エピソード52 「僕の美少女達のその後について」

12月第三木曜日

相模原、久保田精機、本館1F、サプライヤ(部品取引先)応接フロア、


パーテーションで仕切られて、幾つも並んだ打ち合わせ用テーブルの一つに、およそ此の場には似つかわしく無い、制服姿の女子中学生が一人。


やがて、トボトボと、一人の女子社員が、近づいて来る。



芽衣:「お待たせ。」

美穂:「お久しぶりっす、」


自動販売機でソフトドリンクを買って、…美穂に手渡す芽衣、



芽衣:「そう言えば、美穂ちゃんって、受験真っ只中と、ちゃうかったん?」

美穂:「一回合格してる学校っすから、…余裕っす、」


美穂、ペッタンコな学生カバンの中から、キラキラ、デコレーションされた封筒を取り出して、…



美穂:「月末に、アリアさんが帰ってくるっす。」

芽衣:「そうなんや、じゃあ、前に言うてた「パーティ」、…やるん?」


美穂:「これ、集合場所と、チケットっす。」


美穂、封筒を、…芽衣に手渡す。



美穂:「最近、調子、どうすか?」

芽衣:「未だ、アカンみたい、…」


芽衣、目を伏せて、アヒル口で、…溜息、



美穂:「それにしても、星田さんも、罪っすよね、」

美穂:「結局、「面倒くさいモノ」は、全部、女に押し付けて、」

美穂:「それで、死に際の台詞が「愛してる」って、一体どういう事っすか?」


美穂:「後に残ったモノの気持ちなんか、何にも考えてないっすよ、」

美穂:「最低っす!」



芽衣:「せやな、…」


芽衣、苦笑い、




美穂:「いい加減、そろそろ「お仕置き」が、必要なんじゃ、無いっすか?」







応接フロアの前を、トボトボ歩いていく、…翔五、

相変わらず、…「しょぼっ」としている。



美穂:「しのさん(忍ケ丘芽衣の事)の治癒能力で、諸々機能的には、治ってるんすよね、」


芽衣:「頭蓋骨の中身、なんうなってもうてたからなぁ、」

芽衣:「あれが、本当ほんまに翔五なんか、」

芽衣:「イマイチ、自信が持てへんのんよ、、、」


芽衣:「全然「別の人間」を、作ってもうたんとちゃうかって、…」


翔五、自販機で缶コーヒーを買って、トボトボ、来た道を、戻って行く。




美穂:「いや、あの「残念」な感じは、どっからどう見ても、星田さんっすよ、」

美穂:「それに「聖霊」以外の事は、全部思い出してるんっすよね。」


芽衣:「うん、半月位、意識不明やったんやけど、」

芽衣:「その後、急に、色々、思い出したみたい。」



美穂:「やっぱり、「殴る」のが、手っ取り早いんじゃないっすか?」

芽衣:「そんなん、可哀想やんか、」


美穂:「全く、しのさんは星田さんに、甘すぎるっす!」

芽衣:「そんな事、言うたって、」










〜〜〜

此れ迄、クリスマスに良い思い出が、全く無かったと言うと、

そんな事も無い。


テレビの特番は豊富だし、ディケンズは何回読んでも泣けるし、

町中が色んな期待で溢れていて、皆、いつもよりも優しい気がする。


リア充な同期達の羨ましい「のろけ話」を聞かされるのには多少閉口するけれど、就職して初めてのクリスマス! 受験も、試験も、就活もない、本当に開放的な気分のクリスマスなのだ。


だから、こんな僕にだって、何か一つ位、良い事が、起きる様な、そんなウキウキした気分になってしまうのは、…致し方ないと言うモノだろう。



浜本:「星田は冬休み、何処か旅行行くの?」

翔五:「別に、今年は実家でゆっくりするよ、ずっと帰ってなかったし、」


浜本:「実家って、何処?」

翔五:「平塚、」


浜本:「近いな。」


僕は、今朝もらったばかりの「賞与辞令」の薄っぺらい紙を、ヒラヒラ弄ぶ。



翔五:「浜本は?」

浜本:「スキー、山本さん達と」


山本さんと言うのは、同期入社の中で一番美人だと評判の、ムチムチOLの事だ。



翔五:「ふーん、楽しそうだね、もしかして、…付き合ってるの?」


浜本:「まさか! 今回は営業の岩城サンと、お得意先の人達と一緒だよ。」

浜本:「あの人が来ると、異様に女子の参加率高いんだけど、…結局、全部あの人が持ってっちゃうからなあ〜。」


翔五:「爽やか兄さんか、」

浜本:「爽やか兄さんだ。」




そこへ、同じグループで、一寸苦手な村木先輩が、突然、割り込んでくる。



村木:「翔五、イブ、暇だろ。 一寸ちょっと付き合え、良いな。」


翔五:「何ですか?」


見たい深夜テレビがあるんだけど、…なんて事は口が裂けても言えない。

まあ、録画しておけば良いか、…



村木:「喜べ!合コンに連れて行ってやる。」

村木:「こないだ「異業種交流研修」で知り合いになった、化粧品会社のOL。 望月ちゃんって言うんよ。 ほら、見てみそ。」


村木、言いながら、スマホの写真を見せびらかす。



浜本:「ああ、美人っすね、いいなぁ、俺行きたい。」

村木:「お前は駄目、」


翔五:「でも、どうして僕なんですか?」


できれば、浜本に代わってもらいたい、、



村木:「望月ちゃんの友達が、アニメオタクで、…ほら、コノ子。」


背が高くて、目の細い、そばかすの、大人しそうな女子、



村木:「打ち上げで翔五の事を話したら、すっごい二人を引き合わせたい…って言う話で盛り上がってさ、ほら、俺って、話し上手だしょ?」


また、トコトン、「盛った」に、…違いない。



浜本:「村木さん、イブに合コンやってる時点で、負け組の証明じゃないっすか?」


浜本、お前、何故、…逆撫でる?



村木:「お前は昭和の人間か?…っちゅうの、一晩中、一人でアニメ見てるよりは、100倍良いに決まってるっしょ。」


僕は、一人でのんびり、テレビ見てたい、…



村木:「それに、只の合コンじゃ無いって! ちゃんと企画会社がいて、会場から料理から半端無いんよ。 見てみ、申し込み時点で一次審査も有って、参加人数は50対50!」


村木、ポケットから取り出したチラシを、机の上に展げて見せる。



浜本:「もしかして、これ、カップリングパーティっすか? 気を付けないと、中には、あんま良く無い噂のイベントも、有るみたいすよ。」


村木:「ちなみに、参加費用は50000円!」


浜本:「50000円?いや、有り得ないっしょ、一晩4時間程度の合コンで、50000円は無いな。」


村木:「うるせー、だからお前は誘ってないって。」



村木:「いいか、翔五、本当なら80000円の所を、カップル参加割引で50000円、どうよ、割安っしょ、一次審査も免除、俄然行きたくなるっしょ?」


村木:「それに、望月さんの方から、誘って来たんだぜ、俺と一緒に行きたいって、…つまりこれって、脈有りって事っしょ?」


女子は、カップル参加だと、30000円が20000円になるらしい。



村木:「4時間ポッキリか、一生モンかは、各自の運と、努力しだいって事っしょ、」


村木:「と言う訳で、翔五、身体空けとけ。」



果たして、…これが、僕の、この冬の「いい事」なのだろうか??










