第188話/こんなにお金がいぱぁぁい……

第188話


 お昼時。王様から差し入れられた弁当で空腹を満たし、それから夕方まで草むしりは続いた。


 意外にも草むしりは体力を使った。しゃがんでいる状態が多いとはいえ、移動する時は屈伸運動になるし、抜いた草を一か所にまとめるために何度も重い草を運んだ。―――おかげで王様から労いの言葉をもらった時にはまた空腹になっていた。


「ツキシド殿、ナクコ殿、ヒツマブシ殿! 大変ご苦労でござった! 助かりましたぞ!」

「クエストはクリアでいいんだよな?」

「もちろんですとも! 報酬は酒場で忘れずにお受け取りくだされ! それでは強風の件も引き続きお願いしますぞ!」

「ああ、またな」

「お疲れ様でした! 摘んだお花、国民の皆さんに喜ばれるといいですね!」

「ぴゅぴゅ~ん!」


 王様からクエスト達成証をもらい、王の間を出る。

 するとそこにはリーゼロッテが事もなげに立っていた。


「皆様お疲れ様でございます、お迎えに上がりました」

「リーゼ……? お前、魔族なのにここにいて平気だったのか? 怪しまれなかったのか?」

「問題ございません。いくらでも対処可能な魔法がございますので。と言いますか、ナクコ様も魔族でございます」

「まぁそうなんだけどな。じゃあ、地ノ国に戻るとするか」

「承知いたしました」


 俺達はリーゼのゲートを使い、地ノ国の王都にある酒場へ。ナクコとヒツマブシは夜ご飯が楽しみすぎるのか歩調が弾んでいた。あれだけ働いたのに活き活きとしていた。




「「はあああああああああああああああああああああああ…………」」




 ……酒場に到着してすぐ、店内の隅にどんよりした空気を発見した。

 しかし俺は完全無視して店主に話しかける。


「おい。風の王様からクエスト達成証もらってきたぞ。早く金くれよください」

「焦らせないでください。確認しますね……達成証が三名分で……おや?」

「? どうした」

「報酬を倍額に、と書かれてありますね」

「! マジか。ラッキー」


 さすが王様、太っ腹じゃないか。きっと強風の件もあるから色をつけてくれたのだろう。このクエスト、受けて正解だったな(満足)。


「あのぅ……キキさん? アリスさん……?」

「「はあああああああああああああああああああああああ…………」」


 ナクコが活き活きとしていない残念コンビに声をかけていた。

 恐る恐るといった調子だったが、


「あ。そういえばお二人のクエストはどうだったんですか?」

「「!! うああああああああああああああああああああああ―――!?」」


 ナクコ、お前は鬼か!

 そんなの火を見るより明らかだ!


「わたくしも気になりますね。全財産を賭けると息巻いておられましたが。ギャンブルの結果はどうだったのですか?」

「「!! うああああああああああああああああああああああ―――!?」」


 リーゼ、お前は悪魔だ!

 絶対に結果分かってるくせに質問してるだろ!


「お、お前ら……」

「ぴゅ~ん……」


 王女コンビの悲鳴が生々しすぎて鳥肌が立った。

 ヒツマブシもびっくりしたのか心細く鳴いている。


「おかしい、あんなの絶対おかしいわよ……」


 キキが白目を剥きながら思い出している。

 詐欺られて負けたとでも言いたいのだろうか。


「えへへへ、こんなにお金がいぱぁぁい……」


 アリスが白目を剥きながらヨダレを垂らしている。

 現実逃避しているのだろうか。


「……。ま、お前らどんまいだったな」


 俺は一言だけ伝えてやった。確かギャンブルに勝つことが達成条件のクエストだったから、こいつらの報酬はゼロ。本当の無一文になったわけだ。


 自業自得だ。同情の余地はない。俺はちゃんと反対したし、それを笑い飛ばしていたこいつらに優しさを見せるなんてありえない(常考)。


(好きな相手なら好感度アップのために優しくするかもだけどな。残念ながら王女コンビは俺の攻略対象じゃないんでね!)


 というか、主人公の意見を笑い飛ばすヒロインを好きになる主人公なんているのだろうか。仮にいるのだとしたら、その優しすぎる主人公を好きになりそうだ。もちろん恋心ではない。


 さて。報酬もゲットできたし腹ごしらえにするか。


「ナクコ、ヒツマブシ。そろそろ腹減ってきたよな。健全なクエストを受けた俺達は食べ放題のレストランで打ち上げしよう」

「は、はい!」

「ぴゅぴゅ~ん!」

「「………………………………」」


 王女コンビが白目でこちらを見ている。無言でこちらを見つめている。

 だが何を訴えているのか分からないので無視しよう(非情)。


「リーゼ、お前はゲート使わせてくれたからな、一緒にどうだ?」

「では同席させていただきます」

「「………………………………………………………………」」


 ……さすがに凝視され続けていると無視できなくなってくる。

 やれやれ。仕方ない。


(方針を変えて今は恩を売っておくことにするか。恩を売っておくのは悪くない。相手はどちらも王女だしな)


 機会がきたら王様を通して清算してもらおう。自分の娘が俺の反対を押し切ってギャンブルで無一文になったとバラすのだ。我ながらナイスアイデア。王女コンビは猛省して俺の意見を聞くようになるはずだ。


「あー、そういや報酬が倍になったんだったなー。じゃあリーゼ以外にも奢ってやってもいいなー。…………負け犬コンビも行くか?」

「「!! 行ぐ!!」」

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