第18話 サキコ、このトリックに気づいたか?

 もし家に辿り着くことができたら、オレはこの原稿を完成させ、コンペに出すのだろうか。

 オレはこの物語の中にサキコにしかわからないメッセージを、あるトリックの元に仕掛けた。もしこの物語を君が演じる時が来たら、オレの代わりにそいつをみんなに伝えてやってくれ。きっと真実だ。

 家に帰って、「最後の出演作はド派手にやるぜ」、そんなことを言ったら怒られるだろうな。

 AV女優サキコを愛したオレもまたAV男優だった・・・、そんなチープなオチにするつもりはない。オレが愛したAV女優サキコこそオレの妻だった・・・、そんなのもありきたりだ。

 もしオレが男優だったとしても、これを最後の出演作にするだろう。AV男優なんて食えない仕事はするもんじゃない。

 朝帰りをした言い訳を考えながら、オレは自分だけが実在しているのだと少しだけ笑った。

「なにもかもチープだ」


 自分が書いたストーリーの中でしか生きられないオレは、フィクションという名の道の上を、今でも歩き続けている。

 そのフィクションを乗り越える日が来たら、やっと母の遺影に手を合わせられるかもしれない。

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