第169話/同じ場所でまた起きるか?

第169話


 リーゼロッテのゲートで地ノ国の王都へ移動する。

 偶然か必然か、目の前には見慣れた佇まいの酒場があった。丁度良い。


「リーゼロッテ、ナクコ、ヒツマブシ。お前らは酒場でクエスト探しをしててくれ」

「えっ? 旅の支度をするんじゃないんですかっ?」


 聞いてない、と言いたげにナクコが指摘してくるが、


「だってお前、旅の支度をするためには金を稼ぐ必要があるだろ?」

「そ、それはそうですけど……」

「探しておくだけでいいんだ。楽そうで稼げそうなクエストをな」

「ですがツキシド様、それではまるで、―――」

「あーあーあー! こんな些細なことでギクシャクしてたら今日中に風ノ国に行けなくなるぞ!? せめて今はリーダーの指示に従ってくれ!」

「リーダー? あの、リーダーとは―――」

「んもう! リゼたんったら早速あたしとツっきんの恋路を邪魔する気なのう?」

「恋路の邪魔……? いえ、別にそのような意図は―――」

「だったら酒場にはっけよーい、残った残ったあ!」


 アリスがリーゼロッテの背後に回ると、ほぼ無理矢理に酒場へ押し込んだ。

 やはり会話の主導権はアリスが握っており、リーゼロッテは彼女に付け入る隙を見出せない様子だった。本人は単に恋人ごっこを楽しんでいるだけだろうが……ナイスだアリス。


「ぴゅ~ん……」

「あのぅ……? わたし達だけで入店しても平気なんでしょうか……?」


 ヒツマブシとナクコが不安そうだが、問題はない。


「安心しろ。酒場の店主は変人の中の変人だ。お前ら魔族やら魔物やらを喜んで迎え入れてくれる。サービスで料理をご馳走してくれるだろうよ」

「ええっ!? そんな神様みたいな方なんですかぁ!?」

「…………。そうだ」


 地味にイラっとしたがまぁいい。彼女達を王城に連れて行くわけにはいかないのだ。グール族と戦争までしていた地ノ国の人間族が、魔族や魔物に友好的であるはずがないからだ。


「分かりました! ではご飯をいただきながらクエスト探し頑張りますね!」

「あぁ、それでいい……」


 ナクコとヒツマブシも酒場に入っていった。

 その嬉しそうな姿を俺と王女コンビは見届けてから、


「……ねぇツキシド、本当にあの子達だけにさせて大丈夫なの? 嫌な予感がするんだけど」

「だよねん。著者がいるから何も起こらないわけじゃないし。実際、ナクコりんに勇者の剣盗まれたりしたじゃん」

「正確にはツヨシに盗まれたんだけどな。……でも大丈夫だ、この酒場では何も起こらない」

「はあ? 何で言い切れんのよ?」


 彼女達が眉根を寄せたので、渋々俺は説明してやることにした。


「いいか。そもそもお前らはラノベというか……創作された物語をほとんど読んだことないだろ?」

「そりゃあね」とキキ。

「もちのもち」とアリス。

「だったら考えてみろ。……?」


 舞台となる世界が狭いなら何度も起こるかもしれない。だがしかしこの世界は語るまでもなく広大だ。そう何度も全く同じ場所で異常事態が発生するとは考えにくい。


「無論だが『著者ならそうしない』ってことだ。読者は気にしないだろうが、著者ならそういう枝葉のような箇所まで気にしていると俺は予測する」

「なるっぽ。変わり映えがしないからなんだねー?」

「そうだ。例えば探偵ドラマで殺人現場が毎回男子トイレだったりするか? 普通は毎回違うだろう」

「そうかしら? 犯人がトイレフェチかもしれないじゃない」

「…………。キキさんや、お前は例え話にわざわざアンチくさいツッコミを入れてどうしたいんだ……?」


 溜息する俺。

 しかもトイレフェチって何だよ。犯人が残念キャラにさせられて可哀想だ。


「まぁいい。俺達は王城に行くぞ。王様から情報収集するんだ」

「はいはい、王女様とイチャイチャしたいのね。火ノ国があんな状況なんだし簡単に済ませなさいよ?」

「え? お、おう……」


 バレバレなのになぜか反対しないキキだった。もしかすると火ノ国の救世主になろうとしている俺に恩義を感じて態度を軟化させたのだろうか。


「ねぇキキ~。簡単にって言うけどさ、ツっきんが王女様とどんなイチャイチャなことすると思ってるのん?」

「ちょ、おま!?」

「それは……握手かしら?」

「イチャイチャが握手かよ!」


 一般的な挨拶をイチャイチャに分類するとは恐ろしい。こいつが俺の嫁になったら他の女子と目が合っただけでも浮気扱いするんだろうな!


「残念だがキキ、俺とお前ではイチャイチャの定義が違うようだ。いいか、イチャイチャってのだな―――」

「さあアリス、王城に急ぐわよ? このままだとリーダーがうるさいから」

「よよいのよい♪」


 王女コンビが俺を無視して歩き始める。……くそっ、自分勝手なヤツらめ。


「にしても……ちょっと男臭い感じの街ね?」

「その表現はあながち間違いではないかもな」


 上半身裸の男性が多く見られる街風景だった。手回し轆轤ろくろで食器を形作っている陶工、家の壁に新しい土を塗っている塗装屋、二人がかりでイノシシを運んでいる猟師などなど。―――汗水垂らして働いている肉体労働者ばかりだ。


「ふぅん、悪くないじゃん。ムキムキな男性ばかり……言うなればだねっ!」

「んなっ!? アリスが、キキの立てたフラグを回収しやがった、だと!? い、いや、でも女性だっているぞ!? ここは漢ノ国なんかじゃあないッ!」


 女性は屋内にいるようだった。たぶんあれだ、日焼けをしない方がこの国の男性にモテるとか、そういった理由なんだろう(適当)。


「うぅ、野郎共の視線が辛い……。俺を襲ってきたりしないよな……」

「まっさかー。視線が集まってるのはキキがビキニアーマーだからっしょ。露出狂の女性は珍しいんだと思うお」

「誰が露出狂よ! あと珍しさじゃなくてあたしのセクシーさに釘付けなだけでしょう! おーっほっほっほ!!」


 …………しかし、この街は競技とか賭け事が好きなのだろうか。道端では腕相撲だったり泥団子を投げ合ったり家畜レースなんてのも開催している。

 俺はこういうアナログな遊びで盛り上がったことがない。ちょっと見学してみようそうしよう。


「って、あんた何立ち止まってんのよ!? こんなところで道草食ってる暇ないでしょーが!?」

「えー。お前の大好きなギャンブルもやってるみたいだぞ? 気にならないのか?」

「……、後で時間あったらチェックしとくわ」

「チェックはするんかい……」


 キキに首根っこを掴まれてしまい、俺の見学会はすぐに打ち切りとなった。

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