エピソード49 「そして僕と美少女は世界の果てに辿り着く」

それは、とても不思議な体験だった。


「こうすれば比較的上手く行くから」と万里に指示された通りの手順で、…

僕は、ゆっくりと、だんだんと、意識を保ちながら、眠りの淵を落ちていった。


最初に、全身の弛緩があって、…

次に、呼吸に合わせて自分の身体の中で、膨れたり萎んだりする感覚があって、…

次第に、その伸縮だか振動だかが、激しくなり、大きくなり、…

そして、身体から剥がれる様な、浮き上がる様な、ひっくり返る様な感覚があって、…


目を閉じている筈なのに、モノクロで、ボンヤリと、やがて鮮明に、

景色が見え始めて来て、…


その、景色の穴の中へ、吸い込まれる様な、吸い出される様な、

まるで、トンネルを抜ける様な感覚があって、…



万里:「よう、目が覚めたか。」


直ぐ傍から、万里の声がした。




眠りについたのに「目が覚めたか」と言うのは、いささ可笑おかしい気もするのだが、確かに、僕は、意識を保ったまま、…


奇妙な光景を目の当たりにしていた。



此処は、僕と万里が眠りについた手術室らしい。

二人の身体が、麻酔をかけられて、手術台に横たわっている、


…のを、僕は、天井付近から、見下ろしていた。



翔五:「何だ、これは?」

万里:「夢だよ、」


翔五:「あれは、僕なの?」

万里:「ああ、臨死体験とか、幽体離脱とか呼ばれている感覚だ。」


何だか、首の後ろから、実体の無い、陽炎の様な、薄ら光る紐の様な、臍の緒の様なモノが出ていて、


その紐の様なものが、手術台に横たわる僕の身体に繋がっている、…気がする。



万里:「気にするな、それは「魂の紐」とか言われているモノだけど、」

万里:「大して重要じゃない。」


翔五:「切れたら戻って来れなくなるとか、…無いだろうな、」

万里:「今更、そんな些細な事を気にして、どうするんだ?」


万里:「これは、ただの夢だよ。」


いつもの夢と一寸違うのは、

夢の中なのにヤケに意識がハッキリしているという事?

そして、僕達は、同じ夢を共有しているという事?


