エピソード50 「そして僕と美少女達は今まさに死地の真っ只中」

午後26時、


フランス、ノルマンディー地方・南部

町から10km以上離れた、海岸沿いの寂しげな牧草地帯に、まるで戦場の様な、断続的な銃撃音と爆撃の轟音が、鳴り響き、…


朧げな屋敷の灯火と、塀の上から周囲を捜索するサーチライトの光線が、底無し沼の様な闇の草原に、異様な緊張感を浮かび上がらせる、…


暗闇の中で、M249 Para ミニミ軽機関銃の銃撃が、まるで火炎放射器の様な赤い残像を描き、…アミューズメント・パークのイルミネーションにも似た幻想的な爆発の閃光が、大放出の花火の如く艶やかに、夜空を彩る。





ひときわ、大きな爆発音が、下腹に重く共鳴し、…


最新の耐震・耐爆撃技術を施された、見た目「ロマネスク建築」の屋敷が激しく軋んで、内壁を崩し零し、天井から、したたか、土埃が舞い落ちる。




一人の、眼鏡少女が、

地下二階の、「手術室」と書かれた大きなドアの前で、一人、廊下に座り込んだまま、じっと、刻が満ちるのを待っていた。


芽衣の、彼女の、胸の奥では、恐怖と、そしてソレとは明らかに異なる別の感情が、熱く、早鐘の様に、動悸を高鳴らせている。


彼女には、自分がどうすべきかと言う事など、もうずっと前から解っていたのだけれど、だからと言って、瑞穂や朋花の様に、自ら進んで「敵」に立ち向かって行く様な勇気を奮い立てる事は、出来そうにも無かった。


芽衣は、彼女は、ただ、体育座りの膝に顔を埋めて、刻が来るのを、待っていた。


しかし既に「愛おしいヒトを護りたい」と言う彼女の気持ちは、幾重にも精錬され、極限迄に純度を高めて、…およそあらゆる脅威に、一発触発出来る程にまでたかぶっており、


そして、その刻が訪れるのは、もう、直ぐに、違いなかったのだ。





屋敷の地下一階に設営された、超近代的な「指令室」では、

全世界から招集された、超一流の科学者、軍人、宗教家達が、大いなる興奮を持って、敷地各所に配置されたカメラや、センサー類から送られて来る、膨大なデータの解析に当たっていた。


このチームは、アリトアラユル超法規的な特権と予算とを、自由自在に行使して、「世界中からノミネートされた14万4千人の人間を「新世界」に生かし続ける事」だけを目的として結成された、超国家組織の一員であった。


現在、彼らが対峙しているのは、かつて人類に希望をもたらし、今まさに人類に審判をもたらそうとする「天使」であり「聖霊」であり。 今此処で彼らが直面しているのは、「神の審判」の「起動呪文」を携えた「一人の男」を護衛する、という重大な作戦だった。


そして、幸運にも今夜、此処に集う者達が体験したのは、「科学と言うものが適用される範囲は極めて限定されている」という事実の再確認であり、「コレ迄の量子物理学の限界とか禁忌と言われ続けて来た「おとぎ話」」があながち都市伝説とは言い切れないという現象の「観測」だった。







〜本編〜


屋敷の見晴台の上から、或いは壁の銃眼から、兵士達が、…何ら武装もしていない、極普通の、市民シビリアンに目掛けて、機関銃の照準を合わせている。


既に、屋敷の周りには、塀を取り囲む様に累々と、数百人に及ぶ死体が転がっていた。


にも関わらず「取り憑かれた人々」は、まるで撃ち殺される恐怖など微塵にも感じていないのかの様に、ゆらゆらと、ゆっくりと、無言のまま、屋敷に向かって、押し寄せる。




そして何発目かの照明弾が上がり、


夢遊病者の様に徘徊する「人々」の傍らに付き従う「異形」なモノを浮かび上がらせる。


あるモノは、アフリカやアマゾンに棲む動物の様で、

あるモノは、見慣れない深海生物の様で、

あるモノは、まるで神話に出てくる想像上の生物の様で


何れにしても、凡そこんな所には似つかわしくない「場違いな幻覚達」が、

実体の無い陽炎の様な、ブラウン管のノイズの様なはかなさで、

物言わぬ「人々」の行進に、寄り添っていた。




ただひとつ、不思議な事には、

いや、既にこの全ての状況が、たくさんの異様に塗れているのに違いないのだが、

それでも尚、奇妙な事には、それら「異形」のモノ達は、


屋敷を取り囲む高い煉瓦の塀から10mまで近づくと、ピタリと、それ以上は近づけなくなって、行進を諦めて、ざわざわと立ち止まるのだ。


まるで何らかの「人智を超えた決まり事」に従うかの様に、「ソレら」は、地面に引かれた赤いペンキの線を越えて、それよりも内側には、入っては来れないらしかった。




しかしやがて、一頭の「ピンクの豚」と、それに跨る「グラマー女」とが、均衡を破る。


「ピンクの豚」は一歩、前に、進み出て、…

ふらふらと赤いペンキの線に近づき、鼻を付けて、しきり匂いを嗅ぐと、…


鼻に触れた「地面」が、途端に、ひび割れて、…

ばらばらと、剥がれて、空中に、…


舞い上がり始めた!




