あとがきにかえて
小説を書くと決意したはいいものの、肝心なストーリーがなかった。だからボクは右脳の奥底にある記憶の扉を開け、幼馴染でAV女優になったサキコに会いに行った。
自らがストーリーになろうと決めたのだ。
この物語は生きていない。ただ、死んでもいない。なぜ失われた物語だったのか。すべては統合失調症がやらかしたことだった。そして統合失調が、統合しすぎ失調であるという事実を知って、少し安心した。統合する力が失われているのではなくて、様々なものを統合しすぎてしまうことが、その疾患の真意だ。
目の前に存在するそう多くはない人物達がクロスオーバーして誰が誰なのかわからなくなっていた。目の前に誰もいないのに突然喋り出す姿は、周りにとって完全に頭がおかしい人に映っていただろう。しかし、ボクには本当に登場人物が見えていたんだ。会話もするし、ハグもするしキスもする。しかし、その原因は霊を見るのと一緒、すべて自らの右脳が勝手にやらかしていたことだった。
統合失調は脳の特定の部位が発化し、見えないものでも見えるようにしてしまうのだ。信じられないかもしれないが、本当に目の前にサキコがいたのだ。なぜ幻覚だと気付いたのか。見えないモノに怯えるのを辞めることができたのか。それは真剣に統合失調を学び始めたことだった。向き合ったんだ。こんなにもシンプルな解決方法になるとは夢にも思わなかった。統合失調である自分を「辞めよう」とストレートに思ったのだ。鬱もそう、鬱であることを辞めればいいのだ。その発想が今までなかっただけだったんだ。
この失われた物語は、約1ヶ月間、自らの脳内の旅でもあり、新しい世界への出発でもあった。
完全に意識が戻ったのは、246号線で朝陽を見た時だった。はっと我に返るように、これはすべて脳内で起きた出来事だったんだと。朝陽がこんなにも素敵なものなのだと素直に涙を流した。バカげているとも思った。そして、生きていることを愛おしく思えた。
どうしてもコンテストに応募したくてこの小説を書いたのは事実だ。一般社会になじむことができず、独り山奥でできる作家という仕事に憧れていたからだ。それはまさにこの小説の主人公そのものであり、どこからどこまでがフィクションかわからないストーリーがそのまま原稿になったわけだ。こう書けばこうなるし、そう書けばそうなる不思議な1ヶ月間を過ごした。まるで予言者のようにストーリーを書き綴る度、それが現実の出来事になった。人生の中でもう二度とこんな1ヶ月間はないと思う。そしてもう二度とこんな経験はしなくていいと思う。
手が届かないところへ行ってしまった彼女からはこう言われた。
「女性の瞳に映る自分を描いているようじゃダメ、その女性自身の心を描けるようにならなきゃ」
深く美しいメッセージだと思う。自殺したY氏も本当はそういうことを伝えたかったのだろう。
失われた物語に登場する登場人物や有名人すべてが事実であろうとなかろうと、それは右脳と左脳の統合しすぎ失調が生み出した光と影だ。
本当はすべてノンフィクションなんでしょ?と言ってくれたキミに、たった一つだけ皮肉を言うとしたら、「推理作家はいつも人を殺してるのか?」これぐらいだと思う。
統合しすぎ失調は、後に共感覚であることがわかった。
「共感覚」という言葉を聞いたことがあるだろうか。簡単に言うと、音が光に見えたり、文字に色を感じたりする特殊な知覚現象のことだ。
幼い頃からある特定の音を聞くと光が見えた。ヴィジュアライザーのようなものだ。その音が鼓膜を揺さぶると、視界が光に覆われる。突然誰かに呼ばれたような気がして振り向くと誰もいなくて、幼い頃は夜トイレに行くときはいつも姉についてきてもらった。幻聴だと言うかもしれないが、変な薬を飲んでいるわけでもないし、中学生くらいまでその現象は続いた。