今や、手術台の上の僕の身体は、その右腕をメスで切り裂かれようとしていた。


もっとも、僕が、山猫にそうしてくれと、頼んだのだが、、、



万里:「気にするな、ただの夢だよ。」

翔五:「それにしても、気持ち悪いもんだな。」


万里:「行くぞ。」

翔五:「何処へ?」


万里:「世界の果てだ。」


翔五:「それよりも、まず、…どうすれば、お前みたいに、上手く動けるんだ?」


僕の曰く幽体アストラルボディは、フワフワと漂うばかり、宙を掻くばかりで、


思う様に身体の自由が、…利かない。



万里:「最初は難しいんだけど、直ぐに慣れるよ。」

万里:「ほら、手を繋いでやるよ。」


その繋いだ万里の手が、ヤケに柔らかくて、



翔五:「お前も女だったんだな…」

万里:「言っとくけど、頭で思ってる事、全部ダダ漏れに通じてるからな、」







僕達は、手術室の屋根を突き抜けて、屋敷の外に出た。


水平線に沈みかけた太陽が、美しい。

遥か彼方、海岸線の際に、有名なモン・サン・ミッシェルが陽炎の様に霞んで見える。


屋敷を取り囲む長い塀の見晴台の上で、朋花と瑞穂が何か話をしているのが見えた。



翔五:「何を、話してるのかな?」

万里:「意識を「旅」に集中しろ、…さあ、昇るぞ。」



僕は、万里に引かれるままに、宇宙へと、上昇していく、

次第に地面が、ヨーロッパが、ユーラシア大陸が、地球が、どんどん小さくなる。


空の色が、夕闇の藍から、虚無の漆黒へと変わり、今までに見たどんな写真や、プラネタリウムよりも、星達が眩しく輝いて見える。



翔五:「ここは、宇宙なのか?」

万里:「何処でもない、夢の中だよ。」


僕達は、更に地球を離れて、上昇を続け、…

兄妹惑星達を横目にかすめながら、太陽系を後にして、…

それから一気に加速して、銀河系を飛び出して、…

遥か、数多の銀河群が、朧げに形作る、宇宙という容れ物をも越えて、…


やがて、目に見えない粘り気のある「何か」に捕らわれて、上昇スピードが、…落ちる。



翔五:「何だか、変な感じだ。 ここは、何処なの?」

万里:「天国への壁だとか、世界の果てとか、ヒトは言う。」


万里:「心に未練があると、この壁を越えられずに天国へは到達出来ないなんて言う奴も居るが、…ただの迷信だ。」


万里:「これは、お前の想像力の限界なんだ。」

万里:「これより外側を、想像する事が難しくなってきてるのさ、」


万里:「つまり、この見えない壁の外側が、お前にとっての世界の外側っていう訳だ。」


翔五:「世界の外側?」



万里:「なあ、宇宙の果てって、想像した事あるか?」

万里:「人間は、地球の上で生活していて、」

万里:「地球は、太陽系の中に存在していて、」

万里:「太陽系は、銀河系の中に存在していて、」

万里:「銀河系の外側にも、宇宙は広がっている。」


万里:「今の天体望遠鏡だと、かなり遠くまで観測できるらしいが、兎に角、宇宙と言うモノが、ある塊だと想像してみる。」


万里:「宇宙の形については、科学者たちが、観測データから様々な姿を想像しているらしいが、まあ、それはどうでも良くって、」


万里:「じゃあ、その宇宙の外側って、一体どうなってると思う?」

翔五:「宇宙の外側?」


万里:「宇宙だって、宇宙を容れる「容れ物」が無ければ、存在できないだろ、」

翔五:「まあ、そうだな。」


万里:「じゃあ、宇宙の外側の世界は、一体「何」の中に存在してるんだ?」

万里:「それで、宇宙の「容れ物」も、それを包み込む「何か」の中に存在している筈だろ?」


翔五:「わからん、…」


万里:「兎に角、そう言った諸々の「全部」をひっくるめた、「世界」の「境界」、…つまり、此処は、そういう場所だと思えばいい。」


振り返ると、僕達は、いつの間にか、

銀河を遥かに超えて、灰色の「存在のスープ」の中に漂っていた。



万里:「この壁の外側は「存在」を超えた領域だ。」

万里:「つまり此処が「世界」の果てなのさ。」


万里:「まあ、…只の夢だけどな。」



相変わらず、僕の首根っこからは、頼りなくふわふわ漂う陽炎の様な紐が、遥か彼方の宇宙の中の銀河の中の太陽系の中の地球の中の、フランスのノルマンディの片田舎の山猫のアジトの地下の手術台に横たわる、僕の身体に繋がっている、…様だ。



