第26話/授業はほぼカット←当たり前
第26話
一限目は国語だった。
二限目は英語だった。
三限目は数学だった。
四限目は家庭科だった。
感想。授業はつまらなかったが懐かしい気分だった(以上)。
はい昼休み。さて、売店で弁当を買って自分の寮部屋に戻るとしよう。
教室で食うなんて勘弁だ。
俺は廊下に出ると、女子生徒達と話しながら歩いてくる大和先生を、虫歯を痛がってるみたいなポーズで何とかやり過ごした。
(さっき新商品のアボカド弁当が美味いって話が聞こえてきたが、さすがに気になるよな。売れ残ってたらそれにしてみるか―――)
売店は校舎の外にある。
俺は玄関で外履きに履き替え、なおも歩き続けた。
「…………。初戦で負けたら退学か……」
―――もう何度目だろうか。
だがこの物思いをきっぱり止めるのは不可能だった。
来週の武闘大会。もはやどのように転んでもろくなことにならない。
敵は異能警察と異能学園。
初戦に勝てば異能警察が、負ければ異能学園が俺を社会的に殺そうとしてくる。
どちらも又聞きなので確証はない。だからまだ半信半疑だ。
しかしこれが正真正銘ラノベであるのなら、何も起こらなかったで終わるとは考えにくい。それでは推理小説と謳っているのに事件が発生しなかったのと変わりがない。
遅かれ早かれ……俺の身には必ず、不幸と呼べる何かが降りかかってくるはず。
そしてそれを回避するためには、やはり元いた世界に戻るしかないのだと思う。
「となるとアリスに頼るしかないわけだが……できれば二人で話がしたいんだよな」
思えば昨日はあっさりし過ぎていた。せめてアリスパパとの死闘を労うべきだった。イケメン樋口なら真っ先に『お前はよくやったよ! すごい熱い闘いだったぜ!』などと褒めちぎっていることだろう……(後悔)。
俺は売店に到着する。建物の外観はまさにコンビニ。入店してみてもほぼコンビニだった。陳列棚には日用品や雑誌、加工食品が所狭しと並んでいる。売ってないのはタバコとお酒と十八禁雑誌だ。
修学旅行か何かの合間みたいに、同じ制服の生徒だらけだった。
「お。まさかのラスト一個か」
目当てのアボカド弁当を発見。薄くスライスしたアボカドが冷たいご飯の上に直にのせられている。おかずは卵焼きと唐揚げとトマト。アボカドにかけるタルタルソース付きで二百九十八円。安い。
もちろん即買いだ。残すはあと一個ってことにも運命を感じてならない。
俺はアボカド弁当を確保すべく容器の右端を掴んだ。
だがそれと同時、容器の左端を掴んだ生徒がいた。
「……ん?」
「……あら?」
思わぬハプニングに顔を横に向ける。
そこに立っていたのは紅髪の女の子―――奇姫だった。
「お、お前っ!?」「つ、憑々谷子童!?」
俺は驚きながら身を引くが、アボカド弁当は離さない。
そして見れば奇姫は頬を紅潮させ、目を右往左往させていた。
「い、いいいいいい今はあんたと話すつもりないわ! 早く消えてもらえる!?」
などと喚きつつ、俺のアボカド弁当を強引に引っ張ってくる。
「お、俺もまだお前と話すのは心の準備が……って、違う! このアボカド弁当は俺のモンだ……!」
強く引っ張り返す。
だが奇姫は負けじと応戦してきた。
「はあ? これはあ・た・しのよ! 一瞬早かったじゃないの!」
「嘘吐け! お前全然見てなかっただろ! 全く同じタイミングだった!」
「バカなの!? だったら何であんた、自分のだって威勢よく主張してんのよ!?」
む。言われてみればそうだ。
だがこのアボカド弁当は俺のモンだ!