〜〜〜

クリスマスイブ、夜8時、

合コン会場となる、都内、超高級ホテル2Fの大ホール、その前に設置された、受付。


生まれて此の方、親戚の結婚式だって、こんな豪華な所に来た事は、無い。


僕と、村木さんは、会社の更衣室でスーツに着替えて、会社から会場へ直行、

ソレで今、此処に並んでいる、と言う状況。



クローク係:「お荷物とコートを、お預かりします。」


係の女性に、チケットを渡して、出席を確認してもらう。


それから、渡された封筒には、…

番号札、首輪、ロト(籤)の番号が書かれたカード、それと、筆記用具、、、



受付の女性:「番号札に、本日ご自分の事を呼んでもらいたい「ニックネーム」をお書になって、左胸に、付けておいて下さい。 同封の「首輪」のネームプレートには、他の人には見られない様にして、ご自分のお好きな「有名人の名前」を書いて、上から目張りシールで見えない様に封をして置いて下さい。 後ほどゲームで使用します。」


そこへ、チョット責任者っぽい、醤油顔のイケメンが現れる。



瀬戸:「今日はご参加、有り難うございます。 本日、このパーティを仕切らせて頂きます、瀬戸弘樹と申します。 どうぞよろしく御願いします。」


村木:「凄い規模のパーティですね、吃驚びっくりしました。」


此の先輩、相変わらず、外面は、と人当たりは、極めて良好である。



瀬戸:「お陰さまで、数がまとまる分、費用的にも割安になっていて、皆様へのサービスも、より充実した物に出来ると自負しております。 本日の料理は本場フランスから二つ星レストランのシェフに来てもらっているんですよ。 ゲームやロトの商品も豪華ですので、是非楽しんで行って下さい。」


会釈して、会場入りしようとした僕に、…支配人が声をかける。



瀬戸:「スミマセン、お客様、もしかして、この春に、フランスでお会いしませんでしたでしょうか?? 確か、凱旋門の処で、」


この春、…



翔五:「実は、僕、4月に事故に遭って、そこら辺の記憶が、すっぽり抜けてるんですよね。 スミマセン。覚えていなくって。」


瀬戸:「そうなんですか、…それは大変でしたね。」





そして、もう一人、見知った顔に、…遭遇する。



村木:「お前、芽衣、…なんで、こんな所に居るんだよ!」


芽衣:「女には、色々付き合いとか、しゃあない事情ってモンがあるんよ。」



芽衣:「やあ、翔五、…はろー、」

翔五:「こんばんは、先輩、」


僕は、思わず、見蕩れてしまう。

ピンクのドレスに着飾った「先輩」は、何時もとは、まるで違って華やいでいて、…



芽衣:「恥ずかしいから、あんま、じろじろ見んといて!」


芽衣の頬が、心無しか、ぽっと赤く染まって、…



村木:「しかし、一部を除いて凄いレベル高いな。殆ど、芸能人レベルじゃね?」


芽衣:「なんで、そんな目で、ウチを見るん?」

村木:「いや、馬子にも衣装とは、よく言ったもんだ。」


芽衣、悪戯っぽく、べーっと、舌を出し、

僕は、つられて、苦笑い、



村木:「兎に角、俺には近づくなよ、俺は、今夜こそ、幸せを手に入れてやる! 俄然、燃えて来たぜえええええぇ!」










〜〜〜

瀬戸:「本日のパーティの司会進行を勤めさせて頂きます、「デイジー・カップリング・コーポレーション」の瀬戸弘樹と申します。 本日は、何卒宜しくお願い致します。」


瀬戸:「それでは最初に、本日の予定と、簡単な決まり事を、説明させていただきます。 まず、最初に注意事項ですが、…今宵の一時が皆様に取って最高の思い出となります様に、くれぐれも、皆様には、紳士淑女として、恥ずかしくない、節度をわきまえた行動をお願い致します。 もしも、スタッフが、問題ありと判断した場合は、その時点で、会場からの退出をお願いする事があります。」


瀬戸:「合わせまして、今晩の、この会場内での会話やパーティの内容に関しましては、会場から出た時点で、絶対に口外しない様に御願い致します。 会場内での写真撮影、ビデオ撮影も禁止です。 もしも、男女問わず、当社にクレームが寄せられました場合、あるいは規定に反する行為が確認された場合には、民法的な処置も含めて、然るべく対処させて頂く事になりますので、ご承知置き下さい。」


瀬戸:「尚、本日、見事カップルが誕生した場合には、当社よりお祝いとして、豪華景品の当たるギフト・ブックを進呈させて頂きます。 また、今後のお二人の各種お祝い事イベントやご旅行に関しましても、当社より、特別価格でご提供させて頂く事が出来ますので、是非、パーティの後半に、会場後方スタッフまで、御申し出下さい。」



瀬戸:「それでは、本日の進行について説明します。 毎年この神聖な良き日に、大切なパートナーとの出会いを応援する場として開催させて頂いております本イベントも、今回で4回目を数える事になりました。 回を追うごとに、内容も規模も、より充実したものとなり、 今回のパーティの参加者は、とうとう男性50名、女性50名の合計100名に達する事が出来ました。」


瀬戸:「本日の進行は、3部に分かれております。 先ず第一部は、本会場での立食形式となります。 最初に、初対面の皆様がお互いに声をかけ易くなります様に、アイス・ブレイクのゲームをして頂きます。 また、このゲームの結果に基づいて、次のディナー会場でのテーブルの組み分けをさせて頂きます。」


瀬戸:「本日のディナーは、本場フランスの二つ星レストランのシェフによる、本格的なフランス料理を御楽しみ頂きます。 尚、ワインは、最高級グラン・クリュの数銘柄をフランスから取り寄せました。 皆様、お好きなワインを、ワインリストの中からお選びいただけるようになっております。」


瀬戸:「ご歓談頂きながらのメインディッシュの後、ロトの抽選を行いたいと思います。 全12点、合計100万円相当の豪華商品を用意しております。 特賞は、ペアで行くフランス・パリ7日間の旅です。」


瀬戸:「お料理を楽しんでいただいた後は、再び、こちらの会場に戻っていただいて、落ち着いた雰囲気の中でのフリータイムとなります。 有名パティシエによる各種スイーツや、デザートワイン、カクテル、各地から取り寄せました地酒、ウィスキーなど、様々なお飲み物を用意させて頂いております。」


瀬戸:「尚フリータイム時に、ご休憩が必要な方の為に、当ホテルの特等室を幾つか用意させて頂きました。 こちらを使用される場合は、男女両名の合意が必要になりますので、予めご了承下さい。」










村木:「最初のテーブル分けが、勝負だな。」

翔五:「フリータイムに男女でご休憩って、…どういう意味なんですか?」


芽衣:「あかん、なんか緊張してきた。」

芽衣:「翔五、おんなじテーブルになる様にしよな。」


翔五:「はあ、でも、どうすれば良いんですかね。」



瀬戸:「それでは、お近くのテーブルから、どうぞご自由にシャンパンや、簡単なカナッペ等もご用意しましたので、お手に取っていただいて、…早速、アイス・ブレイクのゲームに移りたいと思います。」


瀬戸:「先ずは、受付の際にお配りした首輪のネームプレートに、ご自分の好きな有名人の名前を書いていただいていると思います。 いいですか、小学校の先生とか、町の町長さんは駄目ですよ、マスコミに名前が出ている、あるいは、歴史上の有名人物に限ります。 他の人には、見られない様に、書いてくださいましたね。 ネームプレートの上に、封印シールが貼ってあるか、ご確認願います。」



芽衣:「翔五、アンタ、何て書いたん?」

翔五:「見ちゃ駄目ですよ、」


瀬戸:「出来ましたら、男性の方は、その場で動かないで下さい。 女性の方、今立っている位置から、30歩、歩いた所に立っている、男性の方に、お持ちの首輪を付けてあげて下さい。 どなたでも結構ですが、一人に首輪は一つだけです。 お一人で3つも4つも付けちゃ駄目ですよ。」


芽衣:「ほな、行って来るわ。」



トボトボと、歩いていく芽衣を見送り、

ぼーっと立っていると、ヒョコヒョコと、いつの間にか、

小さな女の子が、僕の前に、…立っていた。


小学生?中学生?