翔五:「それで、どうすれば良いの?」

万里:「そこで、発想の転換だ。」


万里:「こんな、とてつもなく大きな「世界」は、どうして存在しているのか。 一体何処に存在しているのか。」


万里:「そもそも、存在するっていう事は、どういう事なのか。」

翔五:「分からないよ、」



万里:「ひどく簡単な事さ。」

万里:「お前が感じる「全て」は、お前が「空想したもの」だって事さ。」


万里:「お前が触れるものも、見るものも、聞くものも、匂うものも、味わうものも、全ては、お前の脳が電気信号から「空想したもの」に過ぎないのさ、」



万里:「この壁は、お前の空想の壁なんだ。」

万里:「此の世界は、全部、お前の空想なんだ。」

万里:「つまり、この壁の外から、世界を空想しているのは、お前自身だ。」


万里:「だから、壁に背中を預けて「世界」を見てみな。」



遥か遠くに、塵の様に小さくなってしまった輝きの一つが、宇宙で、銀河で、太陽系で、地球で、…


僕は、やがて、暖かな、世界の壁の温もりを感じながら、

呼吸と、その伸縮と、振動に合わせて、…


壁と溶け込んで、…


一体化する。



だんだんと、視界がぼやけて、不鮮明に、…


そうだ、僕は、…

眠っていたんだっけ。


そして、…ひときわ深く、新鮮な「息」を吸い込んで、



ふっと、目を覚ます。







万里:「よう、目が覚めたか。」


直ぐ傍から、万里の声がする。


「目が覚めたか」と言われると、きっと僕は未だ夢の中にいるに違いなかった。 

何故なら、僕は、明らかに、奇妙な光景を目の当たりにしていたからだ。




其処は、狭い、…ロッカーの中?


僕と万里は、狭い、掃除道具入れの様なロッカーの中で、密着していて、

その万里の身体が、ヤケに柔らかくて、



翔五:「お前も女だったんだな…」

万里:「言っとくけど、頭で思ってる事、全部ダダ漏れに通じてるからな、」


ふと我に返ると、

ロッカーには、ちょうど目の高さ位に、小さな覗き窓が付いていて、…


其処から覗くと、その中に、灰色の「存在のスープ」が見えた。


確かに、このロッカーは「世界の果て」の外側に、…あるらしい。



万里:「取り敢えず、狭いから、出ようぜ。」


万里が後ろ手に、ロッカーのドアを弄って、


ガチャリ、…と、やけに安っぽい音がして、扉が開き、…

僕達は、もつれる様に、ロッカーから、零れ出て、…


硬い床の上に、…転がった。



翔五:「なんだ、此処は?」


其処は、真っ白な、部屋? 廊下?


縦2m×横2m程の正方形な断面が、見ると、遥か彼方まで、右も、左も、ひたすらに続いている、それだけの、…通路?


それで、壁の一方には、ずらーーーーーーーーーーーーーーーーーーっと、

無限に続くが如く、ロッカーが、…並んでいた。



僕達は、どうやら、そのロッカーの内の一つから、転がり出てきた、…らしい。


部屋の壁も、天井も、床も、ロッカーも、全部真っ白で、

ソコハカトナク、丁度いい感じから一寸過ぎる程度に明るかった。


不思議な事に、何処にも照明器具らしき物は見当たらず、

何だか、天井や壁ソノモノが、光を発している様に、…見える。



万里:「御目出度う、」

翔五:「へっ?」


万里:「此処が、世界の外側、…神様の居る所だよ。」

翔五:「こんな、只の通路みたいな処が??」


万里は、よっこらしょっと、立ち上がりながらそう言い、

僕は、相変わらず床に無様に転がったままの格好でそう言った。



万里:「ああ、あくまでも、お前の空想、夢だけどな。」

翔五:「どういう事?」


万里:「つまり、人によって、見え方、感じ方は違うんだ。」

万里:「たまたま、お前の場合は、この変梃へんてこりんな、地下通路みたいだったって、…言うだけの事さ。」


翔五:「それにしても、一体何処まで、続いてるんだ?」


床に転がったまま、すれすれに、遥か遠くに目を凝らしても、…廊下の突き当たりが見えない。 まるで、合わせ鏡の中の無限回廊の様に、この廊下だか通路だかは、何処迄も無限に続いている、そんな風に、…見えた。



翔五:「それに、このロッカーは、一体何なんだ?」


よく見ると、…ロッカーの扉には、それぞれ一つずつ、名札が付いている。


今しがた僕達が転がり出て来たロッカーの扉には、マジックペンで書いた様な、線の細い、ひ弱な、控えめな字で、…「加地伊織」と書かれていた。


更に、目を凝らしてみると、Hの鉛筆で書いたみたいに、薄く、細く、取り消し線が引かれていて、名札の隅っこに、小さく、…「星田翔五」と書かれてある。



翔五:「僕の名前だ。」


それにしても、加地伊織って? 誰だ?

