エピローグ

「パパ、ママはやくー!」


真っ白なドレスに身を包んだ奈菜がはしゃぎながら、階段を駆け上る。1番初めに頂上にたどり着いた奈菜が「わぁっ!」と歓声をあげた。


式を終えた康介と奈菜がゆっくりと手をつないで階段を上る。そんな2人を見て、奈菜が腰に手をあて仁王立ちになって言った。


「もぅ!ミンナマッテルヨ、イソギナサイ!」


里奈の隣で康介がクックと笑った。いつもなら奈菜を怒りとばす里奈だったが、今日は奈菜を怒らなかった。真っ青に晴れ渡った空のように、里奈の心も穏やかで温かさに満ちている。康介と里奈と奈菜。3人は今日ようやく本当の家族になった。


「奈菜、今日はみんなが待っててくれるから急がなくていいんだよ。」


隣の康介が笑いながら奈菜に言った。康介の言葉に奈菜が訳がわからず、ポカンと口を開ける。やっと奈菜に追いついた康介と里奈が、バルコニーに立った。2人が奈菜を間に挟む形で、3人で下を見下ろす。バルコニーの下は歓声に包まれていた。1人大きく手をブンブン手を振りながら、年齢らしからぬ大声で、綾乃が下から叫ぶ。


「里奈〜、ブーケ、私に早くトスして!」


あまりに真剣な言い方に、思わず康介と里奈が吹き出した。2人で顔を合わせてクックと笑う。康介が里奈の肩を抱いた。里奈も手を振り返しながら、大きな声で叫ぶ。


「じゃあ、康介にスパイクさせます!」


里奈の返事に綾乃が素っ頓狂な声を出した。


「ちょっと!ブーケそしたら粉々になっちゃうじゃない!やめてよ!」


焦る綾乃を見て、サークル仲間からドッ笑いが起きる。康介と里奈も笑った。2人の間に挟まれていた奈菜を康介がヒョイッと持ち上げた。両手でしっかり押さえながら、奈菜をバルコニーの柵に柵に立たせる。


「パパ、サクにたってはいけません。」


奈菜がちょっと怒ったように言った。里奈が「今日は特別なの。」と、奈菜にウインクする。奈菜が、ポカンと口を開けた。里奈がそんな奈菜の手にブーケを持たせる。


「奈菜、ママをお姫様にしてくれて、ありがとう。このブーケは奈菜が投げて。これを受け止った人が、きっと次のお姫様になるわ。」


奈菜がちょっと首をかしげてから言った。


「よくわかんないけど、おそらになげればいいの?」


隣で康介が「そーそー。」と相槌を打つ。奈菜が康介につられて、「そーそー!」と言った。里奈が微笑む。


「そーそー!ママの大好きなお空に向かって、このお花を投げて。」


奈菜がニッコリ笑って頷いた。奈菜がブーケをしっかり掴んだを見て、里奈も奈菜に寄りそう。「奈菜ちゃん、早く〜。」下から誰かの声がした。声につられたかのように、奈菜が空に向かってブーケを投げる。


白いリボンと真っ白な花が空高く舞い上がった。真っ青な空の中にフワリと舞い上がったブーケが、キラキラと光っている。里奈は遠い日の想い出を見たような気がした。里奈の口から言葉が溢れ出す。


「あの日、間違えて練習に行って良かった。」


隣にいる康介が、ふっと笑ったような気がした。


「俺も。」


振り向いた里奈に、康介が優しく微笑む。晴れ渡った空と康介の笑顔がリンクして、キラキラ光っていた。それは、真っ青に空が晴れ渡った夏の日の出来事だった。




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mari @ichimari

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