他の人がどのような共感覚を持つか分からないが、ボクの共感覚は一風変わっていた。何かに極度に夢中になったり、逆にものすごく気が滅入っていたりすると、自分の身体というモビルスーツのコクピットに自分自身が乗り込んで操縦しているような感覚になるのだ。物に触れる手触りも、直に触っているというより、モビルスーツの手が触っているような感覚に陥るのだ。直接の手触りが遮断される感覚だ。バスケットボールの試合中にそれが始まると急激な緊張が走る。みんなの声が急に遠のいたり、何かおかしな行動をとってしまうんじゃないかとドキドキし、頼むから早くここから出してくれ、と叫びたくなる。みんなの前で発表したり、何気なく友達と会話しているときでも月に2、3度のペースでそいつがやってくる。これがいわば入り口であって、この後にその五感がクロスするような症状に陥るのだ。
サキコの共感覚も独特だった。小説が書けるってことは、相当本を読んでいたんだねって聞いたことがあって、その質問の答えは今でも忘れられない。
「あたし、あんまり本を読まないようにしてるんだ」
本を読み始めると、何百ページとあるハードブックでも文庫本でも、トイレにも行かず、一気に読み切ってしまい、気付けば10時間以上が経っていたこともあるのだという。明らかにこれは単なる集中力ではない。文字が色を越えて情景になり、その情景に自分が完全に入り込み、森のシーンなら自分がその森の中にいて、登場人物と本当に会話するのだ。もしかしたら共感覚を越えたものなのかもしれない。サキコは恐さのあまり、最後に本を読んだのは高校生だったと言っていた。
音を聞くと光になり、光が視覚、視覚が嗅覚になり、嗅覚が触覚になり、気付くと妄想であったはずの登場人物が実在の人物であることに気付いた。恐くなったのも確かだ。だから現実とフィクションをすり替えようとして、この物語に透明な色をつけ始めた。虹の七色が全てを浄化してくれると思った。限りなく透明に近いブルーが本当はどんな色なのか、ボクには確かに見えた。
ここまで読んでくれて感謝します。
ボクは変わった人かもしれないけど、変な人ではないんです。
あっ、同じ意味か(笑)
ここからは夢見がちなことを書くのを辞めますね。
実は今、とある出版社でプロデューサーをしています。ブティックに勤務してた時に、すごいテクニックを聞いたんです。それはズバリ年収を上げる方法でした。意外に思えるかもしれないけど、ブティック店員って言っちゃ悪いけど所詮は販売員で、給料が安いんです。宝飾であれば、在庫を抱えてもストックしておいて、いつかヴィンテージとか言って売れるけど、ラグジュアリーブランドであってもアパレルはやっぱり2割から3割が原価なんです。だから、転職というか、ブランドを変えて転職する時に、前の店でこのくらいもらってましたって、数万円サバを読むんです。面接でしっかりやる気を伝えられれば、OK、そうやって少しずつ自分の値段を上げて行くことが大切だと。そう先輩たちが教えてくれたんです。僕はその方法を実践し、何度か意図して転職を繰り返し、有難い待遇でプロデューサーになることができました。セルフイメージっていうのですかね、一度自分をもの凄く過大評価してみてください。ボクなんか、履歴書の希望欄に、前の職場で25万だったのに、月収100万円希望って本気で書きましたからね。紙一重だと思うんですけど、受かりましたよ。開き直って、落ちても関係ないと意気込んで、全く新しい大きな自分で臨むんです。緊張したり怯む姿を見せず一気に大きく飛び込んでいくんです。そうすれば叶うんです。だって夢や目標を掲げられたなら、それは叶っているのと一緒なんです。人は空を飛びたいと思ったら、なんとしてでも実現するよね、飛行機を作ったり。
そういえば、二次面接で専務が出て来た時、ひっくり返りそうになりました。この物語に出て来るY氏が現れたんです!と思ったのはもちろん抜けきってなかった統合失調症です(笑)Y氏のそっくりさんが出てきて、冷や汗をかきました。そう言えば、Y氏の顔を知るのはこのボクだけか。でもこの小説を読んでくれたあなたが自由に登場人物を統合してくれてもちろん構いません。彼らはあなたの頭の中にしかいないのだから。
今は表に頻繁に出る仕事もしています。自分が売れなかった(いや、まだまだ諦めてないけどね)のを理由にマーケティングも習得したんです。埋もれている良い作品をプロデュースし、プロモーションする側に回ったんです。だから今になって、今だからこそ分かるんです。