そして、削りとられた、地面の中から現れる、…数本の赤い、「紐」


それは、その「赤い紐」は、どうやら、

地下50cm程の深さに、ぐるりと屋敷を取り囲む様に、埋没されているらしかった。



「ピンクの豚」が、「赤い紐」を覗き込み、…




次の瞬間!

銀色のクリア鍍金めっき仕様の奇妙な機械が、「ピンクの豚」の前に、出現した。


全幅1.5m×全長3m程度×厚さ1mの略直方体の下に、回転する台座を有したバギーの様な6輪を有し、直方体の上には、潜水艦の艦橋にも似た楕円柱状の上半身と、その両脇には二本の腕が、付いている。 艦橋部の横にはD-Body-117-HJ-009と識別記号がペイントされていた。



パイロット:「Target Lock on, Fire!(目標、確認、撃ちます!)」



そして、間髪要れず、その片腕に保持されたブローニングM2重機関銃を、

「ピンクの豚」に照準して、…高速連射する!



銃声:「「ダゥ!ダゥ!ダゥ!ダゥ!…ッ!…」」



最新鋭の照準システムは、D-Bodyの操縦者が「見たもの」に正確に着弾する、筈であるにもかかわらず、何故か全ての銃弾は、「ピンクの豚」に到達する寸前で、地面に叩き落とされる様に、…墜落する!


D-Bodyは少しずつ射撃位置を変えながら、「ピンクの豚」ならびに「グラマー女」への攻撃を継続する、しかし、あくまでも赤いペンキのラインから、外側に出るつもりは無いらしい。





パイロット:「Ineffective!(効果無し!)」

パイロット:「117-HJ-9 is going to shoot FGM-148!(117-HJ-9号機、FGM-148=ジャベリンを使用します!)」



D-Bodyは、機関銃からジャベリンに持ち替えて、…ダイレクト・アタックモードでミサイルを発射!



ところが、「ピンクの豚」に目掛けて放たれた対戦車ミサイルは、


悲鳴の様な「豚」の鳴き声に合わせて、誰も、何も、手を触れていないにもかかわらず、まるで叩き落される様に地面に堕ちて、そのまま地面に、…減り込んだ!



そして、…地中で爆発する、ミサイル! 



爆発音:「「「!ド…  …ン!」」」



意図せず、


局地的に封じ込められた爆風が、地中に埋没されていた「赤い紐」を、…



焼き千切った!







そして、辺りの空気が、一瞬で、匂いを、…変えた。



もう一度「ピンクの豚」がいななき!


その途端に!

D-Bodyの機体が、まるで巨大なプレス機に押し潰されたミタイに、ぺっちゃんこに、…


ひしゃげた!



異音:「「ブチュ…ァアア……!」」



金属の裂け目から、吹き出す、操縦者の、…体液!







そして、まるでようやく見つけた突破口に雪崩れ込む汚泥濁流の如くに、

「異形」の行進が、赤い紐の「裂け目」へと、…押し寄せる!


ところが、しかし、更に5mほど進んだところで、再び「異形」は躊躇する。

まるで其処に「目に見えない壁」でもあるかの様に、…


しかし交通渋滞よろしく、後続する団体は直ぐには、…止まれない。


「ニュートンの揺り籠」の要領で押し出された「ピンクの豚」が、不幸にもその「ライン」を超えて、香ばしい煙と、肉の焼ける匂いと共に、悲壮な悲鳴を、…振り絞る!



ピンクの豚:「ピギャアアァ…!!」





と、次の瞬間!

「ピンクの豚」に跨がった「グラマー女」の耳の直ぐ傍で、…


銃声が響いた!



銃声:「パン!」




ギスギスの坊主頭をした女が、…

ピエトロ・ベレッタ92FSを、ホルスターに仕舞う。



側頭部を打ち抜かれた「グラマー女」は未だ痙攣しながら地に落ちて、

それで、「ピンクの豚」は、煙の様に分解して、…宙に消える。


やがて、「グラマー女」の方は、そのまま動くのを止めた。




兵士:「Are you OK? (大丈夫ですか?)」


暗視スコープを装着した兵士が、ギスギス女の元に駆け寄る。



蟷螂:「No problem. Check and report to the Control a situation of Kekkai broken. (ああ、「結界」の損壊状況をチェックして、司令室に報告するんだ。)」


兵士:「Roger! (了解!)」


蟷螂:「Pick up bones to truck.(女の死体をトロッコに載せろ!)」







司令室


管制官:「The first kekkai at west block3 might be down. (西側の第一結界の一部が、破壊されたようです。)」

管制官:「Kekkai -string working status is on the screen. (結界糸の破損状況示します。)」



軍服らしい制服に身を包んだ、ハンサムな管制官が、部屋の前方中央に設置された大画面に、屋敷周辺の地図と、ソレを取り囲む赤いラインを映し出す。


「結界」と日本語で呼ばれた「赤いライン」は、屋敷の塀から10m、5m、そして塀の内部に配置されており、一番外側の「第一結界」の破断位置が、点滅で示されている。


どうやら、何らかの「ルール」があって、あの「異形」達は、この「結界」を容易に越える事が、出来無いらしい。




背が高くてほっそりとした、所謂、…「おねえ」が、何故だか、ハンサムな管制官の肩に、そっと、…手を乗せる。



山猫:「そう、もう、長くはモチソウモ無いわね、」

山猫:「部隊撤収用の地下鉄をスタンバイさせておいて、」


管制官:「Already done, anytime OK. (いつでも行けます。)」



山猫:「出来るだけ粘って、たくさんサンプルを回収してよ。」







屋敷の南側、

赤いペンキの直前で、一組の「男女」が、ふらふらと、ゾンビの様に徘徊している、

過呼吸で、白目を剥いて、…涎を垂らしながら、


そして、男女の足元、地面の下が蠕動し、ひび割れから、大量の巨大な「ワラジムシ」?「オオグソクムシ」? が現れる。


その数、凡そ5000匹?!


