第127話/出会い系クエスト

第127話


 寝巻からボロマントに着替え、久しぶりの食事を頂く間……。俺はキキが口にする夢の内容を聞き流していた。

 それは話がメチャクチャだから、という理由もあるのだが、というレッテルを張られずに済んだ事実に、ホッとしたい時間だったのだ(安堵)。




 だがしかし、どうして俺はこれほどまでに楽観的だったのか。

 キキが目覚めたからといって、魔族の首輪の影響を受けていないとは限らなかったのだ……。




 それはナクコが待つ地下水道へ向かう前……金稼ぎになるクエストを探すべく、酒場へ立ち寄った時のことだった。




「あたし、婚活を始めるわ」




「「…………………………………………」」


 その時、俺とアリスは無言で視線をバッティングさせ……『この王女はいきなり何を切り出してんだ……?』と意思疎通を図った。


 ジョークとして大爆笑してやればいいのか。

 それとも俺達の意見を律儀に伝えてやればいいのか。

 ごくごく普通の報告形式なだけに、俺達から返してやるものが決められない。


「……王女だし、ね。魔王を倒すのが目的の旅だけど、この旅はフィアンセを見つけるチャンスにもしていかないとダメだと思うのよね……」


 キキは窓際のテーブルに座ってぼんやりと外を眺めていた。

 幸薄そうに呟くと、もはや真面目な話にしか聞こえてこない。


 言うまでもないが、俺や読者には恋愛経験の有無すら怪しく思えるわけで。

 そんな生娘っぽい彼女が婚活を始めると切り出しても、かなり嘘くさいわけで。

 だからこれは……彼女が装着している、魔族の首輪が原因だ(断定)。


「お前、結婚願望あったんだな? いつからだ?」

「それが今朝からだったりするんだけど」


 ……確定じゃないか。まだ午前中だぞおい。


 恐るべし魔族の首輪。あれだけ俺との結婚を嫌がるフリしていたツンデレ王女からツン要素を取り除くとはっ! 勇者の俺、これから求婚アタックされまくるのか!


「違うでしょツっきん。ツっきんとは結ばれないから婚活始めちゃうんでしょ」

「うん知ってる。お互いに攻略対象じゃないの、よく理解してる」

「そうね。あんたに選ばれないって分かってるなら、この旅の中でフィアンセを見つけても構わないでしょ?」


 キキが嫌味な笑みを向けてくる。

 だが彼女の主張はもっともだ。


 俺はキキをフィアンセに選ばない。もちろんアリスも選ばない。

 選ぶとしたらまだ見ぬ残りの王女達の誰かだ。

 だから俺にはキキの婚活に反対する理由がない。

 魔族の首輪の影響っぽいので、少し気がかりではあるが。


「ねぇ、いいでしょ? 今自由にしていられる内に、好きな相手を見つけておきたいのよ」

「他人の恋路を邪魔する気はないが……一人で見つけんのか?」

「当たり前じゃない。あんた手伝ってくれたりすんの?」

「まさか、ありえん。恋路を邪魔しないってのは単に興味がないからだしな。あとは俺自身、婚活する必要がないからだ。魔王討伐の報酬として、好きな王女をフィアンセに貰えるんだしな」


 俺は上から目線でキキに言ってみた。

 するとキキはなぜか大きく溜息し、


「はぁ。あんた、風呂場であたしとアリスの会話、盗み聞きしてたんでしょ? なのにまだ王女をフィアンセにできると思ってんのね?」

「……、」

「はっきり言うけど無理よ。王妃達が全力で結婚を阻止するはずだわ。だって王様達と別居するほどなのよ?」

「……だ、だが。俺が魔王を討伐したら、認めてくれるかもしれないだろ……?」

「っていうか魔王討伐が大前提の結婚じゃない。その大前提ありきで王妃達は怒ってるでしょうよ」


 ……や、やべ。こればかりはキキの言う通りかもしれない。

 えっ、ということは勇者ルートは波乱なシナリオで確定……?


