エピソード51 「そして僕は美少女にサヨナラを告げて」

翔五:「涼子、歩ける様にしてくれ、」


涼子が水面に掌を触れると、海面が凍って、

さざ波の形のそのままに、辺り一面は、巨大な流氷と、化す。


僕は、そーっと、転ばない様に、氷の上に降り立つと、

ゆっくりと、メルカバーの傍まで、…歩いて行った。



4人のメルカバーも、今や流氷の上に降り立って、

まるで、古い友人が再開したかの様な、穏やかな表情で、僕を、出迎える。







翔五:「イアン、「取引」しよう。」


僕は、「天使」達の、ほんの数歩手前迄、近寄って、

揚羽蝶あげはちょうの男の娘は、不思議そうな顔で、僕の顔をじっと、見詰める。




翔五:「僕はもう、「呪文」を持っていない。」


イアンが、首を傾げると、…


何時の間にか、僕の両隣には、巨大な、体長2mは有ろうかと言う、青い「七節」が出現していて、

両脇から、僕の事を覆い被さる様に、覗き込む。


悪意も善意も、神聖さも邪悪さも感じない、

でも、確実に何か異質なモノが、ゆっくりと「実体のない触手」を僕の「胸の中」に潜り込ませる。


服は破れていない、皮膚を切り裂かれた痛みも無い、ただ、「何かが僕の身体の中に鉤爪を差し入れて…もてあそんでいる」という「確信」だけが其処に在る。



翔五:「これは、一体どう言う意味が有るんだ?」


僕は、思わず、苦笑いをして、…







イアン:「確かに、君の中に「呪文」が無いと言うのは、本当みたいだね。」

イアン:「誰に「呪文」を譲り渡したの?」


まるで、好奇心で一杯の子供の様な瞳で、イアンが僕の傍に、歩み寄る。




翔五:「それは、教えられないな。」


イアン:「良いよ、誰に引き渡したかは、君の頭を調べれば分かるもの。 「聖霊」を使えば、君の身体に憑依して「記憶」をコピーする事は簡単だよ。 でも、その場合、君が消えてしまう事になるのは、ちょっと、残念だけどね。」




翔五:「それは嫌だな、」


翔五:「だから、僕は、自分の頭を見られない様に封印する事にした。 もう暫くしたら、僕の頭の中に仕掛けた「爆弾」が破裂して、記憶は取り出せなくなる。 脳の情報をすっかりコピーするのには、結構時間が掛かるんだろ、だから、イアンの目論みは、間に合わないよ。」



本当は、未だ「爆弾」のスイッチは、押されていなかった。


それは、僕の左腕に仕込まれた「トリアーナのナイフ」を展開すると同時に、起動する事になっている。 でも、メルカバーは人を疑わない。 永遠の時間と無限の力を持っている彼らには、人間如きの嘘に騙されて、多少の回り道をする事など、意に介する程の事でも無いのだから。


出来れば、僕だって、…生き延びたい。




イアン:「かまわないよ。」


イアン:「それなら、また、「呪文」の匂いを探せば良いだけの事だからね。 「聖霊」達は「呪文」の匂いに敏感だから、「聖霊」達が騒ぎ出すのを、注意深く観察していれば、直ぐに「呪文」の在り処を、見つける事が出来るんだ。」