いや、流石にそれは、有り得ないだろうが、


身長は150cm位、小柄で華奢な体つき、肩にかかるかかからないかの髪を両サイドでツインテール風に束ねている。 顔立ちはどちらかと言えば地味な方だが、すっきりと目鼻立ちが整っていて、どこか、赤ん坊ミタイな、幼さ、あどけなさの抜けない、可愛らしい、…女の子。


私立中学の制服、…って言ったら、怒るだろうか。。




翔五:「リョーコ、さんって、言うんだ。」


番号札「5番」の下に、…そう書いてある。



少女は、ずっと無表情で、黙ったまま、…

機嫌が悪いのかな?


もそもそと、僕の首に腕を回して、…首輪をつける。


何だか、手間取ってるのか、ずっと、僕の首に抱きついたカッコウの侭で、モジモジしているから、…僕は思わず、変な気分になって、ちょっと、下半身が引け腰になって、…しまう。



ふわっと、鼻腔に、甘い、香りが漂う。

こんなに、女の子と密着したのって、もしかして、始めてかも知れない。



翔五:「はは、」


僕は、思わず、照れ笑い、…

少女が、じっと僕の事を、ジト目で見詰める。



瀬戸:「あぶれてる人は、居ないですか? まだ、首輪を付けてもらってない人、いませんか?  …それでは、今度は女性の方は立ったままで、男性の方、30歩歩いて、女性の方に、首輪を付けて上げてください。」


翔五:「じゃあ、行って来るね、」


僕は、リョーコに、チョット手を振って、まず10歩歩いて、…

それから立ち止まって、考える。


周りには、「大きいの」から「小さいの」まで、ムンムンする女の匂い、化粧品の匂いで蒸せ返っているのだが、…


一体、誰に付ければ、…良いんだろう?





瑞穂:「下らない。一体、誰がこんな事して喜ぶのよ、マドロッコシイ。」


声の方を振り返ると、…凄い美人だった。


瑠璃色がかった濡烏ぬれからすの髪、芯の強そうな眼差し、華奢スレンダーで黄金比なスタイル。神の贔屓ひいきとしか思えない美貌。


胸元の深く開いた、黒の、Vネックのビジュードレープ・ドレス。



僕は、思わず、、見蕩れて、…しまう。


番号札18番には、そこそこの達筆で、「瑞穂」と書かれていた。



瑞穂:「何見てんの? アンタ、もしかして私に、首輪を付けたいって、…そういう訳?」


何だか、…怖い、



翔五:「えっ、いや、…」


瑞穂:「良いわよ、ルールだから、…付けさせてあげるわ。」

瑞穂:「何してんの?、早くしなさい。」


僕は、攻め立てられる様にして、

仕方無しに?、その美人の首に、…首輪を付ける。



翔五:「あの、…良い匂いですね。」

瑞穂:「馬鹿じゃないの? そんな事言って、女が喜ぶとでも、思ってる訳?」


翔五:「あっ、いや、…ごめんなさい。」




瀬戸:「宜しいでしょうか? 首輪の付け忘れは、ございませんか? それでは、皆さん、ご自分の首に掛けられた「首輪」の、封印シールを剥がして下さい。 但し、剥がしても、何と書かれてあるか、言っては駄目ですよ。」



瑞穂の「首輪」には、…僕が書いた「手塚治虫」と書かれてある。

当然、僕には、自分の「首輪」に何と書かれてあるかは、…見えない。



瑞穂:「間抜けな格好ね。」



瀬戸:「良いですか、これから、皆さんには、自分探しの旅に出ていただきます。

まあ、自分といっても、ご自身の「首輪」に書かれた名前を推理する、というそういうゲームです。 これから、どんどん歩いていって、どなたでも結構です、異性の方とまず、お辞儀をして、それから、握手をしてください。 良いですか、抱きついたり、キスしたりしては駄目ですよ。」


瀬戸:「挨拶が済みましたら、パートナーになった人に、自分の首輪に書かれている人物について、一つだけ質問をして下さい。 一人の人に尋ねてよい質問は一つだけ、しかも、YesかNoで答えられる内容に限ります。 尋ねられた人は、YesかNoで答えてあげてください。 それ以外のヒントを与えてはいけません。」


瀬戸:「例えば、今、私の首輪には「マライア・キャリー」と書かれてあります。 彼女の首輪には「エジソン」とかかれています。」


女性スタッフが、ぺこりとお辞儀をする。



瀬戸:「そこで、私が質問します。 私は男ですか?」

青山:「Noです。」


瀬戸:「交代で、彼女が私に質問します。」

青山:「私は芸能人ですか?」

瀬戸:「Noです。」


瀬戸:「これで1ターンです。 終わりましたら、…良いですか、親愛をこめて、一度だけ、軽くハグしてください。 いいですか、軽くですよ。 3秒以内です。 それ以上はルール違反です。 ハグが終わりましたら、別のパートナーを見つけて、同じ様に質問してください。」


瀬戸:「そうして、どんどんヒントを手に入れて、それで、自分が一体誰なのか分かった方は、正面の机のスタッフのところまで、報告に来てください。 正解した方から、この「抽選機」でくじを引いていただきます。 正解の順番と、くじに書かれたアルファベットで、次の会場のテーブルと席順が決まります。 また、各テーブルごとに、先着正解者2名の方には、当社パック旅行で使える、5万円相当のクーポン券を、差し上げます。」


