第168話/交際費

第168話


 部屋まで戻ると、リーゼロッテが紅茶を飲みながら俺を待っていた。


「ツキシド様。今後の予定はお決まりでしたか?」

「ああ。キキとも話してきた。イツモワールを倒そう」

「そうですか。では、わたくしもお供いたします」




 ―――爆乳サキュバス、リーゼロッテが仲間になった(プゥップルー)!!




 俺の頭の中に文章が流れ込んでくる。だが俺はそろそろだと気づいていた。

彼女がいなければグリーヴァを倒すなんて不可能だったし、彼女の加入は物語的に必須だ。


(……しかし厄介だよな。火の玉ストレートで質問してくるのもそうだが、アリスと上手くやっていけるのか……?)


 リーゼロッテは俺とアリスが恋人関係だと認識している。俺が誤解させてしまったのだ。さらにはアリスが悪ノリしたせいで、その誤解を解くのが困難になった。


(両者の仲を取り持てるのはナクコだろうな。取り持つようにお願いしたいところだが……失敗した時、泣くかもしれない……)


 ナクコには荷が重いだろう。泣いてツヨシと入れ替わられても困る。阿鼻叫喚の地獄絵図だ。となると……アリスを悪ノリしないよう黙らせるしかない。


「ですがご注意ください、ツキシド様」

「ん?」

「この国に大雪を降らせている犯人が、まだ確定しているわけではございません」

「あー……確かにな」


 ドラゴン族の本拠地を襲撃した犯人についても、それはあくまでリーゼロッテの予想に過ぎない。イツモワールやミヨーネが犯人じゃない可能性もある。


「とにかくイツモワールと会ってみないことにはな。彼女が無関係だったとしても、宝具は手に入れたいし」

「魔族の足輪ですね」

「……、足輪か……」


 ハーピー族は鳥。だから足輪なのか。あまり馴染みのない装飾品ではあるが、それも魔王を倒すためのキーアイテムであるはず。俺の今後の予定に変更はない。


「ではナクコ様達を呼んで風ノ国へ向かいますか? 直通のゲートは繋げられますが」

「いや、その前に地ノ国に行く行かせてください」

「地ノ国……ですか?」


 リーゼロッテが怪訝そうな声を上げてきたので、


「い、いや! 俺だって別に行きたいわけじゃないからな?……グール族があの後どうなったのか確認しておくべきだ。そのためには地ノ国の王様に―――」

「…………。また王女を仲間にするおつもりなのですか?」

「はっ!?」


 そ、そんなつもりはないんだが! 俺はただ、まだ見ぬ王女に会いたくてたまらないだけだ! 何て言ったって俺の嫁候補なんだしな!


「グール族の近況を確認するにしても、なぜ地ノ国の王様に頼る必要があるのですか? そしてナクコ様やわたくしがいるにもかかわらず、なぜ各国の王女を仲間にしたがるのですか?」

「うぐっ!?」

「正直にお答えください、ツキシド様」


 だ、ダメだ! 正直に答えたら俺の勇者ルートが潰される! 

 潰されてたまるかってんだ!


「り、リーゼロッテ!」

「はい」

「お前も知ってるよな。俺が現魔王の息子で、人間族とドラゴン族のハーフだってことを!」

「もちろんでございます。であるからこそ人間型のわたくしをお気に召していただけたのではないのですか?」

「そ、そうだ! 記憶はないが、たぶんそうだ!」


 ……いや、人間型というより彼女のデカパイが気に入ったんだろう。

 このデカパイに興味の湧かない男がいるのだろうか(反語)。


「デカパ……いや、人間型のお前を気に入ったんだよ。だったら、俺が人間社会を気に入っているとも思わないか?」

「…………。はあ」

「俺は地ノ国の人達が心配なんだよ。そりゃ魔族として普通じゃないかもしれないが―――」


 我ながら危ない発言だった。魔王最有力候補の俺が人間族を気にかけている。記憶喪失と知っているとはいえ、リーゼロッテが俺を不審に思わないわけがない。


「仕方ありませんね」

「え?」

「ツキシド様、地ノ国で旅支度をいたしましょう。地ノ国は物流と商業に優れておりますので。そのついででしたら構いません」

「! そ、そうだな! この国はモノ売ってる余裕ないもんな! そうしよう!」


 さすがは俺の部下だった。そろそろボロマントが辛くなってきたところだ。

 というかここまでボロマント一枚とかどんだけだよ(鬼畜)。


「ですがツキシド様」

「ん?」

「前々から思っていたのですが、ずいぶんと貧相な格好をしておられますね? もしやお金を貯めるために節約されているのですか?」

「…………」


 うん……こいつの質問に悪意はないんだろう。魔王最有力候補であるこの俺が無一文であるとは想像しにくいし。


「違う。お前は驚くかもしれないが……実は無一文なんだ」

「……、そうでしたか」

「だから金貸してくれ。いや金ください」

「お断りいたします。に使われてしまったツキシド様の自業自得ではありませんか」

「うわっ、そうくるのかー!」


 交際費だと言い切ってるあたり、彼女は貸す気ゼロなのだろう。

 こりゃ酒場でクエスト探しもすることになりそうだ……(憂鬱)。

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