このストーリーに出てくるY氏の気持ちが。
信じられないほど突き抜けた才能を持っている人は、本当にいるんです。
ボクも何人か会ったことがあります。被爆しそうなというか、エネルギーに圧倒されそうになる人が。でも、商品化とはまた違うんです。
会社から予算を引っ張って、いついつまでにいくら売り上げないと会社にいづらくなるって本当にあるんです。窓際族、まだ窓の内側にいるだけマシです。プロジェクトがコケると窓の外族です。
悲しいことに、ボクはそんな会社の奴隷プロデューサーになってたまるか!って意気込みでこの業界に入ったのに、悔しいです。才能よりも予算との帳尻を考えてしまいます。ただ、戦っているのも事実です。本当のプロデュースって、影響力の勝負だと思っているから。相手に与えるだけが影響力ではなく、内側にいる自分との対話をもう一度やり直すことも大事にしたいです。内生言語っていうのかな。人間って一日に数万回の声にならない声を発しています。それを一つ一つオセロを裏返すように前向きにするんですね。影響力ってあたかも相手を意のままに操る術のように思えますが、操れるのって自分だけなんです。相手を変えるのは難しいけど、自分が変わることならできます。
自分が変われば、相手も変わるというか、付き合う人が変わっていくのでしょうね。
プロデューサーになってみてわかったのが、圧倒的なエネルギーに満ちた才能の持ち主たちは、みんな頭が偏っているんです。普通の人が普通にすることができなかったり、理解に困るやり取りだとか。ぶっ飛んでいたりとか。アホだったりとか。だからこそプロデューサーって立場は大事なのでしょうね。天才に、実生活とのコネクションを持たせてあげなければいけないですからね。
地下鉄東西線で「カクヨム」の広告を見たときに、なんだかすごく嬉しかった。
もしかしたら型にはまらない何かがあるんじゃないかって。自由に書いて自由に読むってなんて素敵なんだって思います。小説は長い長い手紙でもあると思うしね。面白いことに、東西線車内の壁にシールで貼られたカクヨムの広告を見ながら、この「あとがきにかえて」をiPhoneで書いてます。
たったの一ヶ月で一気にこの小説を書き上げたし、ストーリーそのものになろうなんて発想は、過去の自分にはなかった。おかげでく〇みさんとも連絡が繋がりました。お叱りも受けたけどね(笑)
彼女はこのストーリーを読んでくれて、面白いねって、ただ一言と、メールの文章をそのまま使うのは辞めてねって。
その後どうなったかはご想像にお任せします。
人って不思議なものですよね。文字で泣いたり笑ったり感動したりできるんですから。言語空間って一番トリップしやすいかもですね。文字の裏にある情景は最高の快楽です。フィクションを手に取る理由って何なのでしょうね、現実逃避と一概に言えない時代になってきてるんじゃないかと思うのです。気に入った本を手にし、その世界に入り込んでいく。それはそのストーリーに入り込んでいるようで、実は自分自身のストーリーに置き換えるのが本当の目的なのかもしれません。誰の言葉か忘れたけど、世にあるすべての言い伝え、ストーリーの過去を遡っていくと、聖書に辿り着くそうです。何千年も前は、みんな神の声を本当に聞いていたのかもしれないですね。
文明発達の過程で神の声が必要なくなってきたのかもしれません。ただ、人に何かを語り継ぐ時、それはストーリーを持って語ることにより、人の脳に強烈にインプットされるのかもしれません。
陸に上がった魚・・・。
一億五千年前、遥か太古の昔。人間の祖先である脊椎動物のハジマリ。
魚はなぜ安全な水の中からわざわざ陸に這い上がったのか。
それは紛れもなく意志の力。
未来にこうなりたいって思ったら、すでになっているのと同じなんです。小説や音楽を作るのも一緒。完成をイメージできれば、あとは少しづつ手を伸ばして形にするだけ。そこに必要なのは望む力、意思だけです。意思の力でここまで進化したのです。
意志の力で進化し、ストーリーで伝える、この欲求は新しい世界へと誘います。
では、宇宙人の正体は?