それは、…困る。


「呪文」の在り処がメルカバーにばれる事だけは、何としてでも避けなければならない。

そんな事をされたら、全ては元の木阿弥もくあみになってしまう。


僕が「勝つという状態」は、僕の周りの皆が笑って暮らせる「世界」を継続させる事、なのだから。



だからこそ、此処で何としてでも、メルカバーとは、決着を付けなければならないのだ。







イアン:「それで「呪文」も持っていないのに、君は、一体どんな「取引」をしようと言うの?」



僕は、一度、深呼吸して、間違えない様に、頭の中で、段取りを反芻する、



翔五:「これ以上、僕の「聖霊」達を、傷つけないで欲しいんだ。」


イアン:「かまわないよ、」

イアン:「君が「呪文」を持っていない以上、君の「聖霊」を傷つける理由は無いものね。」



翔五:「それから、アリアに掛けた「呪い」を解いてもらえないかな?」

翔五:「太陽の出ている間は活動できないとか、他の人に会えないとか言う奴、」


イアン:「それは、無理だよ。」

イアン:「「呪い」と言うモノは、受け取る側が制御するモノだもの。僕達に出来る事は何も無いよ。」


翔五:「そう、…なんだ、」

翔五:「でも、つまり、アリアが、自分で解除出来るって、…そう言う事だよな。」


イアン:「そうだよ。」

翔五:「そうか、…ありがとう。」







僕は、もう一度、深呼吸して、間違えない様に、頭の中で、段取りを反芻する、



翔五:「行き掛り上とは言え、僕は、今日を持って死んで、消滅する訳だ、」

翔五:「それで、実は、お前達に、最後に、お願いしたい事がある。」


イアン:「それは半分以上正確じゃ無いね。 人間は常に「神」と一体なんだ。 だから「神」が消滅しない限り、人間が消滅する事は無いよ。」




翔五:「それでも、星田翔五と言う、僕個人は、これで、一巻のお仕舞いだろう。 だから、最後に一度だけ、メルカバーに、一太刀浴びせさせて、くれないかな。」


翔五:「僕は「聖霊殺しの武器」の一つを、持っているんだ。 「トリアーナ」と言う、「聖霊」を「卵」に変えてしまう武器だ。」




僕は、懐から、ルガーLCPを、取り出して、みせた。


.380ACP弾の弾頭は、鉛の弾芯の上に「トリアーナ」の真鍮を熔かしたギルティング・メタルで覆われた、「聖霊殺しの弾丸」仕様に、改造されている。


どっちにしても、拳銃なんて、持ったのは、…コレが初めてだ。




イアン:「でも、「聖霊殺しの武器」は、僕達には、効かないよ。」


翔五:「ああ、「前世」でも、お前にそう言われたよ。 それでお前は、「試してみても良い」って言ったんだけど、その時、僕は怖気づいて、何も出来なかったんだ。」


翔五:「だから、効かないのは分かってる。 でも、一旦は「卵」に変わるんだろう。 それで、その間に僕が死ねば、僕の気は済むって、…そういう小市民な発想なんだよ。」




イアン:「確かに、刹那せつな的な、人間らしい考え方だね、…君らしく無いな。」


翔五:「いざ、本当に此れで終わりだと思ったら、何だか自分がみじめになって来たんだ。 それで、最後にケジメを付けたいって言うか、…」



イアン:「良いよ、でも、一人だけだよ。 誰でも好きなモノを選ばせてあげる。」


翔五:「一人だけ? 意外とケチなんだな。 どうせ直ぐに復活するんだろ?4人まとめては駄目か?」



イアンは、シーズーみたいに長く綺麗に整えられた碧空色チェレステの前髪の隙間から、

キラキラ光る大きな瞳で、とても不思議そうに、僕の事を、…見詰める。



イアン:「そもそも君は、僕達が欲しがる「何」を持っていると言うの?」







僕は、三度みたび、深呼吸して、間違えない様に、頭の中で、段取りを反芻する、



翔五:「「呪文」の、…使い方だ。」


翔五:「お前、知らなかっただろう。 だから、僕にあんな酷い事をしたんだ。 でも、あんな風にしちゃったら、そもそも僕は、「呪文」を使えない。 どんなに拷問しても、どんなにアリアを傷つけて僕を絶望させたとしても、あんな風なやり方じゃ、僕はそもそも「呪文」を使えなかったのさ。」


イアン:「それって、君を、解剖して、頭蓋骨だけにしちゃった事??」



翔五:「知りたいだろ、どうすれば「呪文」を使えるのか。 さもなきゃ、今度「次の奴」に同じ事をしても、永遠に「呪文」は発動しないって事になるぜ、」


翔五:「4人だ、4人とも綺麗さっぱりに「卵」に還す事が出来れば、僕は「呪文」の秘密を教えるよ。」




イアン:「やっぱり、1人だけだよ。」


イアン:「「卵」に還った後、冷たい海の底に沈められちゃったら、いくら「天使」だって、健康上、気持ちの良いものじゃないもの。 ちゃんと「卵」が海に落ちない様に、世話をするモノが必要だよ。」