地面を、ぼろぼろと食い荒らし、侵食し、大量のフンに変えていく、体長15cmの「巨大ワラジムシ」の大群!



次第に、赤い「結界糸」が剥き出しになり、

じゅわじゅわと焼き殺される、「巨大ワラジムシ」達、…だが、


10匹、20匹殺された所で、屁とも思わないらしい。




巡回中の小型D-Bodyが2台、暗視装置で男女を捕らえて、…

直ちにM2機関銃を掃射する! 



銃声:「「ダゥ!ダゥ!ダゥ!ダゥ!ダゥ!…ッ!…」」


頭部を吹っ飛ばされて、ひっくり返る「男」!


「女」が、D-Bodyに気付き!


50匹が捨て身で引き千切った「結界糸」の隙間から、1000匹を越える「巨大ワラジムシ」が突進!


「女」への攻撃よりも一瞬早く、D-bodyに襲い掛かる「巨大ワラジムシ」!


マシンガンの銃撃も、掻い潜り、D-Bodyの機体に取り付いて、…よじ登る!




堪らずD-Bodyのハッチが開き! 中から脱出してくる兵士!



兵士:「Help!(助けて!)」


既に下半身を「巨大ワラジムシ」にウジャウジャたかられて、…

あっという間に、…食い尽くされている。




もう一台のD-Bodyが背後に背負ったボンベから、

特殊なゲルと混合して「粘液泡状」になった液体窒素を、…吹きかける!


死亡した兵士の体ごと、凍結されて、動きを封じられる、…「巨大ワラジムシ」




D-Bodyパイロット:「What are these! (何なんだ、こいつら)」


歩兵:「The first Kekkai was down!(第一結界が破られたようです。)」


歩兵:「Another Enemy is on its way!(別の敵が来ます!)」




第2結界の内側に退却して、小銃を構える兵士達!


その前に、とぼとぼと、闇の中を歩いてくる、…「老紳士」?


意識がはっきりしている様で、他のゾンビとは、雰囲気が、違っている??




パイロット:「Is that human being? (人間か?)」


歩兵:「Freeze!(とまれ!)」



ところが、問答無用で、「老紳士」の目から、怪光線が、…放たれる!

セラミックとチタニウムから構成されるD-Bodyの複合装甲が、いとも簡単に、…両断される!




パイロット:「Back away! (さがれ!)」


第2結界の内側へと、退避するD-Bodyと歩兵!



「老紳士」が、再び光線を放って、攻撃するが、

何かに阻まれて、第2結界の内側に居る兵士達には、効果を、…及ぼさないらしい。




歩兵が、M4カービン(アサルトライフル)を「老紳士」に照準して、

5.56x45mm NATO弾銃弾を、…連射する!



が、「老紳士」は一向に、怯む様子が無く。

身体中に穿うがたれた弾痕はミルミルその場で、…消失する。




歩兵:「It’s a monster!(化け物め!)」




「老紳士」は、兵士達の足元、第二結界の埋まっている地面に向けて、…


「目からビーム」を、…発射!発射!発射!



ミルミル地面を、…裂き砕いていく!


やがて、崩れた地面から露出する、…赤い紐!




「老紳士」は跪いて、その指で赤い紐に触れる、…と、


指がぐずぐずと、火傷の様に爛(ただ)れて、…煙を上げる。



老紳士:「étrange. (不思議だ、)」





更にもう一機のD-Bodyが急行し、「老紳士」に向けてM2機関銃を連射する!



銃声:「「ダゥ!ダゥ!ダゥ!ダゥ!ダゥ!…ッ!…」」


パイロット2:「Protect Kekkai-strings!(結界糸を護るんだ!)」




バス!バス!と乾いた音を立てて、「老紳士」の身体を、ズダズダに引き裂いて行く、

12.7mm×99通常弾!