瀬戸:「それでは、これから20分の間、自分探しの旅に出かけて下さい!」



瑞穂:「それで、アンタ私に、何て書いたの?」

翔五:「いや、それって、ルール違反じゃ、…」


瑞穂:「良いのよ、こんなの馬鹿らしくてやってられないから、早く教えなさい、そしたら、アンタのも教えてあげるから、」


瑞穂:「そうすれば、ぐだぐだ色んな人間に聞いて回んなくって済むでしょ。 何なの、いちいち握手しろだの、ハグしろだの、…気持ち悪い。」


いや、そういうイベントな訳で、…



瑞穂:「頃合い見計らって、スタッフに正解を伝えれば、…以上終了よ。」


翔五:「それって、なんか、趣旨と違う様な、…」

瑞穂:「何、なんか文句ある訳?」


翔五:「いや、そう言う訳じゃ、…」

瑞穂:「ナニ、こんなゲームで本気になってんの? そんなに女に抱きつきたいのなら、アンタはどんどん続けて行けば良いじゃない。 …スケベ、」


翔五:「別に、そういう訳じゃ、無いです、けど、」


瑞穂:「良いから、早く教えなさいよ。」

翔五:「はあ、「手塚治虫」です。」


瑞穂:「はあ?何なのそれ、なんでクリスマスの合コンで「手塚治虫」な訳? アンタ漫画じゃなくて、空気読んだ事有るの?」


翔五:「いや、まさか、こんな事するなんて、思わなかったから。」


瑞穂:「「聖徳太子」よ、」

翔五:「えっ?」

瑞穂:「アンタの首輪、そう書いてある。」


翔五:「なんで、…聖徳太子? なんだろう??」


僕は、さっきの女の子の事を、…思い出す。


瑞穂:「じゃあ、…」

翔五:「あっ、はい、それじゃあ、また、」


瑞穂:「違うでしょ、馬鹿なの?」

瑞穂:「ルールよ、聞いてなかったの。 その、…ハグ、するんでしょ。」


翔五:「あっ、…そっか、」


瑞穂:「いい、ルールだから、…仕方なくだからね、」

翔五:「はあ、…」


何だか、僕の方が、意識して、真っ赤になって、…しまう。


瑞穂は、おずおずと近づいて来て、



瑞穂:「3秒間よ、分かってる?」

翔五:「…はい、」


何だか、彼女の方から、…きつく、抱きしめてきて、…

彼女の中の、心臓のドキドキが、直に、伝わってくるみたいで、…



瑞穂:「仕方ないでしょ、こういうの、慣れてないんだから。」


やっぱり、そうなんだ。 


なんか、自分と同じ、諸々「初心者」の匂いがするって言うか、…

妙に親近感が沸くって言うか、…

何だか、つい、安心してしまう、ミタイな、…


不思議な、感じ。





芽衣:「翔五、教えて~」


芽衣の首輪には、「ベッカム」、と書かれてある。



翔五:「えと、最初にお辞儀して。」

翔五:「それから、…握手、」


芽衣の手を握るのは、実は初めてだった、…気がする。


新人歓迎コンパで、酔い潰れた僕を、一晩中介抱してくれて、それ以来、僕は、この先輩に、頭が上がらないのだ。


芽衣の指は、華奢で、柔らかくて、ちょっと暖かかった、


ポッと、芽衣の頬が、赤く染まる。



芽衣:「ウチは、男なん?」

翔五:「Yes…って、先輩、未だ其処なんですか??」





見ると、…妙な人集りと言うか、人口密度の局所集中が出来ている。

つまり、よっぽど、抱きつきたい異性が、其処にいる、と言う事なのだろう。


僕は、ついつい気になって、その中心を、覗き込んで見る。


確かに、…

別格な美人が、其処に居た。


スーパーモデルの様な、グラマラスなモデル体型と、少し頼りなさそうなアイドル顔に、ほんの少し茶の掛かったショートカットの柔らかスィートボム、…色香と可憐が同居する美女。


白の、ショート丈ワンピース、曝け出された鎖骨と、肩から背中に掛けた肌色

が、妙に色っぽくて。 その上、大きなリボンに負けてない、恐らく88以上は有るであろうバストが、どうしたって脳内麻薬を刺激する訳で。。 更に、膝上丈から剥き出しになった、すらりと長い脚が、男を居ても立っても居られなくする訳で。。。


そこらの芸能人なんかよりも、別格で、…可愛い。 



村木:「おお、翔五、見たか、あの娘、」

翔五:「凄い、…美人ですね、」


村木:「俺の人生設計は、決まった様なもんだぜ。 俺は、命を懸けて、あの子にアタックする!」



ぼーっと見蕩れている僕に、気付いて、

その超美人が、可愛らしく、…笑った。



村木:「俺、もう一回、行って来る!」


美女の前にズラッと並んだ行列に、村木が参戦する!



翔五:「って、村田さん、二回目なんですか?」

村木:「こう言うのには、積極性が求められるんだよ!」










〜〜〜

芽衣:「翔五、何番?」


芽衣が、駆け寄って来る。



翔五:「あっ、先輩、僕、Dの3番です。」

芽衣:「ウチ、Pの5番、なんや、同じテーブルとちゃうんかな。」


芽衣:「なんか、喉渇いたな、」

翔五:「あっ、先輩、僕、飲み物とって来ましょうか?」


基本的に。パシリな僕



芽衣:「有難ありがと、ウチ、シャンパン飲んでみたい、一緒に行こ。」



ウェイターが、TVで見る様な6段重ねのシャンパン・グラス・タワーに、慎重に、高級シャンパンを、注いでいく。 …の、前に、普通に並べられたグラスを二つとって、



翔五:「どうぞ、」

芽衣:「ありがと、」


芽衣は、柔らかそうな唇を、黄金色の液体に浸して、…

お酒を飲む女の子って、何だか、一寸、色っぽい、



芽衣:「なんか、甘酸っぱいんやな、シャンパンって、」

翔五:「もしかして、飲んだ事、無いんですか?」


芽衣:「有るけど、味わって飲むんは、これが始めてかな。」




朋花:「こんばんは、」


さっき、囲まれてた、超美人! が、現れる。



朋花:「ちょっと、逃げてきちゃった。」


名札には、可愛らしい字で、「ほのか」と書かれてあった。



翔五:「こ、んばんわ、」


僕は、当然、緊張する訳で、



朋花:「私も、もらおうかな〜。」


と、一瞬、不可思議な緊張が、芽衣の表情を、…凍りつかせる、、



翔五:「先輩、どうしたんですか?」

芽衣:「い、や、 別に、何でも、ないんやけどな、」


何故だか?

芽衣が、ほのかサンを、睨んでる?? 様に見えるのは気のせいなのか?



翔五:「もしかして、ほのかサンって、モデルさんか、芸能関係の方ですか?」


朋花:「やだ、そんな風に見える? 全然、…警察官よ。」


朋花は、そう言いながら、

くいーーっと、シャンパン・グラスを、一気に開ける。



翔五:「凄い、お酒強いんですね。」



芽衣:「ちょっと、ほのかサン、…「お花摘み」付き合ってもらえますか?」

芽衣:「翔五、後でな、」


翔五:「はあ、」



芽衣、何故だか、美人とツルンデ、化粧室へ、、


そこへ、村木先輩登場、



村木:「お前、何ちゃっかり話してるんだよ、て言うか、すかさず俺を紹介しろよ、

本当に気が利かない奴だな。」


翔五:「す、ミマセン、」



村木:「で、何話してたんだ?」

翔五:「いえ、お酒強いですね、って事くらい、」


村木:「全く、何やってんだよ、折角お近づきになれるチャンスだったのに。 良いか、今度チャンスが巡ってきたら、兎に角、次に繋げられる様に、連絡先を聞き出すんだ。 でも、絶対に手は出すなよ。 俺が狙ってんだから。」



翔五:「って、先輩、「望月さん」狙いだったんじゃないんですか?」


村木:「お前、馬鹿か? レベルが違うだろ。 目の前にタイが泳いでるのに、今更アジなんか釣ってられるかってんだよ。」



翔五:「はあ、」


と言うか、望月さんの方も、何だか他のイケメンと、楽しそうに話している。


元々、村木先輩の事は、カップル参加で参加費を下げる為の道連れ、…位にしか思っていなかったに違いない。










瀬戸:「それでは、皆さん。 ディナーの準備も整った様ですので、第二会場のほうへ移って頂きたいと思います。 まだ、ご自分の正体が分かっておられない方は、居ませんね? もしもいらっしゃいましたら、スタッフの方まで来てください。」


瀬戸:「他の皆様は、会場後方のスクリーンに御注目下さい。 今から、テーブルの席順を出しますので、ご自分の席をご確認のうえ、隣のディナー会場の方に移動を、御願いします。 まずは男性から、…」



そして、ホールが、どよめきに、…包まれる。


ディナー会場には、8人席の円卓が10個と、10人がけのテーブルが2個。

僕の「D」は会場右側、やや前方よりの、8人席だった。



瀬戸:「それでは、男性の方から、ご自分の番号が書かれた席まで行って、御待ち下さい。 まだ、着席しちゃ、駄目ですよ。 続いて、女性の方の席を、発表します。」


とは言っても、ディナー会場に移ってきた僕達には、スクリーンは、見えない訳で、何だか、そわそわしながら、ドヤドヤと移動してくる、女性陣の行き先が気になってしまう訳で、


果たして僕の隣に、来たのは、



朋花:「宜しくね、」


僕は、思わず、息を呑み。

周りからは、悔しそうな「舌打ち」の、嵐。



あの、グラマー美人の、ほのかサンが、僕に向かって、にっこりと、微笑む。



納本:「始めまして、納本と言います。 お見知りおきを、」


すかさず、反対側の隣の「勘違いイケメン」が、ほのかサンに、…声をかける。



朋花:「宜しくね。」



そして、反対側から、誰かが、僕の服の裾を引っ張った。

見ると、さっきの女の子、確か、…リョーコちゃん。


翔五:「やあ、また会ったね、」


って、この子、本当に二十歳、越えてんのだろうか??