翔五:「3人は、…どうだ。」



3人なら、まだ可能性は、残されている。

3人を「卵」に変えてしまえれば、残り一人に、もう一発「聖霊殺しの銃弾」を打ち込む事は、…きっと出来るだろう。


僕には、どうしても「4人同時に卵に還してしまう」必要が、有った。



翔五:「早くしなきゃ、僕の頭は「爆弾」で吹き飛んで、もう、二度と秘密は分からなくなるぞ。」







イアン:「駄目、」


イアン:「だって、君の情報は、それほど魅力的じゃ無いんだもの、て言うか、君が、今すっかり教えてくれたものね。 今度は「別のやり方」でやれば良いんでしょう。 身体を傷つけない様にして、小さな部屋の中に閉じ込めちゃおうかな。 それで、心が壊れる様な「刺激」を、何度も何度も、与え続けてあげるって言うのはどうかな。」



翔五:「でも、お前は、それに新しい登録者は「呪文パスワード」を知らないだろう。 僕しか、知らないんだもの。 どうしたって、お前は、僕との「取引」に応じる必要があるんだ。」




イアン:「それじゃあ、もう一つ、良い事を教えてあげるよ。」


イアン:「「呪文」には「管理者アドミニストレーター」という人間が居るんだ。 この「世界」の何処かに、彼ら自身、自分がそんな特別な人間だって言う事に気付いていないけれどね。 「聖霊」を使えば、その「管理者」の遺伝子に封印された「呪文」の取り扱い説明書を、思い出させる事が出来るんだよ。 「呪文パスワード」をリセットする事だって出来るに違いないよ。」


イアン:「「管理者」を探し出すのは、簡単じゃないけど、不可能じゃない。 彼らは、「管理者権限」を遺伝して引き継ぐんだ、だから、きちんと、「一子相伝」される様に、人生を「神」に仕組まれている。 そんな人間を探すのだから、まるっきり手掛かりが無い訳じゃない。」


イアン:「僕達には、無限の時間があるのだもの。」


イアン:「手間を省く為に、君との「取引」に応じるのは、悪くない選択だけど、でも、1人だけだね。 嫌なら、この「取引」は無しだよ。」


イアン:「此処で、君の頭が吹き飛ぶのを、見届けてから、出掛ける事にするよ。」




1人、…


1人を「卵」に変えた後、残る3人を「卵」に変えられるかどうかは、実のところ、自信が無い。



僕は、ちらりと、万里を見て、溜息を吐く。


色々と、準備不足だし、不手際も有った。 作戦も詰めが甘い。

大体こいつが、こんなに焦ってメルカバーを呼び出すのが、…そもそも、いけないんだ。



イアン:「後、5分だけ、待ってあげる。 本当に君の頭が吹っ飛ぶのかも、怪しいみたいだしね。 それなら、元々の予定通り、君を連れて帰って、脳みそをすっかりコピーして、貴重な情報を頂いた方が、ずっと簡単だもの。」







僕は、愈々、覚悟を決める。

なに、最初の計画通りじゃないか。



翔五:「解った。」



でも、1人だとして、最も、成功確率が高いのは、一体、誰だ?

残る3人は、仕留め易い奴でなければ、ならない。



最も仕留めにくいのは、

超音速の「雹」で攻撃する、キースか、

怪しい「オーロラ」の光で、何でも焼き尽くす、ディビッドか、


イアンの「竜巻」や、アリスターの「地震」は、その威力は地球規模で計り知れないけれど、力の発現までには、それなりに時間が掛かる。


やはり「早撃ち勝負」で最も警戒すべきは、キースだろう。





いや、二人目を「不意打ち」に仕留めた時点で気付かれて「瞬間移動」で逃げられたら、それでお仕舞いだ。


寧ろ、イアンやアリスターの方が、そういう戦い方を、想定している筈、 と言う事は、この中で、一番警戒すべきなのは、…




翔五:「イアンだ、」


イアン:「良いよ。契約成立だね、」

イアン:「それじゃあ、教えてくれるかな?」







僕は、最後にもう一度、深呼吸して、間違えない様に、頭の中で、反芻してから、



翔五:「「呪文」は、「登録者」にしか使えない。」

翔五:「「呪文」は、「登録者」が声に出して「詠唱」する事で、発動する。」



イアン:「成る程ね、それで、肝心の「呪文パスワード」は何なの?」


翔五:「其処までは言えないよ。「使い方」だって、言ったじゃないか。」

翔五:「一人分なら、此処までだ。」



イアン:「何だか、美味しくない取引だけど、まあ「約束」は「約束」だから、良いよ。 それに、此れ迄の君との長い付き合いだしね、「死出の旅」への「お餞別代り」で、大安売りの大出血にして置いてあげるよ。」