そう言えば、何処かの誰かも、僕の事をそんな名前を呼んでいた様な、…気がする。



隣のロッカーを見ると、「三枝知美」

反対側の隣は、「宮崎峰子」

その隣は、「田口修」


その隣も、その隣も、全部のロッカーに、名札が取り付けられている。



僕は、漸く立ち上がって、

「宮本岳志」と書かれたロッカーの扉に、手を掛け、…てみた。



女子:「やたらに開けない方が良いわよ。」


声のする方を振り返ると、

何時の間にか、其処には、一人の少女が立っていた。


僕は、思わず、息を、生唾を、…飲み込む。


ついさっきまで、通路の果ての果て迄、誰も、何も、見えなかった筈なのに、

イヤ、そんな事よりも、何よりも、紛れも無く、その少女は、…



翔五:「アリア?」

万里:「いや、このヒトは、…」


万里:「サリナだ。」







確かに、アリアと瓜二つの美少女が、其処に立っていた。


雰囲気が違うのは、何と言うか、素っ気ない所?


アリアは、会う度にベタベタの、ラブラブの、イチャイチャで、

まるで子犬が主人に飛びついて舐めまわす位に、激しく僕に甘えて来る、…のだが、


この、アリアそっくりの少女は、

全く同じ顔、同じ背格好であるにも拘らず、…まるで、僕なんかには、全然興味が無いミタイに、無味乾燥な冷たい視線で、じっと僕の事を、見詰めていた。


そう言えば、…

町田の雨水調整施設で見た、あの木乃伊ミイラの様な「眠り姫」の事を、白衣のおばさんは「サリナ」と、…呼んでいた事を、思い出した。



サリナ:「そう、私は貴方がアリアと呼んでいる少女の母親、…ミタイなモノよ。」

サリナ:「お久しぶりね、伊織さん、…今は、翔五さんと呼んだ方が良いのかな。」


たいして面白みも無さそうに、サリナは、社交辞令の様に、…そう言った。



翔五:「お久しぶりって、…前に、会った事が、あるんですか?」

サリナ:「ええ、貴方はすっかり忘れているけどね。」


万里:「多分、前に「お嬢」と此処に来た時に、会ったんじゃないのか?」


サリナ:「そう、あの時は、優美と一緒だったわね。」


翔五:「ゆうみ?」

サリナ:「貴方がアリアと呼んでいる少女の名前よ。」




サリナの、まるで表情を変えない、愛想の無い、美貌は、

何処となくマネキンか、アンティーク人形を彷彿とさせた。



サリナ:「折角来てもらって悪いけれど、神様ヴィシュヌは此処には居ないわ。」


万里:「何処に、…居るの?」


サリナ:「幾らスランプ中の小説家だって、同時に2つや3つの物語を書く事は出来るわ。 今、彼は別の物語の創作にかかりっきりで、こっちの世界には、滅多に帰って来ないのよ。」


サリナ:「まあ、翔五さんが、こっちの世界の物語の結末を引き受けたから、…って言う事も有るのでしょうけれど、」



翔五:「僕が、この世界を引き受けた?」


サリナ:「そうよ、「神様の結末はマンネリで詰まらないから、俺が代わりに書いてやる、」…って、そう言って引き受けたの、覚えてないのね。」


万里:「お前、よく、そんな事言えたな、」

翔五:「全く、覚えてない。」



サリナ:「それで、啖呵を切ってみたモノの、やっぱりキツくなって「世界を滅ぼす呪文」を手放しに来たのは、知っているわ、…でも、残念だけど、貴方の思っている様には、事は進まないわよ。」


