとして君はドM?」
「なわけあるかっ、俺はSだ! ドは付かないので健全な男だ!」
ピンチなのに何を言っているんだろう俺は。
無性に悲しくなってきた。
「はい? ケン、ゼン?」
「おいジト目やめろやめてください。リアルでそれ見ると超傷つくんで」
大和先生は大人だからかジト目されても問題なかったが、トピアのような幼気な少女からのは精神ダメージがハンパなかった……(汗)。
俺が嫌がる表情を浮かべると、なぜかトピアは思案顔になった。
「なるほど……奇姫が君を疑ったのは君らしさが抜け落ちていたからですか」
「え?」
「憑々谷君。提案があります」
「て、提案?」
「はい。今度はわたしが無防備になるので、ちょっと本気でかかってきてくれませんか?」
「……え? え?」
「さあ、どうぞ」
どういうカラクリなのか、トピアは両手の武器を一瞬で消した。
どう見ても手ぶらの状態だった。
(は?……本気でかかってこい、だと? 何が狙いで武器を消したんだ?)
確かに下ろした両手には力が入っているようには見えない。彼女は完全に無防備だ。反撃する気があるようにも……見えない。
「遠慮はいりません。わたしの気が変わらない内にどうぞ」
「そ、そう言われてもだな……」
「わたしを疑っているのであれば、いいでしょう。―――
再びトピアの全身から光の粒子が溢れ、そしてまた掻き消える。制服姿に戻ったトピアは、さらになんと降参のポーズを取りながら俺に近づいてきた。
「?……なぜ何もしないのですか?」
「いやー、だってその……。……この状況で触ったら犯罪じゃないですか?」
首を傾げるトピアに、俺は内心ドキドキしながらそう告げた。
……や、そりゃ異性の体には触ってみたい。だが今はセクハラOKなんじゃなくて攻撃OKなわけで。別に、すべすべした彼女の脚を触るのは許可されていないのだ。
「この状況で触ったら、犯罪……。この状況で触ったら、犯罪……なるほど」
トピアが俺の発言を繰り返す。
噛み締めるようにゆっくりと。そして、
「―――君、憑々谷君ですけど、憑々谷君ではないですね」
核心をつかれ、俺は唖然とするしかなかった。
「そのご様子……やはりそうなのですね。奇姫は学園の保安委員です。彼女の目には君が不法侵入者に映ったようですが、あながち間違いではなかったと」
「ど、どうしてお前は気づいたんだ……?」
「ふふっ。逆に気づかない方が難しいですよ。口ぶりこそ紳士ですけど性格は残念なくらいに変態なはずですしね、憑々谷君は。セクハラの常習犯なんですよ」
「……、」
「そんな犯罪者同然の君が、どうして今更、犯罪だからといって異性の体に触れるのを嫌がるんです?」
「! そ、それは確かに」
確かに言えている。この俺がセクハラ常習犯―――トピアの知っている憑々谷子童ではない証拠になる!
「……あっ。もしや君がわたしの体に触れたがらないのは、単にわたしの体に興味がないから、だったりしますか……?」
「そ、それはない! お前の脚を……す、スリスリしてみたい!」
「えっ? 本物……!?」
「いやいや!? 俺は本物だけど本物じゃない、でたぶん合ってる合ってます!」
トピアが困惑した表情になったので俺はすかさず認めてやった。
(あぁもう、決めた!)
よし。この子には包み隠さず吐いてしまおう。俺は別世界からきた人間であり実はこの世界はラノベの世界。そして憑々谷子童やお前達は著者の創作物なのだと。
もちろん今までのありえない体験も全て教えてしまおう。
(……本当はこの世界が小説の中だなんて言うべきじゃないんだろう。けど本人達はその自覚がないはずだ。だからもう説明のために言ってしまって大丈夫だろう。信じる方がおかしいんだ)
「―――信じましょう」
「…………。え?」
やがて俺が全てを打ち明けると、トピアは意外な答えを返してきた。
「君が言ったこと、全て信じると言ったんです」
「ど、どうしてだ? 普通は信じないだろ?」
「そうですね。君だけなら信じなかったのですが」
「???」
俺が首を捻った時、再び強い風が屋上に吹き付けた。だが今回はトピアのアルパカ柄パンツは拝めなかった。彼女が神速でスカートの裾を抑えたからだ(残念)。
「……寒くなってきましたね。丁度いいです、憑々谷君。君に会わせたい子がいます」
「会わせたい子?」
「はい。次はわたしの部屋まで来てもらいますよ。女子寮の場所は……分かりませんね?」
「あ、ああ。今日まで男子寮すら分からなかったからな……」
「しょうがありません。ではわたしの体に後ろから抱き付いてください」
「はっ……!?」
「一緒に女子寮まで
「ま、マジですか……!?」
「はい。さあどうぞ」
背を向けてくるトピア。俺はゴクリと唾を呑み込みながら一歩前に出る。
えっ、本当にいいのだろうか。
カップルみたいにギュッと抱き付くことになるのだが……(動揺)。
「あ、ですがその前に」
「おわ!?」
トピアがツインテを揺らして振り返ってきた。
あまりに急だったので俺は後ろに倒れてしまった。
「うっかり忘れてましたよ。憑々谷君、まずは世界中のアルパカとアルパカ好きに謝罪してください。先ほどの嘲笑のせいで読者さんが減ったらどうしてくれるのですか?」
「お、お前は著者か。まだ俺に怒ってるんだったら素直に言えばいいだろ……」
「わたしは怒ってなどいません」
トピアがきっぱりと答える。俺は色々ツッコミたかったものの、確かに肌寒くて屋内に戻りたい思いだったので、仕方なく詫びを入れることに決めた。
「分かった分かった。ちゃんと謝ったら抱き付いてもいいんだな?」
「はい。気のせいか今全身に悪寒が走りましたが」
よし。本人から改めて許しが出た。さっさと謝って抱き付いてしまおう。
俺は咳払いする。そもそもアルパカをバカにしてはいないので、誠心誠意とはいかないが―――。
[じゃあスカートたくしあげてくれ。このままじゃアルパカご本人様に謝罪できないだろう]
……あぁ、俺もそう思う。
相手の顔を見て謝るのは万国共通の常識だろうし……。
(でもなぁ! でもなぁ! この状況じゃ思うだけなんだよ! アルパカじゃなくてトピアの下着が見たいみたいな風に聞こえるじゃないかああああ!?)
「……。憑々谷君。今の発言は君の本心からですか?」
トピアが無表情のまま訊ねてきた。
俺は慌てて「ま、まさか! これが著者の仕業なんだよ!」と理解を求めるが、
「そうですか。では著者を恨んでください。先に行って待ってますので、全力で女子寮を探し回ってください、この変態」
トピアが俺の前から消えたのだった……。
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