が、しかし、尚も「老紳士」は涼しい顔で胸ポケットから携帯電話を取り出すと、…

やかましいD-Bodyの機関銃掃射に背中を向けて、何処へともなく、…



通話する。







少し離れた丘の上に、…一人の幼女が、佇んでいた。


彼女は、鼻歌を歌いながら、

田舎町の夜空に繰り広げられる「場違いな」花火ショーを、食い入る様に、眺めている。



やがて、

幼女に付き添って居た大人の女?、が持っていた携帯電話の着信音が、鳴って、


女は、二三言、何かを話し、…

それから、…



幼女に耳打ちする。




それで、

幼女がお尻を叩いて、立ち上がり、

闇の中で少女の影が、立ち上がる。




「影」は、夜の闇の中で尚暗く、深く、大きく、伸びて、拡がって、…

暗闇の草原に、体長200mの「ダイダラボッチ」が、…



出現した。







司令室


管制官:「Number238 Video Camera is on the screen.(映像でます!)」

管制官:「It does not react to infrared rays.(赤外線に反応しません、)」


それは、闇夜の空に、更に暗い「闇の色」としてしか、…

認識出来ないらしかった。




山猫:「熱を発していないと言うの? あんな巨大な物が?」


体長200mを越える、人形ヒトガタの、…何か。




塀の上の見晴し台から、D-Bodyが、ジャベリンを、発射する!が、…

ミサイルは、まるで影だけの「ダイダラボッチ」の身体を突き抜けて、行き先を…


見失う!




山猫:「撤退するわよ、2分で、地下鉄を発車させなさい。」


ピンクのジャージに身を包む「オネエ」の号令と共に、アタフタと司令室のスタッフが飛び回り、蜘蛛の子を散らした様に、…撤収する。



山猫:「「化け物」相手に、我々は未だ未だ無力だって、事ね。」

山猫:「後は、任せたわよ。」







「ダイダラボッチ」の巨体が揺らめいて、牧場の丘が、…えぐり取られる。

ゆっくりと、たっぷりと、頭上400mの高さ迄持ち上げられた「地面の塊」が、


その、長い長い腕の一振りで、



遥か、数kmを越えて、

「山猫のアジト」だった「ロマネスク建築風」の屋敷を、…


直撃した。







朋花:「何? 今の!」


翼長24mの「真紅の翼竜」に跨がったグラマー美女が、

思わず後ろを、振り返る。


空中旋回する「ケツアルコアトルス」の、僅か10数m横をかすめて!

大体100m×30m位の巨大な地面の塊が、


飛んで行った!



それで、そのまま屋敷の塀を辺りの地面ごと、…

粉砕する!


当然、結界糸など、ボロボロに千切れて、役に立たなくなる。




朋花:「翔五クン、大丈夫かな!」


と、一瞬、気を逸らした朋花に目掛けて、

拳大の「雹」の塊が、超音速で!…襲来した!



轟音ソニックブーム:「「「「…!………!!!!!………!…」」」」

轟音ソニックブーム:「「「「…!………!!!!!………!…」」」」




すんでの所で直撃をかわすも!


氷の弾丸が「ケツアルコアトルス」の頭部と翼を粉砕! 地上800mで、…

空中に放りだされる、朋花!




朋花:「よくもぉ! やってくれたわね!」



粉砕した「ケツアルコアトルス」は、そのまま微塵に分解! 「火の玉小僧」に変身!

低空から、朋花目掛けて襲いかかって来た、数匹の「ガーゴイル」に、…ヘバリツキ!



発火!!!



轟音:「「「パーー…、  …ーーン!」」」




夜空に、乱れ撃ちの如く、花火が炸裂!


真っ暗なノルマンディの海岸沿いの牧草地帯に、…超新星の様な眩い輝き!

数百万℃? 恒星コロナ並みの超高熱の「光の圧力」が、

夜の闇を、…


弾き飛ばす!




朋花:「きりが無いなぁ〜」


「火の玉小僧」が炸裂した照明弾が、闇夜を照らし、

朋花は、落下しながら、器用に宙返りして、



上空200mに、出鱈目にも空中に静止するイケメンの姿を確認する!



その男、

身長は190cm超、細く編んだドレッド・ヘアは肩にまで届く長髪、鋭い目付きに精悍な貌付き、鍛え上げられた全身の筋肉が、襟無しの白い麻のシャツをパンパンに弾き上げている。


そして、その背中には、3対6枚の翼が、

朧げに光を放ちながら、陽炎の様に、…揺らめいていた。




朋花:「見つけたぁ!」



再び、落下中の朋花を、無音=超音速の「雹」が襲撃する!



朋花は、キースの居る上空に向かって、


焚き火から舞い上がる火の粉の様に…

大量の火の玉小僧を、舞い上がらせる!!


朋花の上空に発生する、眩い光の弾幕!!



轟音ソニックブーム:「「「「…!………!!!!!………!…」」」」

轟音ソニックブーム:「「「「…!………!!!!!………!…」」」」


発火!!!



轟音:「「「パーー…、  …ーーン!」」」




「火の玉小僧」達は、キースの放った「雹」のミサイルを一瞬で蒸発?昇華?させて、

その残存部隊は、尚も上昇!!! 


キースの身体に取り憑いて、…



発火!!!



轟音:「「「パーー…、  …ーーン!」」」



純粋な「熱」に飲み込まれて、消滅するキースの肉体!




落下しながらも、光の残像に消えたキースの行方から目を離さない朋花!


墜落=地面との衝突の寸前で、真紅の「ケツアルコアトルス」が再生!

朋花の身体を引っ掴んで、…


上昇する!










