第187話/魔王が草むしりの絵が浮かぶか?

第187話


 作業員達が花摘みを卒なくこなしている時、俺とナクコは黙々と雑草取りをしていたのだが、


「あの、気になったことがあるんですけど」

「どうしたナクコ。藪から棒に」

「この草むしり、クエストの対象になるんですかね?」

「……ナクコ」

「はい?」

「それ、言っちゃダメなやつだ」


 消え入りそうな笑みを浮かべたリーダーを見て、ナクコは何かを察したらしい。


「あ! これは大人の事情だったんですね!」


 どこか嬉しそうに納得しているヌコ族。

 全然意味不明なので俺は草むしりを再開した(無視)。


(まぁ……ナクコが疑問に思うのは仕方ない)


 俺達が受注したのは王の間での『花摘み』だ。

 それなのにずっと雑草の除草をしているわけだ。

 俺だって複雑な心境になってしまう。


(それに前の勇者でもある現魔王が実際にやったのは花摘みであって草むしりではないだろ。あいつが草むしりしてたらキャラ崩壊がハンパない)


 花を摘んでいる姿も想像しにくいが……さすがに草むしりだけはありえない。

 そういう意味でも草むしりがクエストに相応しい作業とは言い難かった。


「でもこの雑草を放置してたら栽培してる植物に悪影響ですよね」

「……、そうだな」

「だからわたしは草むしりも重要な作業だと思います。摘む前のお花がすくすくと育つ環境づくりも、きっとクエストの対象になると思います!」

「ああ。だといいな」


 実に健気な意見だった。こんな悪意ゼロの意見こそが著者を自粛に追い込むのだろう。ヒツマブシも大勢の人間に囲まれながらも頑張っている。

 だから草むしりも穴掘りもクエストの対象だ(力説)!


「そういえば……キキさん達、大丈夫ですかね?」

「大丈夫じゃない」


 もはや約束されたギャグだ、王女コンビが一攫千金のチャンスで大失敗することは。


「俺は何度も引き留めたんだ。他のクエストにしたらどうだ、って。だがあいつらは歯牙にもかけなかった。まるで大金を掴んだ後みたいなテンションで笑い飛ばしてた」

「はは……ちょっと怒ってるんですね?」


 そう。だからあいつらは野宿だ。

 野宿以外にあいつらの選択肢はない。


「……人間、誰しも間違いはある。王女にも反省する時間と環境は必要だ。地ノ国から故郷に戻れないようにリーゼのゲートを使わせない。地ノ国の王城にも泊まらせない」


 というか地の王様は俺が怒らせてしまった。

 その事実を王女コンビも知っている。


「なあ。ギャンブルで無一文になった他国の王女に、救いの手を差し伸べる王様がいると思うか?」

「えっ? 無一文になったら可哀想ですし……いると思いますけど」

「俺がその王様を怒らせていたとしても?」

「お、怒らせたんですか!? それはマズイですよ! わたし達ヌコ族もツヨシ君が悪戯したせいで王様に追い回されたりしましたから! あの時は本当に怖かったですぅぅ……!」


 ナクコが涙目になっていた。

 ……萌の王様、意外と怖かったらしい。


「怒らせたら絶対無理ですね! 食べられちゃいます! キキさん達には野宿してもらうしかありません!」

「ああ了解。お前がそこまではっきり言うとは思わなかったが」


 まさかヌコ族の誰かが食べられたのか……?

 天地がひっくり返ってもその質問はしないが……(畏怖)。


「ツキシドさん! わたし安い宿でいいですからね!」

「い、いきなりどうした?」


 ナクコが草むしりをスピードアップさせていく。

 体が汚れるのも構わずネズミに飛びかかるような動きで雑草をじゃんじゃん抜いていく。


「たとえ安い宿でも、野宿よりは断然マシです! 本当はキキさんと同じで野宿なんてしたくないです! 安心安全な場所で休みたいんです!」

「あー……」

「だからもっと草むしり頑張りますっ! 草むしりをして野宿せずに済むなら、いくらでも働きますっ!」


 ナクコの必死な姿を見て気づいた。……恐らく彼女はグリーヴァに奇襲された時も相当怖かったのだろう。あれは俺だって怖かった。岩石がグール族の群れになって落ちてきて、俺達は為す術もなく捕まったのだから。


「そうだな、お前の言う通りだ。せめて寝床だけは安心安全な場所を確保すべきだ。きちんとお金を払って宿を借りよう」

「はい! ツキシドさんも記憶喪失なんですし、あんまり野宿してると悪化するかもしれませんからね!」

「お前……」


 なんて優しい子なのだろう。俺の心配までしてくれていたとは。

 記憶喪失は嘘だけに、少し心が痛んだ。


「でもその分、晩ご飯にはたくさんお金かけましょう! できればドリンクバー付きの食べ放題がいいです! 色んな物を食べればツキシドさんの記憶喪失も治りますしおすし!」

「心を痛めて損した!」


 食べ物の話に切り替わった途端、一気に胡散臭くなったとさ。

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