こう聞かれたらあなたはどう答えますか?
「宇宙人を見たことあるよ」って言う人たちは、不思議とみんな頭、目、手足があってって、人間の想像の範囲内じゃないですか(笑)宇宙人はもっと進化していてもおかしくないと思うのですが。
ボクが思うに、宇宙人の正体って「情報」なのではないかと思っています。
宇宙人ってこんなかな?あんなかな?そう人から人に伝染して行く、言語の情報空間に存在する、情報そのもの・・・これがきっと宇宙人の正体なのですよ。ちょっとわかりにくかったかな?
人から人に、宇宙人ってこんなじゃない?って、噂が広まって、世界を噂、未確認情報で感染、伝染させてしまう。
これはまだまだ人間が追いつかない進化した侵略なのかもしれませんね。
もっと単純に言うと、宇宙人っているのかな?って人間に想像、創造させた宇宙人の勝利ですよね。
たまにこういう不思議な話をすると、毛嫌いする人もいますが、おかげでボクの周りの人達は興味をもってくれます。確かにプロデューサーって立場もあるかもだけど、新しい想像力が芽生えるのが楽しいって。
だって現実ばかりじゃつまらなくて、あまりに悲しい世の中じゃないですか。
モノに溢れ便利すぎる世の中だから、今人は新たな世界へ移行しつつあると思うんです。働いたお金で欲しいものを買えば満たされるありきたりの日常を一歩脱して、自己実現の欲求へ向かっていると思うんです。ピラミッドを思い浮かべてください。一段また一段と宇宙へ繋がる頂点を目指して登って行くのです。もしこの小説を読んでくれたキミがボクと一緒にもっともっと新しい世界を目指したいと思ったら、そのささやかな一歩を踏み出してみませんか?そして世の中になじめない人同士で楽しく一緒にやって行きませんか?欧米人がなぜ集いたがるかわかりますか?それは孤独の裏返しなんです。日本みたいに故郷を大事にする農耕民族と違って、より良い住処を求めて常に動き続ける。だから一期一会なんです。日本も変わりました。ボクも東京での暮らしが長くなりました。実家をどうしようかって考えたりします。次にどこに行くのかわかりません。だから、一瞬の出逢いを大切にしたいんです。カクヨムを通じて出逢えたって最高です!生きるのが楽しいって思えるのが一番ですよね。
吉川秀樹はあなたが望んでくれるなら実在します。もっと自分の心の醜さ、憎しみに正直であってもいいと思から。もっともらしいことばかりを書いた小説とか自己啓発本とかありますが、試しに今から本気で1時間、怒ってみてください。怒りを爆発させてみてください。人を傷つけたりしてはいけないですが、不思議なもので、1時間本気で怒ると、怒るのって本当疲れます。そのうちスーっと消えてなくなります。自己浄化ができれば、少しはストレス社会に押しつぶされずに済みます。
あっ、そういえば彼女にもうひとつ怒られました。「監督やAV女優はあなたの過去の憎しみをぶつけるツールじゃない」って。それは最後まで読んでない証拠ですよ。本物の浄化の過程は綺麗なものじゃなかったりする。だからこそ意志の力でその先を想像できるようになってほしいんだ。
ここまで読んでくれたあなたに出逢いたい気持ちでいっぱいです。
いや、もう出逢っていますよね。
10年前、母が天国に召された直後、庭に鉄砲百合が咲き乱れました。不気味なほど白く美しい鉄砲百合、トランペットリリーに因んで、http://trumpetlilymusic.xyz/がボクの住処です。
出逢いに、ありがとう。
Tバックを逆さに眺めて 吉川秀樹 @Trumpetlily
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