いや、でも、しかし、…



リョーコちゃんの右隣には、何だか「高校の教頭先生みたいなダンディなオジさん」が、緊張の面持ちでたたずんでいた。




芽衣:「翔五!」


僕の左側、二人挟んで「勘違いイケメン」の隣に、…芽衣、



芽衣:「同じテーブルやったな。」


どうやら、女子のPが、男子のDと、ペアになっているらしい。



そうして、もう一人知った顔、

僕の右側、リョーコちゃんの隣の教頭先生(仮)の隣に、

何だか、つっけんどんな、超美人、…瑞穂さん。



どよめき:「なんで彼処のテーブルばっかり、美人が集まってんだ?」

等という台詞は、勿論どこからも、聞こえてこない。


そんな事を言った途端に、これからの1時間強が、台無しになる事は明白だからだ、が、それと分かる、刺すような視線と響きが、僕らDテーブルの男性陣に、…


突き刺さる。



特に、I列の村木先輩の目から、…血の涙??




瀬戸:「それでは、男性の方、ご自身の左となりの女性をエスコートして、着席させてあげてください。」



朋花:「ありがとう、」


僕は、ほのかサンの椅子を引いて、

着席にあわせて、少しだけ、位置を調整する。



瀬戸:「それでは、ご着席ください。

…皆様、お手元のワイン・リストをご覧になり、男性が、左隣の女性と相談して、ワインを選んであげて下さい。 ワインはグラスでサーブされますが、お替りは自由ですので、是非、自信をもって取り揃えました最高級グラン・クリュのワインを、心行くまでご堪能下さい。」


会場が、一斉にザワザワと、活気付く。



瀬戸:「後ほど、メインコースのチョイスの後、豪華賞品が当たる、ロトを準備しておりますので、それまで、暫しの間、本場フランス、二つ星シェフの料理をお楽しみ下さい。」



納本:「お仕事は、何をされてるんですか?」

朋花:「ええ、司法関係の仕事を少し、…」


すかさず、「勘違いイケメン」が、ほのかサンに話しかける。


速攻だなぁ、と思いつつも、まあ、その内に話する機会もあるだろう、と、高を括って、出端でばなくじかれた僕は、暫く大人しく、…


口をつぐむ。



僕は一人、ワイン・リストを開いて、…

しかし、ワイン選べ、って言われても、どれが何なのか、全く分からない。



翔五:「シャブリ、って、何処かで聞いた事があるな、」


ちらりと見ると、「勘違いイケメン」は、自分の左側に座った芽衣の事など、ほったらかしで、ほのかサン狙いで、ガンガン、ワイン知識を、見せびらかす。



納本:「フランスのワインなら、僕は断然シャトーヌフ・デュ・パプですね、 残念ながら、今回のワイン・リストからは漏れている様ですが、本場フランスでは、殆どのレストランのワイン・リストに含まれている程の有名なワインです。 何が素晴らしいって、…はずれが無いんです。 一般的にワインって、同じ銘柄と同じヴィンテージ(収穫期)でも、かなり風味にバラツキが出るものなんですが……、」


芽衣が、僕の事をチラッと見て、…苦笑い、


ふと、反対側を見ると、教頭先生(仮)が、照れ臭そうに、リョーコちゃんと話をしている。


いや、正確には、リョーコちゃんの方は、さっきから一言も喋っていないので、教頭先生(仮)が必死に話を繋いでいる? そんな感じ。 見た目、歳の差30歳、、これって、もしかして、…犯罪なんじゃないのか?



正面を見ると、…

ツンドラ美人の瑞穂が、意味ありげな流し目で微笑みながら、隣の男を、じっと見詰めている?


脂ぎった、大男、…僕より太ってる。

なんで、あんな男と、楽しそうに…してる?


さっき、僕に突っかかってきた時とは、大違いだ。


どうせ、僕なんかは、そういう扱いなのだろうけど、…

これ見よがしなギャップに、何故だか、胸の奥が、いらっとする。



瑞穂:「へー、西さんも、お料理されるんですか?」

西:「ええ、まあ、趣味が高じて、大型キッチンの付きのマンションに引っ越しちゃいましたよ。」


何だか、二人の距離が、…近い、



皆、楽しそうで、

僕は、居たたまれない。


皆、楽しそうで、

僕には、入り込んで行く余地がない、


そうだよな、昔っから、こういうのに混じるの、…苦手だったんだよな



まあ、美味い料理を食べれるだけで、良しとしよう、



みんなの話し声が、どこか遠くのザワメキの様で、

僕だけ一人、置いてけ堀にされたみたいで、



僕には、関係ないじゃないか、



なのに、何で、こんなに、気分が悪いんだろう。


変だ、いつもなら、こんな事、何にも気にならない筈なのに、

どうせ、最初から、僕の事なんか相手にしてくれる人が、居る訳無い筈なのに、



どうして、こんなに、詰まらないんだろう

料理も、何も、味がしない。










〜〜〜

第三部、フリータイム。

スタート開始5分、T-サミット。



朋花:「全然、思い出さないみたいね、」


瑞穂:「有り得ない!」

瑞穂:「大体、自分の女が他の男とイチャイチャしてんのに、何にも感じないって、どう言う事よ??」


朋花:「やっぱり、ご主人様マスターじゃなくって、別の翔五クンなのかな。」


朋花:「それか、もしかして、NTR願望だったらどうしよう〜」

瑞穂:「そう言う問題じゃない。」


瑞穂:「後1週間もすれば、アリアが戻って来る。」

瑞穂:「それで、まだ翔五が記憶を取り戻してなかったら、…」


瑞穂:「アノ子、キレてナニするか解んないわよ。」


朋花:「キレるって?」

瑞穂:「最悪、この世界を、滅ぼしかねない。」


朋花:「物騒だね、」




瑞穂:「次の作戦に移るわよ。」


芽衣:「ほんまに、「アレ」やるんですか?」

瑞穂:「勿論よ、「変態フェチ」には「変態フェチ」な刺激を与えるのが効果的、…な、筈!」



瑞穂:「じゃあ、みんな、打ち合わせ通り、頼んだわよ!」










〜〜〜

フリータイム、と言うのは「フリー」な訳で、

一人で、プラプラ酒を飲んでても、フリーな訳である。


僕は、5万円分の出費を取り返すべく、…

早速、高級珍味の物色に廻る。



ホールの壁際に並べられた休憩用の椅子に腰掛けて、心穏やかに、

豆腐餻とうふよう片手に、古酒クースーを堪能する、、



其処へ、リョーコが、近づいて来た。

見ると、さっきの教頭先生(仮)も、後ろにくっ付いて来ている。



リョーコ、片手にカクテル、恐らくマティーニのグラスを、摘んでいる。

じーっと、僕の顔を見て、、



翔五:「なに? かな?」


僕の食べている豆腐餻を、…指差す。



翔五:「これ、沖縄の豆腐餻だよ、あそこのカウンターで、もらえるよ。」

教頭先生(仮):「リョーコさん、私がもらって来てあげようか?」



リョーコ、尚もジト目で、僕の食べかけを、…指差す。



翔五:「これ、欲しいの?」


僕は、何だか、蛇に睨まれた蛙ミタイに、脂汗が、…



リョーコ:「交換、…」


そう言いながら、リョーコは、自分のカクテルに入っていたスティック付きのオリーブを、先ずは、自分の口に含み、コロコロ転がしてから、小さな指で「綺麗」になったオリーブの実を摘んで、僕の口の中に、…


押し込んだ。



翔五/教頭先生(仮):「あっ、」


リョーコの指の感触が、僕の唇に、歯に、舌に、

強引に、僕の劣等感の壁の隙間に、…入り込んで来る。



それから、



涼子:「あーん、」


僕は、自分の胸の鼓動で、何が何だか、前後不覚に陥っていたのだ、…


だから、言われるが侭に、自分の持っていた食べかけの皿から、…

豆腐餻を、山盛り、スプーンで掬って、…



涼子:「あーん、」


…する、その可愛らしい、唇の中に、ソレを、…

突っ込んだ。



いや、…


想定していた味と、どうやら、…

違ったらしい。


まあ、豆腐餻の味を最初から知ってる中学生??なんて、…

居ないよな。。。





涼子:「んーーーーーー!」


リョーコ!!!!

