第276話/四面楚歌
第276話
アリスと情報交換をして、様々なことが分かってきた。
「あたしがこの世界に転移したのは三週間くらい前だお。館の前で倒れてたみたいで。ゆりが保護してくれたんだよねん」
「また行き倒れか……」
前の時はトピアがアリスを保護してくれた。彼女もそうだがゆりも不審人物だと疑わなかったのだろうか。まぁ行き倒れを無視できる人の方が少ないか。
「ゆり達とはすぐに打ち解けてさー。元魔法少女だって打ち明けられるのも早かったよん。で、あたしには寝泊まりする場所を提供する代わりに、家事を手伝ってほしいって頼まれた」
「家事が大変なのか」
「まぁねー、この館にはあたし含めても五人しか住んでないし」
「五人? ってことは魔法少女は四人なのか?」
「そだよん。ゆり、つばき、すみれ、ひまわりの四人」
「覚えやすいな」
全員名前が花とは。仲良しそうな印象で微笑ましい。
俺もそちら側……魔法少女になりたかったかもしれない(裏山)。
「あははー、ツっきんは無理っしょ。キモいもん」
「……確かに男がやるとキモいな。けどお前も魔法少女の役じゃないだろ」
「あたしはいつでも神様役だしねー!」
えっへん! と無い胸を張るアリス。……こいつはまだ家事雑用役だと自覚がないらしい。まぁいずれ気づくだろう。
「俺もゆりから魔法少女を辞めたと聞いたんだが。お前は何か知ってたか?」
「さあねー」
「さあって……気にならなかったのか?」
ならばこの三週間、アリスはゆり達とただ生活していただけになるのだが……。
学校も行ってないのだし……。
「んとねー、ツっきんと違ってみんなの思考は読めないんだけどさ」
「著者の創作キャラだからだよな」
「うん。でさ、あたしでも空気読んじゃうかなって」
「?」
「何にも話さないんだよね。魔法少女の話。あたしに辞めたとだけしか言わなかった。たぶんみんな口に出せないくらい思い詰めてるんだと思う」
「……なるほど」
空気の読めないアリスですら聞けなかったのだから、辞めた理由はかなり深刻なものだと推察できる。この世界も全然楽じゃないな(鬱)。
「ツっきんはゆりに会ったんだっけ?」
「ああ。外で犬に襲われてな。その時ゆりが俺を助けてくれたらしい」
「ふぅん……ツっきんが館にいたのはそゆことか」
「そゆことだ。だが俺は、堂々と館の中を歩き回ることができない」
「どして? ツっきんはマスコット役なんでしょ?」
「ゆり曰く、俺は館を追い出された身らしい」
まだ情報が少なすぎるので何とも言えない。
だが仮に今、俺が館を何食わぬ顔で徘徊していたら半殺しにされる可能性が高い。
「ツっきんが悪いことしたの?」
「らしいな。ゆり達が魔法少女辞めたのと関係ありそうだ」
つまり俺は……悪役だ。魔法少女の力を授けた後、俺の信用が地に落ちるほどの深刻な『何か』があった。
だからゆり達は俺を追放して魔法少女を辞めた―――。
「じゃあツっきん、最初からバッドエンドじゃん」
「だな……」
「どーすんのさ?」
「それは……やっぱり会うしかないだろう……?」
言って俺は寒気がしてきた。さっきまでの暑さが嘘のようだ。
嫌でも想像できてしまう。魔法少女達の前に姿を現すその時を。
寒気がしてたまらない……その殺意のこもった反応を(畏怖)。
「会うのは全員が揃っている時……! かつ、全員の機嫌が最高の時だ……!」
「すんごい念の入れようじゃん。でも四面バカだし仕方ないかー」
「四面楚歌だバカ」
どう間違えたらそんな低劣な造語になるのか。登場人物全員バカとでも言いたいのか。できることならこいつの頭の中を解析してみたくなった。
「……四面楚歌の状況を打開するための方法は一つしかない。すでに良好な関係を築いているお前が、魔法少女達のご機嫌取りをするんだ」
「さーてと! ゲームしよー!」
「頼む! 俺にはお前しかいないんだよ!」
アリスが面倒がってゲームに逃げようとするので、俺は彼女の足にしがみついた。
「んげ! ツっきんいつにも増して必死すぎじゃん!」
「そりゃこんな、こんなヤワな体じゃあ命懸けにもなるだろ!?」
俺の体を振り解こうと片足をジタバタさせるアリス。
彼女も面倒事は嫌だと必死だった。
「わ、分かった! ゆり達との仲を取り持ってくれさえすれば後は好きにしていい! 俺がこの世界を攻略し終えるまで、ゲーム三昧してろ!」
「え、それってマジ系!? 激ヤバ系じゃん!?」
「あ、ああ! だから俺の体を振り払おうとするの止めろ止めてください!」
俺は敵視されているマスコット役で序盤から大ピンチを迎えているわけだ。
アリスの協力が絶対不可欠なまさに今こそ、彼女にはやる気を出してもらわなければならない。
「よっしゃー! ばっちこーい! あたしは仕事をさっさと終わらせる超有能な神様! すぐにできぬことなどぬぁい! フハハハハハハ――!!」
「ぎゃああああああああ――――!?」
アリスが無駄に気合を入れたことによって、結局俺の体は蹴り飛ばされた……(泣)。
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