「放しなさいよぉぉぉぉぉぉぉ!」
「お前が放しやがれぇぇぇぇぇ!」
アボカド弁当の容器の両端が完全に潰れてしまっているが、無視。
食べ物の恨みは恐ろしいのだ。これを奇姫に食われたら……俺はどうなってしまうか分からない!
と、いつまで経っても俺達がアボカド弁当を諦めないせいか、
「あの二人ラブラブねー」
「アーンし合って食えば解決なのにな」
「夫婦漫才みたいでカワイー」
「……っ!?」
野次馬が集まってしまい、彼らの声に奇姫が耳まで真っ赤になった。
恥ずかしさのあまり、アボカド弁当を手放した。
「うおっ!?」
俺は勢い余って尻餅をついてしまう。……い、痛ぇぇぇぇ!?
「つ、憑々谷子童! いいい言っておくけど『あれ』はただの人工呼吸よ!? 心肺蘇生法よ!? 気道確保よ!? き、ききききキスしてさしあげたんだから感謝なさいよ!?」
……やばい。奇姫がおかしくなりすぎててこっちの頭が一気に冷めてきた。
もうアボカド弁当とかどうでもよくなってきた。
「お、覚えておきなさい~! あたしのファーストキスだったんだからあぁぁぁ~!」
奇姫は涙を流しながら店の外へ走り去っていった。
唖然とする野次馬と俺。……うん、彼女は残念キャラだったようだ。
笑いの神様が真顔になりそうなくらい、痛いキャラだと思う。
「ん? これは……ハンカチ?」
ことここに至って彼女が落とし物をしていることに気づいた。
赤を基調とした水玉模様のシンプルなハンカチだ。
「しょうがないな……。後で大和先生に渡しておこう」
「は? 何言ってんだお前、今すぐ追って本人に渡せよ!」
見知らぬ男子生徒が俺を怒鳴りつけてきた。
するとその直後、
「そうよそうよ! 彼女泣いてたじゃん!」
「ハンカチねえと涙拭けねえだろが!」
「先生使うとか信じらんない! この臆病者!」
「仲直りのチャンスって気づけよ!」
「とか言って私物化しちゃうんでしょ? この変態!」
「部屋に持ち帰ってクンカクンカ、スーハ―スーハ―ってか?」
「超キモーい。チューしてるカンケ―でもないわー。ないわー」
「むしろハンカチ触らないで欲しいよねー。……穢れるから」
酷い言われようだった。これぞまさしくイジメだった。
まぁ女を泣かせた俺が悪者に映っても仕方ない気はするが。
「お、お前らな……」
とはいえ真面目にこのハンカチをどう処理すべきか。大和先生に渡すのは止めておこうか。本人も同じことを言ってきそうだ。
(かと言ってずっと持っていたら変態扱いされるから……今すぐ奇姫を追いかけて返すのが無難なんだろう。だけど追いかけようにもどこに行ったのか……)
と、一人の男子生徒が俺の目の前にずかずかとやって来た。
「おい、さっさと弁当買って追いかけろよ! え? どこに行ったって? そりゃあ保安委員の休憩室に決まってるだろ! 場所は第二校舎三階、視聴覚室の向かいだ!あそこにはお菓子が置いてあるから、それを昼飯代わりにする気だぞ! 言わせんな恥ずかしい!」
「いかにもなNPCだなお前!?」
しゃしゃり出てくるんじゃない! もちろん著者お前のことだ! おかげで今お前が言わせた男子生徒の存在感ハンパないぞ! 冬場の体育で一人だけ半袖短パンと良い勝負だ!
「あーくそっ! 行くよ、行けばいいんだろ!?」
俺はアボカド弁当をレジの店員に差し出して購入。レシートを貰わずそそくさと店を出た。
ちなみにその間も見ず知らずの生徒達から罵声を浴びせられていた。
(はあ……。こういう状況でもへらへら笑ってる主人公がいたりするけど、それはそれですごいなって思う……)
とてもじゃないが俺には真似できない……。
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