翔五:「ああ、感謝するよ。」







僕は、ルガーLCPをイアンに向けて。



翔五:「さよなら、イアン。」

イアン:「さよなら、翔五クン。」



銃声:「パン!」



イアンに向けて「トリアーナの銃弾」を、…発射した。




「トリアーナの銃弾」が、イアンの胸に着弾すると、…

途端に、光と煙を上げて、肉体が蒸発し、…

エクトプラズムが分離して、弾頭に吸い込まれる様に収縮して、…


「卵」になった。




それは、鶉卵うずらたまご位の大きさで、鶉卵ミタイな表面の模様が、まるで水面に落した墨汁の様に、グニャグニャと、ブラウン運動している。



翔五:「これが、「聖霊の卵」…か、」







僕は、未だ、銃口から、うっすらと煙を吐くルガーLCPを、万里に手渡し、「卵」を拾い上げて、それをアリスターに、…


手渡そうとした、その手が滑って、…



「卵」が、氷の上に、…堕ちる。




多分、その瞬間、

皆は、それを見ていたのに違いない、…


僕と、万里の二人を、除いては…







万里は、…

懐から取り出したもう一丁のルガーと、…

僕の手渡したルガーの、…

二丁拳銃で、…


キースとディビッドを、射撃する!




僕は、…

それと略同時に、…

左手に仕込まれた「トリアーナのナイフ」を展開して、…

アリスターを、…




煙を上げて、溶ける様に蒸発する、…

キースとディビッド!




アリスターは、一瞬早く、気取り!

横に3m程「瞬間移動」して、…

僕が突き刺そうとした、「トリアーナのナイフ」から、…


逃れる!!




その、アリスターの出現地点に、…

同時に「瞬間移動」する、…


アリア。


アリアの胸を貫いたままの「ロンギヌスの槍」が、…

そのまま、…

アリスターの胴体を、…


貫いた!!!







アリスター:「What?? (何だと!)」


アリア:「翔五!!! 今よ!!」




僕は、…

「トリアーナのナイフ」が付いた左手の肘を、…

胸に押し当てるように構えて、…

そのまま、…

アリスターに、…


突っ込んだ!!!







煙を上げて蒸発し、「卵」に還る、…アリスター!




僕は急いで左手の手首の位置に出現した「鍔(つば)」に有るレバーを操作して、スペツナズ・ナイフの様に「トリアーナの刀身」部分を射出!、…取り外す。


それから、力尽きてうずくまった、アリアの身体を支えて、彼女を胸を貫く「ロンギヌスの槍」を、…引き抜いた。




アリア:「がああぁ、…あっ…」


呻き声を上げて仰け反り、卒倒するアリアを、既の所で、…抱きとめる。




翔五:「万里! 頼む!」


僕は叫び!



万里は、ルガーを放りだすと、…

「卵」になったメルカバー達を拾い集め、…

グズグズと、再生・復活を開始したイアンの「卵」から、…

真鍮製の小さな虫籠ムシカゴに、…


押し込める。



震える手で、一つ一つ、次々に、籠の中に、閉じ込めて、…


ピッタリと蓋をする。



丁度、具合良く納まった4つの「卵」は、暫くの間、揺れたり、表面がひび割れたり、煙を吐いたり、怪しい光を放ったりしていたが、…


やがて暫くすると、ぴたりと、…


大人しくなった。




翔五:「上手く行ったのか?」

万里:「多分、」


万里:「大丈夫みたい、」







アリア:「それは、何なの?」


僕の腕の中で、アリアが僅かに、…目を開ける。



聖霊殺しの武器で攻撃された傷は、幾ら聖霊と言えども、そう簡単には癒えたりしない。


アリアは息をするのも苦しそうに震えながら、漸く、声を、…振り絞る。

胸から背中へと貫通した穴からは、じくじくと、出血が、…続いていた。




翔五:「これは「トリアーナの虫籠」なんだ。 山猫が作ってくれた。 これに容れておけば、常に「トリアーナ」に触れている訳だから、メルカバーが何度復活しようとしても無理って、そういう代物だよ。」