 俺の汗がクエストの紙束にぽたりと落ちる。

 稼げるクエストを探している場合じゃなくなってきたぞ……(焦)。


「んー。ひょっとしてツっきんも婚活始めた方がいい状況?」

「ちょっと待て。なぜそんな発想になる」

「あ、それいいわね! ツキシド、一緒に婚活始めましょうよ♪」

「いや何でだよ! 俺は結婚目的で旅してるわけじゃないんだぞ!」

「お願いよ。正直、あたし一人じゃ不安だったのよ」


 パン、と手の平を重ねてお願いしてくる箱入り娘。

 ……こいつはあえて一人でやらせて恥を掻かせるべきかもしれない。


「だったらあたしからもお願いするお。例の借り、一つ返してもらう感じでっ!」

「借りって、お前なぁ……」


 いかにも楽しげなアリスには呆れざるをえない。

 俺達に幸せになって欲しいとか絶対に思ってない。応援する気持ちじゃないだろ……。


「んで? どうすんの? あたしと婚活始めてくれるんだったら、あたしも出来る限りフォローしてあげるけど?」

「いやだから……俺は結婚なんて大それたことは―――」

「ナニ真面目君ぶってんの? 結婚とは言うけどね、要は恋愛をするんでしょうが?」

「はい喜んで。今すぐ婚活しましょうそうしましょう!」


 物は考えようだった。俺はキキと婚活することに決めた。

 この世界の美少女とイチャイチャする。したいんです(切実)。


「けど、具体的にはどうするんだ? 出会いなんて簡単には作れないだろ。それに恋愛には金がかかる。王女のお前なら大丈夫だろうが、無一文の俺は―――」

「異性と出会えるクエストとかないの? と言えばいいのかしら?」

「出会い系クエストッ!? あ、あるわけないだろ!」


 ンなもん聞いたことすらないぞ! 

 というかラノベで出会い系とか危ない! すごく蠱惑的な響き!


「そう? 確かクエストって千三百種類くらいなかった? 一つくらいありそうじゃない?」

「はい、ございますよ。出会い系クエスト」


 答えたのはこの酒場の店主だった。

 ……って、あるんかいっ!?


 店主は俺がいるテーブルに近づいてくると、千枚以上ある紙束からほんの数秒で一枚の紙を抜き取ってみせた。


「こちらがそのクエストとなります」

「おい。せめて十秒くらい探すフリしろよ」

「何とこの国でベストファイブに入るほど、大人気なクエストなのですよ」


 俺は手品に等しい芸当をする店主にツッコむが、不仲なせいか完全無視された。


「へえ、大人気なら出会いが捗りそうじゃない。ええと……これには何て書いてあるわけ?」


 全文ローマ字なので読む気が起きないようだ。

 一年もこの世界にいるならお前の方が読み慣れているだろうに。


「…………コスプレ合コンに参加し、気に入った相手をデートに誘え。だとよ」

「あら、萌ノ国ならではの合コンじゃない。んで報酬は?」

「五千yenだ。太っ腹だな」


 ケタが一ケタ多いと思う。

 恋人と高い報酬金が同時に手に入るとは驚きだ。


「この国の少子化対策を兼ねていますからね。大盤振る舞いなのです。しかしそれだけではありません。コスプレ衣装は無料レンタルですし、デートに誘うだけでクリアとなっています」

「……誘うだけ? デートを断られてもクリアなのか?」

「はい。おかげさまで大人気なクエストです」


 なるほど、実に取り組みやすいクエストだ。ランクも一番下のDランク。

 この出会い系クエストを失敗しない方が難しいだろう。


「受注されますか?」

「もちろんよ。ツキシド、それでいいわよね?」

「……SSランクをクリアした俺達が、次はDランクを受注か」

「気にするとこじゃないでしょ」

「まぁそうだな。魅力的なクエストかどうかが大事だ。このクエストは受注しよう。……ところで―――」


 俺は酒場の店主に訊ねる。


「このコスプレ合コン。本当に現まお……じゃなくて、伝説の勇者も参加してたのか?」

「はい。日記によりますと、会話力や交渉力を鍛えるのが目的だったようですよ?」


 ……絶対嘘だ。

 現魔王も純粋に合コンしたかっただけだろ(常考)。

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