エピソード48 「そしてとうとう僕と美少女は覚悟を決めた」

およそサッカー・グラウンド8面分は有ろうかと言う巨大な地下格納庫

天蓋てんがいに設置された管制室から見下ろす そのフロアの中央に、ヘビー・デューティ-Pick-up程の大きさの、奇妙な機械がうごめいていた。


モニター上に「D-Body-128FG」と識別されるその2体のロボット?は、何処か、数日前に高檜山の秘密基地で目撃した「軍用強化外骨格」の派生型の様にも見えた。


それは下半身に装備された左右三対、計六脚を器用に動かしてまるで昆虫の様に移動し。

上半身に装備された左右二対、計4本の腕が2台のM134ガトリング・ガンを操作する。



管制官:「Test Number #8, Ready, Start!(第8回試験、用意、始め!)」


パイロット1:「Roger!(了解!)」

パイロット2:「Roger!(了解!)」


ロボットは、パイロット、パイロットの2名で操縦されており、合計4名の操縦士が、管制室の中央に設けられた遠隔操縦席から、拡張現実(AR)センサーを通じて、あたかもロボットに搭乗しているかの様な臨場感で、奇妙な形の「残酷機械」を操縦する。


そして、たった一人の小さな人間が、その2体のロボットの前に、…対峙していた。


その女、

瑠璃色がかった濡烏ぬれからすの髪、芯の強そうな眼差し、華奢スレンダーで黄金比なスタイル。神の贔屓ひいきとしか思えない美貌。 そして どこか人の心を惹き付けて離さない不思議な匂いがする。


黒のショート・トップにグレーのフィットネス用肩丸出しTシャツ、黒のカプリ・タイツに短パン、それに白いニュー・バランスのスニーカー。


まるで、一寸ちょっとジョギングにでも出かける様な出立ちの女が、何の警戒も無しに「残酷機械」へと、…歩み寄る。



銃声:「「…!!!!!!…」」


その、たった一人の女に向けて、2体のロボットが2体同時、各機2台ずつのM134ガトリングガン、通称ミニガンの、合計24本の銃身から、毎分3000発×4で7.62mm×51 NATO弾を連射する!



銃声:「「…!!!!!!…」」


フルメタルジャケットの弾幕が、柔らかな女の身体など、一瞬の内に、…

肉を弾き、骨を砕き、体液を吹き散らかす!



銃声:「「…!!!!!!…」」


にも拘らず、不思議な事に、その女は、銃弾の雨を全身に浴びながら、多少ゆらゆらと蹌踉よろめきながらも、…立っていた。


指が吹き飛び、腕は千切れ、顔面を粉砕されて、血飛沫を撒き散らしながら、確かにグズグズのミンチ肉になっている筈の女の身体は、依然として、…立ち続けていた。


まるで焼け石に落とした水滴の様に、一瞬の内に、その何千もの致命傷が、


そんなモノ、最初から存在しなかったかの様に跡形も無く、…


消失する。



万里:「なあ、何か意味が有るのか? この、特訓モドキ?」


その女、

茶に染めたベリーショートなウルフカット、ノーブラに紺のキャミソール。 そして黒のリーバイスと、ティンバーランドのハイカットブーツ。 ピンクのデジタル・オーディオ・プレイヤーに繋いだイヤホンを首にぶら下げている。


基本的に何時も同じ格好の、色違い、…らしい。



翔五:「本人が「聖霊」の身体を使いこなす為に、どうしてもやりたいって言うんだから、…気の済む迄やらせてあげてよ。」


僕と万里は、管制室のガラス越しに繰り広げられる、この奇妙な残虐行為を眺め続けて、


もう、彼此かれこれ、…2時間になる。



山猫:「つまりあれは「物理的且つ生化学的な属性を持った物質」の様に見えているけど、実際に彼処に有るのは「女の形をした物体が存在すると言う情報」に過ぎないと言う事ね。」


それともう一人、僕の隣には、背が高くてほっそりとした、所謂、…「おねえ」が立っている。 ドギツイピンクと白を基調とした、派手なスエットの上下を纏っているが、 


はっきり言って、…ちっとも似合ってない。



翔五:「どう言う事?」

山猫:「要するに「さわれる幽霊」ミタイなモノよ。」


山猫:「実際には物質は存在しないのだもの、物理的に破壊する事は不可能って訳ね。」

翔五:「でも、一瞬は傷を負った様に見えるじゃない。…あれはどうして?」


山猫:「知らないわよ、ナンだか気の利いた「演出」か、何かじゃ無いの?」

万里:「幾ら、再生するからって言っても、ありゃ、痛いんじゃないのか?」 


万里:「何処迄マゾなんだ、アイツは…。」

翔五:「いや、真面目なんだよ、キット…。」


やがて、格納庫内の「塵」が舞い上がり始める。


最初は旋風つむじかぜの様にヒュルヒュルと、徐々に床や壁を削り取って、それは確固とした小型の砂嵐へと成長し、やがて更に密度を上げて、まるで砂塵の蟲か龍の如くに、ゆらゆらと、鎌首を、…もたげる。



パイロット1:「Target is getting an offensive formation!(敵、攻撃体勢に入ります!)」


副パイロット1:「128-FG-1 is going to intercept!(128-FG-1号機、迎撃します!)」



銃声:「「…!!!!!!…」」


ガトリングガンが、「砂の龍」を射撃!