パニックの形相で、アタフタする!!


まるで、激辛料理を無理矢理食べさせられたお笑い芸人ミタイに、涙目で、…


右往左往!!!



教頭先生(仮):「リョーコさん、大丈夫? ほら、口直しして、」


教頭先生(仮)は、自分の飲みかけのカルアミルク???を、リョーコに手渡して、…リョーコは、躊躇しつつも、ソレを、…やっぱり拒否、


そのまま、僕に、…



翔五:「ええっ?」


抱きついて、僕の頭を両方から押さえつけ、強引に、…

口の中の、ドロドロのモノを、僕に、…


口移しした。



翔五:「ん〜!」


豆腐餻と、唾液の混じった、

何だか甘いドロドロしたモノが、

僕の、喉を、…


降って行く。



それから、

文字通り、「ピューっ!」と言う感じで、

リョーコは、走り去る。


どうやら、ジュースを貰いに、…行ったらしい。



教頭先生(仮):「リョーコさーん!」


教頭先生(仮)も、大急ぎで、…付いて行く。



僕は、呆然と、口の中に残る、弾力性の有る甘肉の、後味に、…

酔いしれる。







朋花:「見てたよ、…君、大胆だね。」

翔五:「えっ、…あっ、」


見上げると、ほのかサンが、両手に、

まん丸く削ったロック・アイス入りの、ウィスキーのグラスを持って、

微笑んでいた。



朋花:「隣、良いかな?」

翔五:「はい、」


ところが、僕は、未だ、

ほのかサンが傍に来てくれたよりも、

口の中に残るモヤモヤの事が、気になって仕方ない訳で、


だから、さっきからずっと、上の空な訳で、



朋花:「一つ、飲む?」


ほのかサンは、そう言いながら、グラスを一つ、僕に手渡して、

僕は、上の空の侭、冷えたウィスキーを、…一気飲みする。


隣で、ほのかサンも、きゅーっと、一気にグラスを、半分、…空ける。



キツい、ピートの香りが、

僕の口の中を、…


洗い流す。



朋花:「翔五クンは、今迄に女の子と付き合った事あるの?」

翔五:「無いです。」


朋花:「ふーん、じゃあ、好きな子とか、片思いの人とか、居るの?」


どうだろう、…


芽衣を、時々、芽衣を見ていると、何だか、…

とても不安な気持ちになる事がある。 


芽衣が、会社の男の先輩に声をかけられていたりすると、…


こういうのは、もしかして、恋だったりするのだろうか?

でも、僕にはこれまで恋をした経験なんて無いから、…



翔五:「…分かりません。」

翔五:「…あっ、」


ほのかサンの、脹脛ふくらはぎが、

僕の脚に触れて、…優しい、温もりが、…


伝わって来る。



朋花:「ねえ、翔五クンって、小さい女の子が、好きなの?」

翔五:「えっ?」


朋花:「とっても、情熱的なキスだったよ。」

翔五:「違うんです、あれは、…事故で、」


ほのかサンの、

大きく開いた胸元から、たわわな、瑞々しくて、張りの有る、…



朋花:「おっきい娘も、興味ある?」


いや、それどころか、さっきから、目が離せない訳で、…



朋花:「…良い、よ、」

翔五:「えっ? 何が??」



何故か、ほのかサンの顔が、赤い



朋花:「…何、したい?」


彼女はそっと、僕の耳元に唇を近づけて、まるで囁く様に、…



翔五:「ナニ、って…?」


だから、もはや僕には、自分の心臓の音しか、聞こえない、…訳で。




男A:「どうしたんですか?」

男B:「ナニナニ、ほのかお姉ちゃん、僕にも教えて、…」

男C:「さっき当たった「パリ七日間の旅」なんですけど、もし良かったら、…」

男D:「俺、代官山でブティックやってんだけど、ウチで働いてみない?」

男E:「以下省略…


あっと言う間に、僕らは、男共の垣根に、…

囲まれる。



朋花:「あっ、…えっ、…あの、…」

朋花:「何? ナニ、なに?? …分かんない!」



何で、お前が其処に座ってるんだ? という殺意に満ちた視線と、…

お前に付いて来れる話題なんか無いんだよ! という是見よがしな疎外感と、…

瞬く間の喧騒を抜けて、…


僕は、居場所を見失って、…席を立つ。





さよならも、言えなかったな、…

イヤ、言わなかったんだ。


まあ、仕方ないか、…

僕は、「星占いの予言」に全部、責任を押し付けて、


それから一人、ホールを抜けて、トイレに、…


立て篭る。




翔五:「流石、一流ホテルは、トイレもきれいだな。」


一人、落ち着いて小用を足す、僕の背後から、



瑞穂:「相変わらず、貧相ね。」


濡烏の髪の美女が、…覗き込む??



翔五:「…って、! 此処! 男便所ですよ!!」

瑞穂:「別に構わないじゃない、どうせアンタしか居ないんだから。」


そう言いながら、瑞穂が、個室に、…立て篭る。



瑞穂:「覗かないでよ。」

翔五:「覗かないよ!」


僕は、一気に、出るもんも半分、納まっちゃった訳で、…



瑞穂:「人が来ないか見張っててよ、」

翔五:「何で、男子トイレなんかに入って来たんです?」


瑞穂:「五月蝿いわね、チョット間違えただけよ。」


暫くすると、当然聞こえてくる、水の音。

…って言うか? これは一体、どういうプレイなんだ???



それから、水を流す音がして、



瑞穂:「居る?」

翔五:「はあ、居ますよ。」


瑞穂:「じゃなくって、他の男よ、」

翔五:「いや、居ませんけど、」


瑞穂:「そう、ハンカチ貸して、」

翔五:「どうするんです?」


瑞穂:「個室の上から、投げ入れなさい。」



僕は、意味不明にご立腹の振りをしながら、



翔五:「全く、何なんだよ、」


内心、何だかホンホンしながら、ハンカチを、個室の上から、投げ入れる。



瑞穂:「何コレ、しわくちゃね、ちゃんと洗ってるの?」

翔五:「洗ってますよ、アイロン掛けてないだけです。」


それから暫くして、個室のドアが、…開く。



瑞穂:「はい、返すわ、」


それから彼女は、手を洗い、



翔五:「ハンカチ使います?」

瑞穂:「もう使えないわよ、それ、」


確かに、何だか、湿ってる様だが、…

一体、何を拭いたんだ??