翔五:「どう言う事?」


サリナ:「メルカバーには、「呪文」を引き渡せないと言う事よ。」

サリナ:「「天使」に「呪文」は譲渡できないのよ。」


翔五:「どうして?」

サリナ:「「天使」は「聖霊」と同じ、「世界」のプログラムの一つだから。」


不思議な事に、此処では、イチイチ声に出さなくても、お互いの思っている事が、そのまま聞こえて来る、…というか、伝わって来る、…らしい。


そう言う訳で、必然的に、台詞回しが多くなる、、、




翔五:「「人間」と「天使」と「聖霊」の違いって、何なんだ?」


サリナ:「「人間」は、プレイヤーの居るキャラクター。」

サリナ:「「天使」や「聖霊」は、プレイヤーの居ないキャラクター、NPCよ。」


サリナ:「要するに人工知能(AI)的に、自分の意志と目的を持って活動しているのが「天使」、」


サリナ:「「聖霊」は、自分では意志を持たず、手続きしだいで、誰の支配下に置く事もできる。 元々は世界のほころびを修繕するための自動プログラムだけど、「神の戦争」下では、意志を持った支配者の命令の下で、「世界」を破壊する為の「兵器」としても働く様に設計されているのよ。」


サリナ:「専ら、「聖霊」を使役するのは「天使」だけれど、稀に「人間」が「聖霊」の支配者になる事もある。「聖霊」を支配できる資質を持った「人間」の事を「ともがら」と呼んでいるわ。」


サリナ:「翔五さん、貴方は「輩」の一人よ。」



翔五:「でも瑞穂や、朋花は、人間だった時の意志と記憶を残していて、僕がイチイチ命令したりしなくても、まるで人間ミタイに好き勝手に行動しているよ。 」


サリナ:「それは、貴方がそう仕向けたからよ。だから、彼女たちは特別。」

サリナ:「でも「聖霊」である事に違いは無いわ。「人間」ではない。」




万里:「つまり、…」

翔五:「アテが外れたって事か、…」


サリナ:「メルカバーは駄目だけれど、全くアテが無い訳ではないわ。」

翔五:「それは、どう言う事?」


サリナ:「優美(=アリア)なら可能よ。」


サリナ:「あの子は「聖霊」の身体を持ちながら、引き続き「人間」として認定されているわ。 貴方が、何回「転生」を繰り返しても、記憶を持ち続けられる様に、神様から「アドミニストレーター」並みの、特別な「権限」が割り当てられているのよ。」


サリナ:「だから優美(=アリア)に「呪文」を引き渡す事は、技術的には可能な筈よ。」




でも、それではまるで、アリアに「重荷」を押し付けてしまうミタイで、



翔五:「それって、本当に、…正しい事なんだろうか?」


サリナ:「本人を含めて、誰にも知らせなければ「重荷」にはならないんじゃ無いの?」


万里:「因(ちなみ)に、どうやれば良いんだ?」



サリナ:「まず、「呪文」は3つの「情報」で成り立っているわ。」

サリナ:「「アプリケーション」は元々 初期設定デフォルトで「世界」に組み込まれている。」


サリナ:「「アプリケーション」の起動には「呪文パスワード」が必要。」

サリナ:「でも、誰にでも起動出来ると言う訳ではないわ、事前「登録」したモノだけが「呪文パスワード」を使える様になっているの。」


サリナは、トボトボと、廊下を歩き出し、…

僕と万里が、トボトボと、後に続く、…



サリナ:「「アプリケーション」の起動権限は、現在、翔五さんに「登録」されている。「登録内容」の変更は、通常「アドミニストレーター」にお願いするのだけれど、幸いな事に、此処でなら、もっと手っ取り早い方法があるわ。」


10m程歩いた先に、ロッカーとは反対側の壁に凹みが有って、

その中に、まるで図書館か、本屋にある様な「端末パソコン」が置いてあった。



サリナ:「このマイコンを使えば、自分でシステムにアクセスして、簡単に書き換えられるの。」


ベージュの、結構、筐体の大きな、古めかしい、パソコン?、マイコン?