突然、闇夜に発生した、数十秒の超新星爆発ショーに、

じっと、見蕩れている男が、…一人


長身の清潔そうな「知的男子」

短く刈り上げた髪と、彫りの深い欧州人顔、きちんと整備された筋肉、綺麗な姿勢と心地よいオーデコロンの薫り、


しかしその瞳には、凡そ一切の慈悲と言うモノが、欠落している。


そして、その男の背中にも、

朧げに光を放ちながら、陽炎の様に、揺らめく、…3対6枚の翼




瑞穂:「アンタ、なに余裕カマシてんのよ!」



体長30m(何時もより5割増!)の「巨大ゴーレム」が、

岩石の軋む様な唸りを上げて! 行成いきなり、男に殴り掛かった!



ディビッドは、涼しげな顔で、空を飛んで、「巨大ゴーレム」の攻撃を躱し、




瑞穂:「ちょこまかと! ムカつく!!!」


それから「巨大ゴーレム」の差し伸ばした両腕は、ボロボロと崩れ、分解すると、…

そのまま、砂塵の竜巻となって、上空のディビッドを、…


追跡する!





そして、

天空に出現したオーロラの様な光の帯が、ウネリながら、…降りて来る、


ディビッドが瞬間的×局地的に集束させた「地磁気」は、空宙に美しい「フレア」を発生。 まるで舐める様に空気を焼いて、…


迫り来る「砂龍」を、…燃え上がらせた!




と、なんだか突然、乱入して、瑞穂の背後から襲いかかって来る!…

「七面鳥」?


超高速で、疾走し、

奇妙な、いや危険な「雄叫び」を上げる!



返す刀で出現する、黒曜石のプレパラートが、瑞穂を護る!


黒曜石のプレパラートは、「七面鳥」が発する「モノを腐らせる声」の盾となって、グズグズに腐って、…墜落する!



瑞穂:「何なの! こいつ!」


そして、挟み撃ちの様にディビッドのオーロラ攻撃!

ゆらゆらと輝き、うごめき、そのカーテンの数を増して、


瑞穂の逃げ場を奪う!




瑞穂:「あああああ…!、鬱陶しい!」


瑞穂は天に向かって手を差し伸ばし!


地面に出現する!

巨大な黄色い魔法陣!




瑞穂:「言っとくけど、砂の中で、私に勝てると思わないでよね!」


地震の様に、大地を揺るがせて!

出現する、追加2体の…、


体長20mの「ゴーレムB」、と「C」、(最初のがA)


当然「ゴーレム」の中には、それぞれメガテリウムが入ってる…はず??

まあ、細かい事はさておいて、




瑞穂:「やって、おしまい!!!」



「ゴーレムB」、「C」、それぞれ、てんでバラバラに、独立連動して、

ディビッドと、「七面鳥」に襲いかかる!



「ゴーレムB」が、「七面鳥」を叩き潰し!

「ゴーレムC」が、ディビッドに飛びかかる!


ディビッド、飛翔して、更に上空に逃げるも、、




瑞穂:「逃がすか!」


「ゴーレムA」(体長30mの一番でっかい奴)の肩に乗っかった瑞穂が、…

ディビッドを追う!




瑞穂の後方に出現する!

孔雀の羽の様な、黄色い小さな魔法陣群!



其処から、飛び出した、数十本の黒曜石のナイフが!

ディビッドの身体を、…


引き裂いた!!!










白鳥の様な翼を展げた、3人の全裸の美女達が、舞う様に夜空を飛翔して、…


やがて、次第にその輪を狭めながら、…

狙いを定めた獲物に向かって、…


襲いかかる!




アリア:「雑魚は! 引っ込んでなさい…!!」


まるでメルカバーの様に、空中を自在に飛翔する、

そのゴスロリ美少女が、


逆立てた美しいウェイブから、閃光の様な電撃を放ち!

あっと言う間に、3人の「ニュンペー」(セイレーン達)を撃墜する!



続いて出現する、「ガーゴイル」!


間髪容れず襲いかかる、「空飛ぶクラゲ」!!



次々に現れては、降り掛かる「聖霊」達を、

アリアは、巧みに躱しつつ、上空へ向けて飛翔スピードを増しながら、…

すれ違いざまに、強力な電撃で、…


迎撃し続ける!




アリアの、上空、行く手には、…

揚羽あげは色の男の娘。


まるで大瑠璃揚羽オオルリアゲハの鱗粉の様な、澄み切った碧空色チェレステの様な、綺麗な髪、そのシーズーみたいな長い前髪の隙間からキラキラした大きな瞳が見え隠れしている。




イアンが、可愛らしくその指を降る度に、…


召喚された「聖霊」達が、アリアに向かって、襲いかかる!



イアン:「君は本当に素晴らしいよ!」

イアン:「生身で空を飛べるなんて、まるで「天使」みたいだ!」



行成り出現、落下する「ツキノワグマ」?の様な「聖霊」を、アリアの電撃が弾き飛ばす! そして、残骸をかいくぐりながら、尚もイアンの元へと、…飛ぶ!!




アリア:「貴方に出来る事位、私にだって出来るに、…決まってる!」

イアン:「あれ? そう言う物なの?」


イアンは、微笑みながら、

アリアに捕まる、その一瞬前に、…


瞬間移動する!





更に上空、既に高度は10000mを越えて、

雲を抜けた、満点の星空の元に出現する、揚羽色の、…男の娘。



その、イアンのさらに上空20mに、瞬間移動で出現する!

アリア!!!




アリア:「今日こそは! 許さない!」


イアン:「君は「聖霊」としては、強くなり過ぎたよ。」



アリアの方を振り返った、イアンの背後から!…


行成り、出現して、襲いかかる!