それから、僕達は、ジェット式の乾燥機で手を乾かして、…



瑞穂:「どうなの、一寸は、気になる子、見つけたの?」

翔五:「いや、どうせ僕なんか、駄目ですから。」


瑞穂:「だらしないわね、」

瑞穂:「そんな事言っても、誰も慰めないわよ。」


翔五:「良いですよ、別に、慰めてくれなくって。」


僕は、拗ねた振りをして、鏡に映った、瑞穂の顔を見詰める。



翔五:「瑞穂さんは、…」

瑞穂:「いいわよ、瑞穂で、…しょうが無いから。」


翔五:「イヤ、流石に、そういう訳には、…」

瑞穂:「良いって言ってるでしょ、」



翔五:「瑞穂は、…」

翔五:「誰か、いい人見つけたの?」


瑞穂:「見つけてたら、こんな所でアンタとだべってないわよ。」


僕は、一寸だけ、…何故だか、安心してしまったんだ。



翔五:「じゃあ、瑞穂、…も、料理だけ楽しむ感じ?なの、」


ちょっと、彼女の頬が、…赤くなる、



瑞穂:「何処が良いのよ、あんなの、ワインもフランス物ばっかりだし、」

翔五:「やっぱりワインは、イタリア?」


瑞穂:「そう、に、…決まってるでしょ。」


僕は、一寸だけ、…何故だか、不思議と、落ち着くんだ。



翔五:「でも、シャブリ、…美味しかったよ。」

瑞穂:「人気有りすぎんのが嫌なのよ、」


瑞穂:「それに、イタリアの方が気候は有利だわ、カプリ島の「キリストの涙」ってワイン、飲んで見なさい、シャブリなんか、いっぺんで霞むから。」


なんだろう、この感じ

何だろう、胸に、しっくり来る、この感じ



翔五:「はーあ、なんでみんな、ワインを語りたがるかな〜、」

瑞穂:「アンタだって、アニメとかゲームとか、オタクっぽいもの語るんじゃないの? それと同じよ。」


なんだか、瑞穂って、美人だからとっつきにくいかと思ってたけど、

意外と話しやすくって、…良いな



翔五:「なに、それ、どう言う意味だよ。」

翔五:「そう言う瑞穂の趣味って何なんだよ。」


こんな、友達が、居たら、

気兼ねしないで、何でも話せる友達が居たら、…良いな



瑞穂:「別になんだっていいじゃない。」

翔五:「狡いぞ、教えろよ。」


見ると、

瑞穂の顔が、何時の間にか、真っ赤に、…

今にも、泣き出しそうに、…


なっていた。



そのまま、トイレを飛び出して行く、…

瑞穂。



翔五:「何か、イケナイ事、言っちゃったのかな、…?」













〜〜〜

合コン終了30分前、Tサミット


瑞穂:「朋花、アンタ何やってんのよ、」

朋花:「そういう瑞穂ちゃんだって、ちゃんとやれたの?」


瑞穂:「やったわよ、当たり前でしょ。」

朋花:「じゃあ、何でさっき泣いてたの?」


瑞穂:「目に、ゴミが、入ったの!」


瑞穂:「それに、芽衣! あなた、セクハラされる計画でしょ?」

芽衣:「みんなの前でなんて、恥ずかしすぎて、出来ません!」


瑞穂:「本当は弄られるの好きなくせに、」

芽衣:「誤解です!」



瑞穂:「しょうがないわね、最後の手段に出るしか無い様ね。」










〜〜〜

残り30分、


カップリング成功したカップルの受付が始まっている。

みんな、楽しそうで、始まった時よりも、カップルの距離は、断然近い。


村木先輩は、…まだ、頑張っている様だった。

何だか、色々頑張ったけれど、玉砕したんだろうな。



瀬戸:「後、10分程しましたら、未だ、カップルになられていない方限定で、「告白ゲーム」への参加エントリを受付開始します。 今回十分に時間が取れなくて、お話しする機会が無かった方、声を掛けられなかった方への、最期の告白タイムです…、」


周りの皆は、どうやら、ほのかサンと瑞穂の動向に、一喜一憂しているらしい。



そんな中、

突然、ほのかサンが、僕の肩を叩いた。



朋花:「さっきはゴメンね。」

朋花:「一寸、休憩しない。 私、疲れちゃった。」


そう言いながら、ほのかサンが、僕に「休憩室」の鍵を、…見せる。



翔五:「えっ、それって?」


いや、キット、何かの間違いだろう、

じゃなきゃ、なんかの、詐欺だろう、、



翔五:「いや、どういう、意味、…ですか?」

朋花:「私、君の事、気に入っちゃったミタイなんだ。」


女の人に、声を掛けられる何て、無かった訳で、…

ましてや、



朋花:「このまま、お別れなんて、一寸、嫌かも。」

朋花:「それとも、やっぱり、大きい娘は、…駄目かな?」


翔五:「いえ、そんな事、…」



僕達は、こっそりとホールを抜け出して、

当然、僕は、もはや、真っ白な訳で、


人生って、こういう物だったんだ、…





スイートルームの扉を閉めて、


僕は、既に思考停止していて、…



朋花:「服、脱いで、しわになると、イケナイから、」


指示されるが侭に動く、ロボットミタイで、…



朋花:「シャワー室、行こうか。」


僕は、少し俯いた侭、下着姿の侭、導かれる侭、



それで、ほのかサンが、いきなり後ろから、僕を、…







羽交い絞めにする!!!


突然、現れる瑞穂!!!!!



何故だか、その手には、…ナイフ??????




翔五:「あの、コレは、何の、…冗談?」


しかし、現役警察官の関節技は、容易にビクトモしない訳で、…



瑞穂:「大丈夫、後でちゃんと、傷は、…塞いで上げるから、」

翔五:「何で、こんな事、するの?」


瑞穂は、目を閉じて、一度大きく息を、…吐いた。



瑞穂:「翔五、簡単な二択問題よ、良く聴いて。」

瑞穂:「このナイフは何処を刺そうとしているでしょう? A心臓、B脳、」


身体が、…動かない。



翔五:「知らない…、」

瑞穂:「どちから選べば良いだけよ、難しく無いわ。」


瑞穂が、僕の胸に、そっと、掌を滑らせる。



翔五:「どっちも嫌だ。」

瑞穂:「10秒で選びなさい。」


知らない内に、僕の涙が頬を、…伝っている。



翔五:「お願いします。赦して。」

瑞穂:「後5秒、」


瑞穂:「4、3、2、1、」

瑞穂:「もう一度、死んでミヨウカ、…」


冷たいナイフの刃が、僕の鳩尾に、…



翔五:「友達に、なりたかったのに!」


一瞬、瑞穂の手が、…震えて、

僕は、自分でも信じられないくらいの機転で、瑞穂の腹に、…

前蹴りする。


不意を喰らって尻餅を付く瑞穂!



瑞穂:「痛ったあ、よくもやったわね!」

朋花:「瑞穂ちゃん! 大丈夫?」


それで、最期の悪あがきで全身を捩った、僕の、

右掌の、手刀が裂けて! …金色の、ナイフが、…


飛び出した!



翔五:「ナニこれ!?」


瑞穂:「やばっ! トリアーナのナイフ、」

朋花:「なんで、こんなところに?」 

瑞穂:「あの、山猫のやろう! まだこんなの隠してたんだ!」


瑞穂:「朋花! 離れて!」



羽交い締めの、戒めを解いて、

僕から離れて、緊急退避する、…朋花と瑞穂、



翔五 :「なんで、僕の手から、…ナイフが生えてんだぁ??」



二人の美人が、恐怖におののいた表情で、僕を、…

見詰めている。



僕は、何が何だか判らない侭、…

パンツ一丁で部屋を逃げ出して…



考えも無しに、兎に角、ヒトの居る所へ、…合コン会場へ、…

逃げ込むも、当然、警備員に、


取り押さえられる!



警備員:「刃物を持ってるぞ!」

翔五:「違う!」


後を追っかけて来る、瑞穂と朋花!


会場に沸き起こる、恐怖の喚声!


