キューのワンマンミュージック

@pred

プロローグ

バンドマン達が作るライブとは。


ギターは楽曲の響きを生み出し、ベースは音圧を提供し、ドラムは楽曲の方向性を決めて指揮すること。


言葉では簡単だが、実際に見て聞かないことにはその本質を理解できないだろう。


百聞は一見にしかず。その手に詳しい友達に連れられて、私は近所のライブハウスに来ていた。


今は次のバンドへ転換する時間のようで、大勢の観客はがやがやし始めた。


「美羽さ~」


と、そこへ隣にいた友達が興奮気味に話しかけてきた。私はあくまで冷静な声色で言う。


「うん? どうしたの、佳奈」


「今のバンドどうだった!? カッコよかったよね~!! 最後の曲なんかさ~!!」


興奮気味を通り越してハイテンションな佳奈の言葉に共感できる。一つひとつの音が調和されており、身体全体に響き渡る低音、そしてボーカルやギターのメロディーが心地よい。


たくさん練習したんだな、と感心する。


「これがライブなんだね。なんか凄すぎて、自分が情けなくなっちゃう」


「あー、なんとなく分かるかも。いっそのこと私も何か楽器やってみようかなー?」


本気か冗談か曖昧にして笑う佳奈。彼女は指先も器用で頭の回転も速い、行動力さえも備わっている佳奈ならもしかしたら。


それに対して私は、彼女ほど指先が器用なわけでもなく、賢さも忙しい行動力も持ち合わせていない。


才能が無いのかな。


すぐさま、清々しいオーラと陰気臭い雰囲気が競い合うようなイメージを掻き消した。あまり他人と比べるのはよくないから。


「あ、始まるよ」


途端に、佳奈の声がSE(Sound Effect――雰囲気や場のムードを整え、盛り上げる効果を担う音楽)に吸い込まれた。


私はすぐに気づく。


(この音楽、ギターやベースのような楽器にも別の楽器が使われているのかな? 聞いたことないような音楽。それにアップテンポじゃないのに、妙に乗りやすいリズムのメロディーだな……)


クラブミュージックとはまた違う。そして、先ほどのバンドマン達とは一味、いや異色の世界観を表現している。


SEが一瞬止まり、再び響き渡る瞬間には現れる。


手拍子をしながら登場した彼を真似するように、この空間にいる全員が手拍子を始めた。


私を含めた全員だ。


自分で自分に驚いている。身体が勝手に動くというのはこういうことを指すのか。無駄な思考は全て切断され、ステージから放たれる音に魅了された。


そしてもう一つ驚くことがあった。


なんと、このバンドは彼一人で構成されていたのだ。アコースティックとは違う、異色過ぎる彼の名は。


「赤枝九太、始めまぁああっす!!」


ギターとパソコンを駆使した九太のライブが始動する。

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