アリアが、不安そうに、…上目遣いする。



アリア:「それじゃあ、もう?」

翔五:「ああ、メルカバーは、一生、此の侭だ。もう、アリアを辛い目に遭わせなくても、済むんだ。」



アリア:「それじゃあ、これで、…終わったの?」

翔五:「ああ、もう、メルカバーに狙われる事は、無いんだよ。」







アリア:「あり、がとう…、」


アリアは、ポロポロと涙を零し、…

それから、だんだん、…


今迄、ずっと、我慢して来たモノを、全部、吐き出す様に、…


声を上げて、泣いた。




僕は、柔らかな、暖かなアリアの身体を、…じっと抱きしめて、

僕は、ぬるい、真綿の様な悔しさを、…じっと噛み締める。







アリア:「ねえ、今日は、ずっと、一緒に居てくれる?」


翔五:「ごめん、僕は、もう、…行かなくちゃ。」



残された時間は、多分、1分足らずだろう、




翔五:「アリア、聴いて、君に言わなくちゃならない事が、あるんだ。」


アリア:「嫌よ! 怖い事は、聞きたくない、」



アリアは、僕の胸に、顔を埋めて、…




翔五:「お願いだから、聴いて、…もう時間が無いんだ、」


アリア:「嫌!、聞きたくない!」



まるで、赤ん坊の様に、…嫌々する。





翔五:「聞いて!!」


僕は、大声をあげて、無理矢理、アリアを、引き剥がし、…

アリアは、驚いて目を丸くして、ぼろぼろと涙を流しながら、…


怯えきった表情のアリアに、僕は、…







翔五:「…愛してる。」





それから、アリアは、まるで、息をするのを忘れたミタイに、…

それから、ワンワンと泣きながら、僕に抱きつこうとするのを、…


僕は、力づくで、…引き剥がす。




翔五:「ゴメン、もう、…これ以上は、」


アリア:「待ってて!」

アリア:「私、直ぐに転生して、翔五を取り戻すから!」

アリア:「直ぐに、迎えに行くから!!」




翔五:「アリア、聞いて、」

翔五:「「呪文」は、君の中にある。」

翔五:「「聖霊」の命が果てる迄、この星の寿命が尽きる迄、もう「転生」を繰り返す必要は無いんだ。」


アリア:「翔五の居ない「世界」なんて、要らない!!」




翔五:「駄目だよ、そんな事、」

翔五:「君が見たかった、この「世界」の先を、見て、」


アリア:「翔五の居ない「世界」なんか、見たく無い!!」




翔五:「お願いだから、僕の為に、笑って、」

アリア:「最後迄、私と一緒に居てくれるって、言ったじゃない!」


アリア:「酷い、酷い…」







翔五:「アリア、」

翔五:「この星が滅びて、君の命が尽きて、」

翔五:「もう一度、生まれ変わる刻が来たら、」


翔五:「そうしたら、もう一回、…恋人になってくれる?」




アリアは、はっと、息を飲んで、

僕の顔を、じっと、見つめて、


そして、涙を滲ませながら、…綺麗な顔をクシャクシャにしながら、




アリア:「絶対に、忘れない!」

アリア:「何万年でも、何億年でも、覚えてる!」


アリア:「それで、翔五が何処に生まれ変わってても、絶対に、探し出す!」




翔五:「ああ、」

翔五:「それまで、一寸だけ、」


翔五:「さよならだ。」





アリア:「お願い、もう一度、キスしてくれる?」


アリアは、まるで祈る様に、…そう言い、




翔五:「ごめんね、」

翔五:「もう、時間みたいだ、」







そうして、僕の頭は、…弾けた、







僕の人生は、

結果として、とても幸せだったに、違いない。



だって、最後に聞こえたのが、


アリアが僕の名前を呼ぶ声だったの、だから。

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