僕は、屈強な男、三人掛かりで床に押し付けられて、

裸の侭の顔面を、絨毯に、シコタマ、…擦り付けられる。



翔五:「一体、何が? 起こってるんだ??」













〜〜〜

そして、こんな常規を逸したシチュエーションの全てを、

まるで、帳消しにしてしまうかの様に、


およすべての者物ものモノを魅了するであろう深い眼差しが、…


僕の前に、降臨する。




その場に居た、全ての人間が、

男も、女も、皆、我を忘れて、その奇跡に、釘付けにされる。


それは、突然、…

ホールの中央、高い天井の直ぐ下の、空中に、出現し、…

キラキラと、光の鱗粉を撒き散らしながら、ゆっくりと、舞い降りて来た。



背の頃は130cm、華奢で中性的な肢体。傷一つ無い端正な小顔は透き通る様に白く、長い睫毛に大きくて深い瞳、ウェーブした艶やかな髪は腰まで届く豊かな長髪、そして潤った唇。


星を集積する夜光虫の様に、…全身から、おぼろげに光を放っている。




人々は、言葉を発する事を封じられて、

身じろぎする事も許され無い内に、その少女の、虜と化す、



奇跡の少女は、

床に組み伏せられた、僕の元へと、歩み寄り、

静かに、しゃがみ込んで、優しく…


微笑んだ。



アリア:「貴方って、何時も、おかしな格好しているのね。」


警備員:「あ、…」



一顧だにしない内に、霧の様に、空間の隙間に、消え失せる、…警備員達、

一体、何処へ、神隠しされたのかは、…不明、




そうして、止まっていた僕の心臓が、鼓動を、…

再開する。




僕は、知っている。

此の少女が、一体何者なのかを、知っている。

此の少女が、僕に何をするのかを、知っている。


此の少女の存在は、全ての恐怖をも凌駕して、

僕に、あらゆる痛みを、受け容れさせる事を、知っている。


少女が命じるのなら、僕は…

どんなに醜い姿になったとしても、生きさばろうだろうし、

今直ぐ此処で心臓を取り出して、炎の中に投げ入れたって、構わない。




翔五:「これは、夢じゃ、無いのか?」

アリア:「夢と現実になんの違いが有ると言うの?」


翔五:「君は、如何して、此処に?」

アリア:「貴方が望むのなら、私は何処にでも実在するわ。」




アリアが、僕に手を、差し伸べて、…



瑞穂:「アリア、危ない! それは、トリアーナのナイフよ!」



アリアは、トリアーナのナイフに触れて、…

掌の上で、さらさらの砂の様に砕いて、…


トリアーナに触れたアリアの指から、ゆらゆらと微かな陽炎が立ち昇り…

しかしそれは直ぐに、収まった、



瑞穂:「凄い、トリアーナを制圧したの?」




アリア:「貴方に、そんな武器は、似合わない、…必要ない。」

アリア:「だって私達が、貴方の盾であり、矛なのだもの。」





何故だか、訳も分からず、…

涙が溢れてくる。



アリア:「ねえ、今日は、ずっと、一緒に居てくれる?」

翔五:「アリア、…どうして、僕は此処に?」


アリア:「此処が何処だって、関係ないわ。」

アリア:「貴方が何処に居たって、必ず私が、探し出すもの。」



アリアの深い眼差しが、…

おそれを持って切なげに、ただ僕だけを、…


見つめている。



そして、跪いて、僕に、…



アリア:「私、ずっとお預けの侭だったんだよ。」


キスをした。




僕は、自分の正体を、…


取り戻す。







朋花:「良かったね…、」

瑞穂:「結局、アリアには、敵わないって事?」




アリア:「それでさ、…ママに、聞いたんだけど、」

翔五:「ママ? へっ、ああ、サリナ?」


アリア:「うん、アリア、ずっと、ママの所でお勉強してたの。」

アリア:「「管理者アドミニストレータ」の資格も取ったし、…」

アリア:「「呪文」も「魔法」も作れる様になったんだよ!」


アリア:「…ねえ、凄い? 褒めて!褒めて!」



そう言えば、サリナと何か、約束していた様な、…

気がする。



アリア:「何時にしよっか、」


アリア、俯いて、真っ赤になる、、、?



翔五:「なん、…だっけ、?」

アリア:「もう、…意地悪!」



確か「呪文」の「登録者」をアリアに変更する為に、名前を貸してもらう代わりに、…

一つだけ言う事を聞くって、…




アリア:「私達の、結婚式!」

アリア:「きゃっ!」


翔五:「痛てっ!」


アリアが、思いっ切り、僕のお腹の肉を、…


摘む、、










瑞穂:「なに、…それ?」

芽衣:「うそぉ! 何時の間に、そういう話になってんの?」




朋花:「あのさぁ、なんか、…寒いんだけど、」

涼子:「……、」


天井一面を覆い尽くす、黒い、…魔法陣、

辺りの空気が、…一切の分子運動を止められて、、、



瑞穂:「ちょっと!涼子。 止めなさい! 皆、死んじゃうってば!」













エピローグ〜〜〜


ヴァポレット(水上バス)が運河を、渡って行く。


瑞穂:「天下のヴェネチアも、此の季節は何だか、寂しいわね。」

千乃:「カーニバル(2月の仮面舞踏会)までは、シーズンオフだからね。」


千乃:「先週迄は風が強くって、アクア・アルタ(北アドリア海の異常潮位現象)が来てたのよ、」


二人は、ムラーノ島のカフェで、ホット・レモンジュースで暖まっている。




千乃:「それで、相変わらずアンタ達、金魚の糞みたいにあの子にくっ付いてるの?」


瑞穂:「そういう訳じゃないわ、」

瑞穂:「今回は、二人の「結婚式」の付き添いよ。」


千乃:「此処で式、上げるの?」

瑞穂:「ええ、あいつ、どうしても、もう一度、此処に来たかったみたい。」


千乃:「トリアーナ、役に立ったみたいで良かったわ、」

瑞穂:「相変わらず、…活動は続けてるの?」


千乃:「まあね、敵はメルカバーだけじゃ無いからね、」

千乃:「万里はカイトと一緒に、スカンジナビアに出張中よ。」







サン・マルコ広場からリアルト橋へ抜ける途中の、ホテル、


朋花が、ベッドの上に「お土産の店」を展げている。

そこへ、芽衣と、涼子が、何やら結託?しながら、…帰ってくる。




朋花:「貴方達、まだ諦めてないの?」


芽衣:「「結婚」と「恋愛」は、「別腹」ですから!」

涼子:「…………から!」


朋花、苦笑い、



芽衣:「そういう朋花さんは、平気なんですか?」

芽衣:「今回の旅費も、ほとんど朋花さんが出したんですよね。」


朋花:「お祝いだもの、」

朋花:「それに、どっちにしたって、私達が、彼の「持ち物」である事には、変わリは無いんだから。」


朋花、ポット、…頬を染める、



芽衣:「やっぱり、…性奴隷なんや、」

涼子:「…………や、」







サン・マルコ寺院前、

アクア・アルタの名残で、未だ少し、浸水が、残っている。




翔五:「結構、びしょびしょだな、」

アリア:「翔五ぉ、…抱っこして!」


僕は、照れ笑いしながら、…



翔五:「じゃあ、一寸だけ、」


アリアを、抱っこする。



翔五:「軽いな、アリアは、」

アリア:「えへへ、」






少女:「Lei assomiglia alla principessa!(お姫様みたい!)」


その少女は、僕達の事を見て、笑いながら、…

駈けて行った。


それは、

白くて綺麗な肌…

小柄で華奢な体つき…

大きくて深い瞳…

柔らかそうな金髪をツインテール風に束ねている…

そして、子猫だか赤ん坊だかミタイナ甘い匂いがする…

女の子




アリア:「良かったね。」

翔五:「うん、」


僕達は、又一つ、大切な笑顔を確かめて、ニヤニヤする、…




それから、照れ隠しに、長い、長い、…


キスをした。

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