【あとがき・参考文献】


ここまでお読みくださって、ありがとうございます。


こちらは、書籍化前のあとがきになります。

現在は、過去に書いた分を非公開にして、WEB版、文庫版を読んでくださったどちらの方にも最後まで物語を追っていただけるように改稿版を改めて連載しており、現在の状況と噛み合わない内容もあるのですが、以前のまま残しておきます。



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本編の完結にあわせて募集したお題に応える形で連載を続けた番外編ですが、書ききるまでに、なんと一年もかかってしまいました。

いただいたお題は、一つを除いてすべてに応えたつもりですが、もしも「まだですけど!」という方がいたらおっしゃってくださいね。「もういいってば!」っていう声が聞こえそうなほど、じゅうぶん書いたつもりではおりますが(笑


どうしても書けなかったお題がこちらでした。


「ずうっと時が経って、セイレンか雄日子が(最後に生き残った方が)、孫なんかに、昔の話、相方との出会い、想いを語るような後日談」。


お題を下さった方、せっかくいただいたのに申し訳ありません。夢オチなら書けるかな…とか、いろいろ考えたのですが…。


書けなかった理由は、最後にどうしても書きたかったことと同じでしたので、併せて書かせていただきますね。


『雲神様の箱』は、『古事記』や『日本書紀』に描かれる継体という天皇の時代をイメージして書いています。継体は、合理的な思想と物流力、兵力によって、中央集権国家をつくっていった古代の天皇で、『日本書紀』には、即位前後と、その後に朝鮮半島に派兵した出来事や、北九州の勢力と争った継体磐井戦争のことが主に書かれています。継体の若い頃をイメージしたキャラクターが作中の雄日子なのですが、即位前のことは『日本書紀』にほとんど書かれていませんので、『雲神様の箱』の中で起きた出来事は、すべて私の想像です。即位後に大活躍する人なので、若い頃もきっとやり手だったろうな、という勝手な想像で書いています。


さて、先ほどのお題に応えられなかった理由ですが、お題に応えるには、『日本書紀』に書かれた年代のことを書かなければいけなかったからです。即位前のことがほとんど書かれていないのをいいことに、数々の妄想を加えたファンタジーを書きましたが、そうもいきません。実際には「守り人」はいなかったでしょうし、「雲神様の箱」を持った「土雲」もいなかったでしょう。荒籠、大伴金村、物部麁鹿火、目子媛は『日本書紀』に登場する人物ですが、目子媛はバツ2の女王様キャラではないでしょうし、大伴金村と物部麁鹿火は、継体のために朝鮮半島や北九州へ出かけて活躍する有力者です。本編でも書くのを躊躇した歴史として書かれた頃のことを、番外として書くのは軽率かなと、控えさせていただきました。小心者です。ごめんなさい。


併せてお伝えしたいのですが、『雲神様の箱』は、私の想像による架空の物語です。継体が北陸と琵琶湖周辺の富を司った有力者で、力が及んだ琵琶湖から難波へ至る水運を使うために、樟葉に拠点を持ち、荒籠という馬飼の助けを借りて陸運を充実させ、遠方の情報を得て、秦氏や尾治氏という地方豪族の後押しを受けて即位に至ったのだろう――という、継体に関する研究内容は踏まえていますが、ストーリーの細部には私の想像が多分に混じっています。


一番の大嘘だと思っているのが、珊瑚です。

当時、珊瑚は日本に流通していません。日本最古の宝飾珊瑚は正倉院に収められていますが、産地は地中海で、シルクロードを通じて伝わったことが分かっています。

作中で珊瑚を登場させたのは、モチーフの一つだった「石」でありながら「石」ではない、未知の存在を表現したかったからで、石でなければよくて、珊瑚である必要もありませんでした。今からでも「海赤偽石」などと、名称を自作してもいいと思っています。珊瑚と書けば誤解を生むかもしれないし、修正するべきだよな、と連載中もかなり迷ったのですが、はっと気づきました。未知の石の表現として扱った珊瑚は、最後に、セイレンの手にあった「雲神様の箱」と入れ替わります。でも、「雲神様の箱」のほうが、よっぽど珊瑚よりも存在は嘘です。ありえないものから、ありえないものに代わるだけで、むしろ、珊瑚のほうが現実的です。ですから、修正しませんでした。ファンタジーですから。


事実、シルクロードを通ってやってきた西方のガラス製品が、5世紀の古墳から見つかっています。当時、東西交流はすでにありましたし、国内にも珊瑚の漁場は在ります。もしかしたら、どこかの古墳から宝飾珊瑚がいつか見つかるかもしれません。