体長10mの、白い虎!



「白虎」の巨大な牙が、細いイアンの首を、あっさりと、…


噛み千切った!




そして、白虎」は1000GWの光の束を、…放電して!

一瞬で、小さな男の娘の身体が、…爆発!、する!



破裂音:「「「!!パシャーー…  …——ンン!!」」」










地下鉄?のプラットホームに、切れ掛かった蛍光灯が明滅している。

白い、タイル貼りの壁の一画が、ボロボロと崩れて、落ちて、、


中から一人の男が現れた。



長髪ロングのウェット・ウエィブ、 シャープでセクシーなスペイン人顔に、誘う様な視線。 広い肩幅に分厚い胸板、そしてシックスパックの腹筋。 だからと言って、決して過ぎたマッチョではなく、程よく浮き出た鎖骨。 そして余す処なく自らの色香をアピールする、開はだけたシャツと、…イチイチな仕草しぐさ、


一言で言えば、…ナルシスト

まさに下々を見下すかの様な視線で、不敵な笑みを浮かべている。




アリスターは、ホームに転がった瓦礫を踏みしめて、レールの上に降り立ち、

地下鉄の残響が走り去ったばかりの、暗いトンネルの行く先に、…目を凝らす。


辺りには、他に動くモノの気配は無い、



此処は、「山猫のアジト」の地下5階に潜った所にある、専用地下鉄のホーム。

山猫達が脱出に使用した地下鉄は、凱旋門下の、シャルル・ドゴール・エトワーレ駅に通じる、メトロの6番へと、連絡していた。



鉄と、微かな海の潮の匂いを嗅ぎながら、

それに混ざる、「甘い匂い」に気付いて、アリスターが、ゆっくりと、…振り返る。




アリスターの冷たい視線の先には、一人の美少女が、…

立っていた。


身長は150cm位、小柄で華奢な体つき、肩にかかるかかからないかの髪を両サイドでツインテール風に束ねている。 顔立ちはどちらかと言えば地味な方だが、すっきりと目鼻立ちが整っていて、どこか、赤ん坊ミタイな、幼さ、あどけなさの抜けない、可愛らしい、…女の子。




突然!

プラットホームのスプリンクラーが、破裂して!

噴き出した水飛沫が、…


氷の刃と化して、アリスターに、…


突き刺さった!




アリスターは、微動だにせず、その、無数の氷のナイフを、全身で、…

受け止める。



マイナス273℃に迄、分子運動を凍結された氷のナイフは、

体内の血液をも瞬時に冷凍させる為、


外には、一滴の血のしたたりをさえ、…零さない。




アリスターは、ほんの小さな溜息を、…吐いて、


やがて、真っ暗な地下鉄のレールの上に、沁み出す様に流れ込んで来る、…


赤い、マグマ!




それは、驚く程粘度が低く、まるでさらさらした、赤く光を放つローションの様に、あっと言う間に、涼子の足下に迄到達して、次第に、かさを、…


増して行く。




涼子もまた、

その涼しげな表情は、眉一つ動かす事も無く、


今やくるぶし迄浸る筈の、蕩ける様なマグマを、

プラットホームから溢れ、線路の上に零れ落ちて来るスプリンクラーの滴りで、


瞬時に、冷却、真っ黒な軽石へと、…


作り替える。




涼子の背後に出現する、黒く輝く、魔法陣!

そして、間髪容れず、空間を引き裂く様にして、魔法陣から這いずり出して来る、…


体長5mの巨大な、「マタマタ」!


その全身の「肉」はクラゲの様な半透明のゲル状で、まるで墨汁の様に濃い赤橙色の体内骨格が丸見えになっている。




「マタマタ」は、怪獣の様な雄叫びを上げて!

その凶暴な顎が、アリスターの身体に飛びかかり!…食い千切る!



マグマに触れた「マタマタ」の下半身が、大量の水蒸気を発生させて、視界を、…遮る。



「マタマタ」が食い千切った筈の空間から、…

その牙が食い込む、ほんのその瞬間迄、其処に居た筈の、…

アリスターの姿は、…消滅していた。




そして、プラットホームの上に、出現している、…アリスター。


怠そうに両手をポケットに突っ込んだ格好で、…

詰まらなさそうに、冷たい視線で、…

溶岩の上に立つ、日本人の少女を、…


見下ろしている。



その背中には、朧げに光を放つ、…3対6枚の天使の翼、




地震!


そして、巨大な地割れが発生!

大量のマグマと諸共に、一瞬の内に、地の底へと吸い込まれて行く、…


涼子!










朋花:「ほんっと! キリが無いんだから!」


真紅の翼竜の背に跨がって、直角急降下する朋花の行く手には、

ドレッド・ヘアのイケメンが、…復活していた。



朋花が発生させた数百万℃の熱に飲み込まれて、一瞬で蒸発した筈のその男の、逞しく、美しい肉体には、何の傷跡も、小さな火傷の跡一つすら、…残っていない。


まるで、生まれた侭の姿な男性の肉体には、布切れ一つ纏われておらず、全てが、余すところなく、曝け出されている。




朋花:「ちょっと格好いいからって! 見せびらかしてんじゃないわよ!」


「ケツアルコアトルス」の強襲を避けて、

マタドールの如く、華麗に、瞬間移動する、キース!




