エピローグ

「村岡さん、こんにちは」

「ああ駐在さん、こんにちは。ねえ、おじいちゃん見つかったの?」

「いや、まだ。このあたりの人にはみんなに聞いて回ってるんですけど……。昨日の昼まではいたんですよね?」

「そう。門口で一緒にお話して、ポストのこととか、手紙のこととか」

「へえ……。私はこっちに着任してそんなに経ってないんで、おじいちゃんのことはよく知らないんですけど、惚けてるとか放浪癖があるとか、そういうのは?」

「ないわねえ。頭もすごくしっかりしてらっしゃるし、足腰もお丈夫な方よ」

「家族の方から家出人捜索願いとか、出てます?」

「……いいえ。息子さんがいるけど、彼は絶対にそういうのは出さないでしょ」

「どうして?」

「おじいちゃんを食い物にしてるからよ。もうおじいちゃんには、たかられるものは何も残ってないの。昨日家に寄せてもらってびっくりしたわ。ほんとになんにもない。この家と土地だけね」

「うわあ、そらあ……」

「世も末だわよ。もう還暦迎えようかっていういいオトナが、八十過ぎの父親にたかって暮らすなんてさ」

「息子さん、働いてないんですか?」

「ずっと無職なんだって。親の貯金と年金横取りして、引きこもってるの」

「最低だなあ」

「持病があるとかならともかく。この前来た時だって、おじいちゃんに当たり散らして、暴れたらしくて」

「あーあ」

「おじいちゃん、嘆いてたわ。育て方間違ったって」

「うーん……。なんか心配だなあ。事件性がありそうなら、本署に応援頼まないとならない」

「あのバカ息子に、そんな大それたことはできないわよ」

「ならいいんですけど」

「でもねえ……」

「うん?」

「おじいちゃん、ここに帰って来るつもりはないのかもね」

「え? じゃあ、どこか他に行き先があるってことですか?」

「それは、わたしには分からないわ。これまで立ち話しで聞いてた限りじゃあ、他に縁者はないと思う」

「……自殺とかは?」

「分からない。それが心配で、昨日も帰り際にちゃんと相談してくれって念を押したんだけど」

「……」

「おじいちゃんには届かなかったのかなあ」

「まあ、田舎だから交通機関使っていればそこから手繰れるし、お年寄りの足だとそんなに遠くまでは行けないでしょう。全力で探します」

「そうね。お願いします。わたしたちも手分けして探すわ」


 かさっ。


「あの、村岡さん、それはなんですか?」

「……これね。おじいちゃんから預かった手紙」

「え? じゃあ、そこに伝言とか、行き先とか」

「そういうのは書いてないと思う」

「じゃあ、中には何が書かれてるんですか?」

「たぶんだけど……」

「うん」



「……白紙、ね」



【 了 】

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