ただ、現時点では真っ赤な嘘ですので、どうかご注意ください。沖縄方面から届いた…と作中で書きましたが、「果てうるま」という言葉を演出として使いたかったのと、沖縄や台湾を通る交易ルートが存在するはずだからです。ですから、「古代日本において、南方との交流を示すものは何か答えよ」という歴史の問題があるとすれば、答えは「貝輪」です。珊瑚ではありませんので、学生さん、どうかお間違えのないように!(あぁ、すっきりした! ずっと書きたかったのです)


繰り返しますが、『雲神様の箱』は、歴史をモチーフにした架空の物語です。

私は古代日本が大好きですが、残念ながら、そこまでファンの多い時代ではありません。この話を書いたのは、読んでくださる方が、古代日本の風景はこんなだったろうか、という想像のお手伝いや、古墳や埴輪や、その前後の時代の遺跡や出土品に、この話を読む前よりもほんの少し興味をもつお手伝いができれば、という願いからでした。


古代日本好き、古墳好き、そこまでいかなくても、「ちょっと興味が湧いたよ!」という方がお一人でも増えていればいいな。


それでは、長い長い物語にお付き合いくださって、ありがとうございました。


もしもご満足いただけたなら、♡や☆で反応していただけると幸せです。

無反応っていうことは面白くなかったのかな…と不安に思うので、どうか(笑

(どうか、すべてのネット小説や無料公開の作品に対してお願いしたいことです)


最後にもう一度。

『雲神様の箱』を読んでくださって、ありがとうございました。

更新のたびに、読んでくださる皆様とお近づきになれる気がして、とても幸せでした。



えん堂



【いただいたイラスト】

『雲神様の箱』には、ありがたいことに多くのイラストをいただきました。下のサイトに展示してあります。どのイラストもとても素敵です。ぜひご覧になって下さい。

「ノイズとリズム」http://noiseto-rhythm.blogspot.com/


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《参考文献》


ストーリーのアイディアは、私がゼロから生み出したわけではなく、日々研鑚なさっている研究者の方々が、素人にも理解しやすい文章で本にしてくださったおかげで生まれたものです。もともと、私が創作をしているのも学術書好きが高じてですので、尊敬する研究者の皆様へ感謝を込めて、すべて紹介します。

どの本も面白いです。

ご興味のあるタイトルがございましたら、ぜひ一度お手に取ってみてください。


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宇治谷孟『全現代語訳日本書紀(上)』講談社学術文庫,1988年