朋花:「でっかいからって! 無駄にブラブラさせ過ぎ!!!」


急旋回して、キースの行方を探る朋花!

に、目掛けて、降り注ぐ!…超音速の「雹」!



轟音ソニックブーム:「「「「…!………!!!!!………!…」」」」

轟音ソニックブーム:「「「「…!………!!!!!………!…」」」」

轟音ソニックブーム:「「「「…!………!!!!!………!…」」」」

轟音ソニックブーム:「「「「…!………!!!!!………!…」」」」

轟音ソニックブーム:「「「「…!………!!!!!………!…」」」」

轟音ソニックブーム:「「「「…!………!!!!!………!…」」」」


「ケツアルコアトルス」から射出された、無数の「火の玉小僧」ミサイルが!

パパパパパッ…っと、闇夜を彩って、「雹」を迎撃する!




轟音:「「「パーー…、  …ーーン!」」」



そして、そのまま、キースを通り越して、より高空へと急上昇を続ける朋花!




朋花:「要するに、上空に、雲が無けりゃ!」

朋花:「雨も、あられも、降らせられないんでしょう!!!」



地上6000mに達して、

朋花を中心とした周囲3km、まるで赤い花火の様に、空を覆う、…


数限りない! 魔法陣!!




朋花:「ほら! 昇天(イ)っちゃいなさい!!!!!」




一斉に飛び散った!数十万の「火の玉小僧」が、ノルマンディの上空27時に、…

もう一つの太陽を、出現させる!!




眩い光の炸裂が、…

触れるもの全てを蒸発させながら、…降下、

周囲5kmの層状雲を蒸発、消失させながら、…

尚も、キラキラ光る爆弾が、地上目掛けて、…


降り注ぐ!



機雷のごとく、触れるもの全てを、…燃やし尽くす!




空を飛ぶ「聖霊」達の殆どが、その餌食となり!


体長200mに及ぶ「ダイダラボッチ」すら、焼尽して!


地上に蠢く「聖霊」と、その「生き餌」とされた人間達の身体を、…


絨毯爆撃する!!





瑞穂:「馬鹿朋花! あいつ、何やってんのよ!」



3体の「ゴーレム」が合体して、

その胎内に瑞穂を格納! 出鱈目でたらめな熱爆弾の嵐から、瑞穂を、…護る!




蒸発する、「ダイダラボッチ」!


燃やし尽くされて、焦土と化す、大地!


尚も、降り続く、数百万℃の「火の玉小僧」達!










そんな風に、舞い落ちて来る「光の塊」達を、

生まれた侭の姿の揚羽蝶の男の娘が、静かに、…


見上げていた。



やがて、その男の娘の背中に出現する、

朧げに光る、3対6枚の翼、


それぞれが、羽ばたく様に、護る様に、隠す様に、イアンの身体を包み込み、…

次第に、輝きを、増して行く。




次の瞬間!

まるで地球上の全ての気流がその少年の命令に従うかの様に、…


一瞬の内に、上空をスーパーセルが覆い囲み、全天は真っ暗な闇に、包まれる。



そして、突如発生した空気の渦が、急速に回転半径を狭めて、風速600km/h、藤田スケールF6レベルの、強烈なトルネードと化す!



強烈な風が、轟音と共に、何でもかんでもお構いなしに、そこら中のモノを上空に巻き上げ、「火の玉小僧」爆弾を、成層圏界面を越えて、遥か彼方へと、吹き飛ばす!




意味不明な強風に巻き込まれ、行方不明に吹き飛ばされる、…朋花!



体長50mの「巨大ゴーレム」も、無事では済まされない。


強風に晒されてボロボロと浸食される、…砂の身体!



山猫の屋敷も根刮ぎ、全壊して、竜巻に、…吸い上げられる!




その中心部に居て、静かに、

世界の果て迄も見通せる様な、澄んだ瞳で、夜空を見上げる、…


揚羽色の男の娘、







行成り!

ソレ、に目掛けて!上空から、飛び掛る!!…


巨大な白い虎!!!



大地に堕ちて、爆発する「白虎」!


大地が、剥がれ、巻き上げられて! 直径60mのクレーターが、…


出現する!




直撃の一瞬、早く!

瞬間移動で宙に逃れるイアン!



そのイアン目掛けて!

飛び散った瓦礫にまぎれて、アリアが、…


特攻する!



アリア:「…イアン!!」



さらに、その、アリアの直ぐ後ろに、瞬間移動で出現する、…


ディビッド!




そして、何時の間にか、デイビッドの手には「ロンギヌスの槍」が、握られていて、…


アリアの特攻を、愛おしむ様に受け容れるイアンの

か細い、身体ごと、…


アリアを、「聖霊殺し」の槍が、…



貫いた!