僕も、万里も知らなかったのだが、それは、アップル][eという旧世代のマイコンと、ブラウン管式のテレビモニタに、…酷似していた。



翔五:「ナニ、これ?」


サリナが、何処からとも無く、黒くて正方形な封筒エンベローブ?を取り出す。



サリナ:「5インチ・フロッピー・ディスクよ。」

翔五:「フロッピー・ディスク?」


スロットにフロッピーディスクを差し込んで、起動させると、…

ガチャン!ガチャン!言いながら、マイコンが、立ち上がる。



モニターに映し出されたデスクトップの背景は真っ黒で、…

やがて、緑一色の文字が、パラパラと、出現しはじめた。


どこか、Windowsの、DOSプロンプト画面にも、…似ている?



--------

Current Registration

Name; Iori Kaji

ID; Yumi Nanba, Kasumi Minamoto, Midori Azuma, Ryoko Tateno, Runa Ikeuchi

Do you want to revise? Y/N |



--------


ちかちかと、文字列の下に入力カーソルらしいモノが点滅する。



翔五:「これって、ヒトの名前?」


Iori Kaji?



サリナ:「貴方の昔の名前よ。 3000回以上転生を繰り返す内に、素性も、名前も少しずつ変わったの。 今の貴方は星田翔五だけど、このプログラムに登録した時は加持伊織だったのよ。」



翔五:「このIDって言うのは? これもヒトの名前みたいだけど、」


サリナ:「このシステムでは登録者を同定する為に、登録者の事を知っている何人かの名前をID情報として登録するのよ。」


翔五:「つまり、IDに書かれてる名前って、皆の「前世」の名前だって事か、…源香澄、吾妻碧、舘野涼子、池内瑠奈、それで難波優美って言うのが…アリアか、」



サリナ:「試しにやってみると、…」

サリナ:「変更しますか、だから「Y」を入力して、」



--------

Name;|Yumi Nanba

ID; Shogo Hoshida, Kasumi Minamoto, Midori Azuma, Ryoko Tateno, Runa Ikeuchi



--------


それから、エンターKey!



--------

Invalid,

Do you want to retry? Y/N |



--------


翔五:「駄目みたい?」

サリナ:「もしかすると、IDは生存中の「人間」じゃないと駄目かも知れない。」



--------

Name;|Yumi Nanba

ID; Shogo Hoshida, Mari Hamahira



--------


それから、エンターKey!



--------

Invalid,

Do you want to retry? Y/N |



--------


万里:「情報が少な過ぎて、個人が特定出来ないんじゃないのか?」

サリナ:「この組み合わせが無数に有るって言う事じゃない?」


翔五:「要するに、アリアの事を知っている人間の名前を追加すれば良いのかな。」

翔五:「…十字架ピアスの本名って、…何だっけかな?」



サリナ:「私の名前を使っても、良いわよ。」



翔五:「いいの?」

サリナ:「その代わり、後で私の頼みも一つ聞いてもらうわよ。」


翔五:「分った。何でもする。」

サリナ:「安請け合いね。 内容も聞かないで決めちゃって良いの?」


翔五:「ああ、お前の頼みなら、何だって聞くさ。」



--------

Name;|Yumi Nanba

ID; Shogo Hoshida, Mari Hamahira, Sarina Sakamoto



--------


それから、エンターKey!



--------

Accept|


New Registration

Name;|Yumi Nanba

ID; Shogo Hoshida, Mari Hamahira, Sarina Sakamoto

Is this OK? Y/N |



--------



翔五:「出来た、…みたい、だな。」


万里:「それで、どうするんだ? このまま「お嬢」に「登録」変更するのか?」



翔五:「どう、…しようか。」

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