次田真幸『古事記(下)全訳注』講談社学術文庫,1980年

水谷千秋『継体天皇と朝鮮半島の謎』文春新書,2013年

上垣憲一『倭人と韓人 記紀から読む古代交流史』講談社学術文庫,2003年

武光誠『広開土王の素顔―古代朝鮮と日本―』文春文庫,2007年

山尾幸久『筑紫君磐井の戦争 東アジアのなかの古代国家』新日本出版社,1999年

森浩一/上田正昭『枚方歴史フォーラム 継体大王と渡来人』大巧社,1998年

田中勝弘『遺跡が語る近江の古代史―暮らしと祭祀―』淡海文庫,2007年

日下雅義『地形から見た歴史―古代景観を復原する―』講談社学術文庫,2011年

近江俊秀『古代日本の情報戦略』朝日新聞出版,2016年

舘野和己・出田和久編『日本古代の交通・交流・情報3 遺跡と技術』吉川弘文館,2016年

川又正智『ウマ駆ける古代アジア』講談社選書メチエ,1994年

本村凌二『馬の世界史』講談社学術文庫,2013年

網野善彦/森浩一『この国の姿を歴史に読む』大巧社,2000年

門脇棹二『古代史を解く「鍵」』学生社,1995年

上田正昭監修『古代の三都を歩く 難波京の風景 人物と史跡でたどる大阪のルーツ』大英堂,1995年

森浩一『敗者の古代史 記紀を読み直し、地域の歴史を掘りおこす』中経出版,2013年

森浩一『森浩一―70の疑問 古代探求』中央公論社,1998年

篠川賢『大王と地方豪族』日本史リブレット、山川出版社,2001年

藤田富士夫『古代の日本海文化 海人文化の伝統と交流』中公新書,1980年

大木康『「史記」と「漢書」中国文化のバロメーター』岩波書店,2008年

渡辺精一『図説 古代中国史を塗りかえた!「史記」の戦い』青春出版社,2016年

小松和彦『安倍晴明「闇」の伝承』桜桃書房,2000年

小松和彦『神々の精神史』講談社学術文庫,1997年

吉岡幸雄『日本の色を歩く』平凡社新書,2007年

ディビッド・モントゴメリー『土の文明史 ローマ帝国、マヤ文明を滅ぼし、米国、中国を衰退させる土の話』築地書館,2010年

吉長成恭・関根秀樹・中川重年『焚き火大全』創森社,2003年

スティーヴン・J・パイン『火と人間の歴史』原書房,2014年

小泉武夫『灰に謎あり 酒・食・灰の怪しい関係』NTT出版,1988年

森浩一編「味噌・醤油・酒の来た道 日本海沿岸諸民族の食文化と日本」小学館ライブラリー,1998年

宮崎正勝『知っておきたい「味」の世界史』角川ソフィア文庫,2010年

早川和子『よみがえる日本の古代 旧石器~奈良時代の日本がわかる復原画古代史』小学館,2007年

飯島吉晴『竈神と厠神 異神と此の世の境』講談社学術文庫,2007年

西郷信綱『古代の声 うた、踊り、市、ことば、神話』朝日選書,1995年

戸矢学『ツクヨミ 秘された神』河出書房新社,2007年

吉田一彦『騙し合いの戦争史~スパイから暗号解読まで~』PHP新書,2003年

川成洋『紳士の国のインテリジェンス』集英社新書,2007年

ジョビー・ウォリック『三重スパイ―CIAを震撼させたアルカイダの「モグラ」』太田出版,2012年

クラウゼヴィッツ『[新訳]戦争論 隣の大国をどう斬り伏せるか』PHP研究所,2011年

高橋宏幸『カエサル「ガリア戦記」歴史を刻む剣とペン』岩波書店,2009年

山内昌之『鬼平とキケロと司馬遷と歴史と文学の間』中央公論社,2016年

鶴見俊輔他『生きる技術 ちくま哲学の森』筑摩書房,2011年

ジャン=ジャック・ルソー『孤独』白水社,2012年

『湖国と文化 91号』滋賀県文化振興事業団,2000年

『古代出雲歴史博物館展示ガイド』島根県立古代出雲歴史博物館,2010年版

『やさしく読める王寺町の歴史』王寺町,2015年

『自然のくすり箱~薬草とわたしたちの暮らし』2015岐阜県博物館

『第102回歴博フォーラム「延喜式」ってなに!?』国立歴史博物館


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※作中には、ここに並べた本の内容と違った設定もありますが、ストーリーのために断腸の思いで変えた設定も、私の妄想を優先した設定も、発想の糧にさせていただいた内容も、私が理解しきれずに生かしきれなかった部分もあります。『雲神様の箱』は、あくまでも私が勝手に想像した架空の物語です。ここに並べた本の内容をすべて踏まえているわけではありませんので、ご容赦ください。


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【追記】

3話「天と土の霊しきもの」の番外「白昼夢」(2)の末尾にも、物語世界の背景や設定に対する私のスタンス的な読み物を付けてあります。

https://kakuyomu.jp/works/4852201425154970199/episodes/1177354054881974408


雄日子に青摺衣を着せてみたり、穴屋(竪穴式住居)にこだわったり(※藍十宅は煙道付きの当時最新型、カヤ宅は中央に炉がある旧型とか)もしていますが、完全に創作の部分もあります。草文字や馬飼言葉、霊し宮や呪術などは私の創作です。突拍子もない古代日本を作りたくての設定でしたが、現時点で分かっていることをもっと取り入れれば良かったと後悔している部分もたくさんあります。

軍制も奈良時代のものや朝鮮半島のものを参考にした私の創作であり、妄想です。例えば、剣は、時代劇の影響か帯に差して持ち運んでいるとイメージしがちなのですが、そうではなくて、古墳時代では矛のように手に持っていたのでは…という説があります。片手が埋まっちゃうので実用的ではないと私は思うので、儀式の場以外では帯に差す、または何か鞘用の器具を用いる、と設定しています。(調べてみたら、関東が杖風に、関西より西側では提げて携帯していた、という解釈が古代出雲歴史博物館の歴史ガイドに掲載されていました)

こんな風に、現在確認されていることとは違う内容、または、+@の設定も使っていますが、今後新たな考古学資料が見つかるかもしれない…と古代ロマンに想いを馳せて書きました。驚くべきスピードでいろいろなものが発見されていますので。


また、この物語の世界はあくまで物語用に都合の良い解釈をしていますので、この時代についてのさまざまな事には諸説があります。私自身も、物語の設定とは別の解釈をしている部分が多くありますので、注釈的な読み物はもっと付けたいところなのですが…。


もしご興味を持たれましたら、上記の書籍もお手にとってみてください。

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