アリア:「ぐ……、!」



優しく、アリアの身体を抱きとめる、…イアン。

そっと、血を吐き零す、その美しい頬に、顔を寄せて、


まるで、恋人にそうする様に、甘く耳元に、…


囁く。



イアン:「やっと、…掴まえた。」










地上の喧騒が、緩やかに、揺れ響いて来る。

パラパラと、剥がれ落ちる、天井の欠片を、払いのけ、


漸く、アリスターは、その、部屋に、…


到達した。



冷め切った様な、彼の視線の先には、再び、一人の少女が、…

立ちはだかっていた。




芽衣:「こっから、先は、…行かせへん。」



更に、歩みを進めようとする、アリスターの足を、…


何かが、引っ張った。




見ると、

廊下から生えて、伸びる、植物の蔦が、アリスターの脚に、…


絡まっている、



いや、正確には、その植物は、既にアリスターの脚の肉の奥深くにまで、…


食い込んでいた。




植物は、アリスターの体内で急激に成長を続け、骨の随ごと、浸食し、…

あっと言う間に、只の土塊へと、…


変えてしまう。




アリスター:「Don't let me get tired.(やれやれ、)」



地響きを立てて、…

地下の施設が、軋み、砕け、…

床の裂け目から、噴水の様に噴き出して来る、…


真っ赤なマグマ!




炎が、床を、壁を、天井を、あっと言う間に、覆い尽くす。



作動したスプリンクラーが、振り絞る様に水を撒くが、

まさに、焼け石に水。




それでも、芽衣は、一歩も引かずに、その部屋の扉を、…護る。

既に、手術室の中は、炎に包まれていて、…




アリスター:「I see.(そうか、)」

アリスター:「You are a Decoy.(お前は、囮か。)」



食肉植物は、既にアリスターの全身を覆い尽くし、

その、顔に迄、赤詰草(クローバー)の芽が、吹き始めている。




芽衣:「……、」



一斉に、噴き出した炎が、辺りを取り囲み、

一切の容赦の無くなった、マグマが、…


床を、アリスター自身の身体を、そして、

芽衣の脚に取り憑いて、…


焼き熔かし始める。




燃え上がったアリスターの身体は、胎内に取り憑いた食肉植物を駆逐し、

再び、エクトプラズムが集結して、


ミルミル内に、無傷のアリスターを再生させて行く。




一方で、芽衣の身体は、

マグマが、焼き焦がすのと同時に、再生を続けているが、


しかし、その、出鱈目な再生能力も、次第に、…追いつかなくなって、



重度の火傷が全身を覆い尽くす、姿の侭、

とうとう、マグマの川の中に、膝を、手を付く。



アリスターは、凍る様な視線で、

全身を炎に包まれて行く、少女の姿を、ただ、…見下ろしている。



そして、熱に耐えきれなくなった鉄筋コンクリートの床が、崩れて、沈み始め、…




次の瞬間!


地下水が間欠泉の様に噴出して! 



復活する!、…涼子!



氷の剣が、アリスターの胴体を貫き!

一瞬の内に、辺りを包み込むマグマと、炎が、…凍結する!



アリスターは瞬間移動して氷の剣を外し!


忌々しい形相で、舌打ちする!



そして、輝く翼を展開して、…










重い、遠い、深い、低い、振動が、

内臓を、大気を、そして大地を、…震わせた。



全てを震わせて、地面が陥没した。


建物の残骸ごと、

町ごと、


周囲20kmの大陸の一部ごと、

その地球の深淵へと落ち窪んで、


出来上がった巨大なクレーターに、海の水が、…


流れ込む。




地割れが、屋敷の残骸ごと、涼子と芽衣を、引き摺り込もうとするが、


芽衣の発生させた「赤詰草の揺り籠」が二人の身体を捕らえて、海面へと、…


浮き上がる。






何時迄続くとも知れない、嵐の様な波の満ち引きが繰り返し、


二人を乗せた赤詰草の小舟を、…翻弄する。




やがて、大方の地球の憤りが納まり始めた、新しい入り江の中心で、



漸く傷の癒えた、芽衣と涼子を載せた「揺り籠」を取り囲む様に、


無情にも、再び、彼らが、…



集結する。






東の空に、白み始めた朝焼けが、

彼らの星座に倣って配置する、美しいメルカバー達の姿を、照らし出す。


朧げに光を放つ、「天使」達の肉体には、

只の一つの傷すら、…


残っていなかった。




芽衣:「はっ…、」



息を飲む、芽衣の視線の先、…


ディビッドの肩にかけた大きな鉄の鎖には、

未だ、ロンギヌスの槍に貫かれたままの、アリアが、…


ぶら下げられていた。




イアン:「それで、彼は、何処に行ったの?」


芽衣:「知らない、」


芽衣:「知ってても、教える訳、…無いやろ!」



揚羽色の男の娘は、穏やかな表情で、微笑んで、…

まるで、ソレが救いであるかの様に、その綺麗な手を、…差し伸べる。



イアン:「構わないよ、僕達には、無限の時間があるのだもの。」

イアン:「君達にも、十分に、痛みを分かち合う時間がある。」







翔五:「ここだ!」



芽衣を取り囲むイアン達から、15m程離れた海上には、


何時の間にか、

水陸両用仕様のD-Bodyが、海面に浮上していた。



背中のハッチが開いて、中から、

翔五と万里が、…現れる。




翔五:「待たせて、悪かったな。」



メルカバーは、「慈悲」と「峻厳」と「均衡」を秘めた深い眼差しで、

おそれを持って切なげに、翔五の事を、…


振り返る。




翔五:「僕の「聖霊」達は、返してもらうよ。」

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