第126話/王子様

第126話


 王様からアリスを貰ってくれるようにと、しつこく迫られた。

 まぁこのあたりは確実にカットされているのだろうが……俺が自力で寝室を見つけて閉じ籠ってしまうくらいにはしつこかった。


「ツキシド様、ご夕飯をお持ちしました。ここをお開けください。毒見は済ませてありますので、死ぬことはないはずです」

「死ぬ以外はあるんだな! 誰が開けるか!」

「ツキシド様、何かご不便はございませんでしょうか。ここをお開けいただければ、お望みのものもお望みでないものも差し上げられます」

「バカなのか!? 俺が望まないものを差し上げてどうすんだよ!?」

「ツキシド様、ご就寝の前にマッサージはいかがでしょう。ご安心ください、気づけば組体操みたいになっているヤツではありません」

「よし、大和先生じゃないんだな!……だからって開けるか!」


 使用人達とグルなのがバレバレだった。王様ってば必死すぎる……(呆)。

 とはいえ腹は減ってるし不便はあるしマッサージで癒されたいのが本音だった。

 フラグとしか思えない言い方じゃなければ、扉を開けていたかもしれない。


 そんなわけでさっさと寝てしまった。

 そして夜中にイベントが起こることもなく、無事に翌朝を迎えたところで。


 ドガァ! と。

 寝室の扉が吹き飛んで俺は起床したのだ(強制)。




「大変だよツっきん! キキが、キキが……っ!」




 エアキャノンを発効したのだろう。アリスが血相を変えてやって来た。


「……んあー。お前なんかイリマセンからなぁー?」

「はあ? 寝ぼけてる場合じゃないっての! キキの様子がおかしいんだよっ!」

「…………? 普段からおかしいだろ?」

「そーいうツッコミは後! いいから早く付いてきて!」


 起きたばっかで激しくダルい。

 しかしながら二度寝を始めようものならエアキャノンされるに違いない。

 渋々俺はアリスの後を追って寝室を出る。そこでふと気づいた。


「ってお前、もうセーラー服着てるのか。そんなに気に入ってるのか?」

「モチのロン。あたしが人間界で興味のあった職業の一つが、女子中高生だし」

「女子中高生は職業なのか……まぁあながち間違ってはないが」


 しかしそのセーラー服は著者からプレゼントされたものなのだが……(複雑)。


「セーラー服はね、あたしが一番欲しかったものなんだよ。だから誰から貰っても喜んで着ちゃうってわけ。分かったら急いだ急いだ!」


 アリスに急かされるが、俺は彼女の回答に一つの疑問が湧いていた。


(んん? ってことはアリスの欲しいものを著者は前もって知ってたのか? どうやって知ったんだ……?)


 無論ただの偶然であるはずがない。著者はアリスと初対面で最高のプレゼントを贈り、あっさりと良好な関係を築いた。それは恋愛ゲームで言うなら最初から攻略するヒロインを決めて行動するのと同じだ。

 セーラー服こそが彼女からの好感度を上げるのに最適なアイテム―――そうと知っていたからこそ著者は彼女に贈ったはず。ならばどうやって知った……?


「あのさぁ? ここは小説の中なんだし、著者ならあたしの欲しいものなんて簡単に調べられるっしょ。そんなの気にしてないでホント急いでちょんまげー!」

「分かった分かった」


 朝日が眩しい廊下をさらに歩くと、やがて心配そうに部屋の中を覗き込んでいる人垣を発見。この王城の関係者だろうか。


「……何だ何だ? えらくガヤガヤしてるな?」

「はいそこ退いてー! 退かないとあたしのエアキャノンが火を噴くっぽー!」


 変な脅し文句で人垣をこじ開けていく王女。

 俺も彼女に続いて部屋へと入った。


 部屋には王様と使用人の女性がいた。

 そして二人が寄り添っていたのは……ベッドでぐっすりと寝静まるキキだった。


「……おぉ、勇者ツキシド。昨日は大変すまなかったな。つい躍起になってしまった……」

「それはもういいんだが……あんたはキキの寝室で何してるんだ?」

「う、うむ。彼女を起こそうと試みているのだが……どうも起きなくてな」


 …………。起きない?


「息はちゃんとしてるんだけどさ、いくら声をかけても目を覚まさないんだよ……」

「…………ほほう」

「ねえツっきん。この原因ってやっぱり―――」

「そう、だな。考えられるとすれば一つだ」


 俺はキキの首元に視線を落とす。

 そこには蝶ネクタイ型の赤い首輪があった。


「……俺が魔族の首輪を付けさせておいた結果、キキは目を覚まさなくなった。たぶんそういうことなんだろう」

「な、何と! この首輪が宝具……! し、しかし、なぜ人間の彼女にこれを!?」

「人間力を高める効果があるらしいんで、人格矯正できるかなと」


 悪びれずサラッと王様に答える俺。

 彼女がツンデレラからデレデレラになるのを期待して付けさせたのだが。

 しかし現実はこのように……白雪姫となってしまったらしい(困惑)。


 それもどういうわけか彼女の寝ポーズはまさに眠れる白雪姫そのものだった。

 お腹の上に両手を組んで寝ている。……こんなポーズで寝る人、初めて見た。


「でもさ? 本当なら人間力が高まるはずでしょ? どゆこと?」

「と言われてもだなぁ……。……そうだな。、とか?」

「えっ、じゃあキキの人格が矯正されないように抵抗してるんだ……」


 いや、テキトーだからな? 

 まぁそれっぽい感じはしなくもないが(←ではそれで。by著者)。


「し、しかし、このまま彼女を放っておくのは心苦しい。何か起こす方法はないものか……?」


 王様が一人そう嘆いた、その直後だった。




「ああっ! 確か白雪姫って王子様がチューしたら起きるんじゃなかった? ツっきんしてみればいいんじゃない?」




「なるほど! 清々しいほどの罰ゲームだなッ!」


 俺は即座に拒否の態度を見せつけてやった。

 しかし一方のアリスは、


「でもツっきん、前の世……じゃなくて、ちょっと前に助けられたじゃん? あの時の恩返しで、してあげたらどうなの?」


 ……人工呼吸の件か。

 しかし恩返しとは笑わせる!


「あれはキキが仕掛けてきたことだろ!? 俺が感謝するはずないだろッ!」

「……、でもキキとチューしたいんでしょ?」

「分かったようにドストレートな質問に切り替えんの止めろ止めてくださいッ!」


 性格に難はあるもののキキは美少女だ。

 そしてそんな彼女の寝顔は、見ていると別人のように思えてくるのだ。

 だから彼女にチューしてみようかな、と。

 ほんの少しだが揺らいできてしまっているのが本音だった。


「そ、そうだ! 勇者よ、婚約していない相手と口付けを交わしてはダメだ! 後悔しても知らんぞ……!?」

「あぁ、王様は安堵していい。ここにいる王女コンビとは絶対にチューしない。当然だが婚約もな」


 というわけで、俺はキキの王子様役を買って出ず―――。


 するとやがて勝手に起きてきた彼女から、魔族の首輪との戦いに勝利する夢を見ていたと、何を言っているのかさっぱり分からない夢の内容を聞かされたのだった……(謎)。

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