7.62mm×51 NATO弾は、最初「砂龍」の身体を通り抜け、…

やがてより密度を増して行く「土の塊」に封じられてボタボタと墜落し始め、…

最終的には、流動速度を上げた砂塵のヤスリの前に、鉛の弾頭を、研磨され、…


吸収されてしまった。



続いて、今や血塗れのぼろ布をまとうだけの格好の瑞穂が、ゆっくりとその指で指図するのに合わせて、水銀の様にも見えるその「砂龍」はロボットへと接近し、…



副パイロット1:「Back away! (後退します!)」


ロボットは、射撃を続けつつも、その6本の脚を使って機敏に後退、距離を取る。



山猫:「解ってる? 壊さないでよ。 …あれ、高いんだから。」


一瞬!

ネコ科の猛獣が獲物に飛びかかる仕草で、「砂龍」がロボットに覆い被さり!


セラミックとチタニウムから構成されるロボットの複合装甲が、…

ギリギリで「砂龍」の研磨に耐える!!


が、それも束の間、雁字搦がんじがらめに取り憑いた「砂塵」は、

あっと言う間に、その関節部の隙間から、内部のより脆い部分へと潜り込んで、…


数秒の内に、ディーゼルエンジンで稼働する軍用兵器を、…

その胎内から、滅茶苦茶に陵辱して、…


沈黙させた。



パイロット1:「128-FG-1 Down!(128-FG-1号機、沈黙!)」


パイロット2:「128-FG-2 is going to apply Napalm bomb!(128-FG-2号機、ナパーム弾を使用します!)」


管制官:「Exhaust System turn on!(排気装置、稼働します!)」


副パイロット2:「Fire!(発射!)」


128-FG-2号機の第三の腕から、投擲(とうてき)される、特殊焼夷弾!


透かさず、焼夷弾を飲み込む「砂龍」!


ナパーム弾、炸裂!

砂塵に染み渡った粘液が、砂にマミレテ燃焼する!


しかし炎を全身に纏い、猛煙を放ちながらも、「砂龍」は一向に怯む様子が無い。


何を思ったのか、瑞穂は、炎を孕む「砂龍」の鎌首を自らの頭上にもたげて、…

その燃え上がる粘液を、自らの頭上から、…


降り垂らした!


美しい髪と奇跡の様な美貌が、ポリスチレンとガソリンの混合液に爛れて、一気に燃え上がる。



万里:「アイツのナルシストは、死んでも直らないみたいだな。」

翔五:「……、」


やがて、全身に燃え広がった炎が、皮膚を焦がし、骨を熔かし、

その駆け巡る痛みに、瑞穂が、…


膝を付く。


しかし再び、呼吸を整えて、

乾いたスポンジが急激に水分を吸い込む様に、その肌は、


ミルミル潤いを取り戻して行く。



パイロット2:「Ineffective!(効果無し!)」

山猫:「見れば解るわよ。」


瑞穂は、ゆっくりと立ち上がりながら、深呼吸し、

その額のチャクラに輝きを灯す。


瑞穂の上空に出現する、巨大な黄色い魔法陣!

そして、中から降って来る、…ゼリー状の、巨大な物体!



山猫:「バケモノを召喚した訳?…まるで、漫画ね。」


地面に堕ちて、…それは形を整え、…やがて立ち上がって、…

体長20mを越える巨大なナマケモノ、半透明なゼリー状のメガテリウムが出現する!



山猫:「いい? 無闇に壊さないでよ!」


「砂龍」は宙に舞って、メガテリウムのゼリー状の身体に取り込まれる、…

それどころか、格納庫中のガラクタが、先刻壊されたばかりの128-FG-1の残骸迄もが、…

メガテリウムの胎内に吸収されて、…


それは、より巨大な、砂屑のゴーレムへと、変身する!



山猫:「だから、無闇に壊さないでよ!」


パイロット2:「Grappler Formation!(格闘体勢!)」

副パイロット2:「Roger!(了解!)」



銃声:「「…!!!!!!…」」


ロボットの二本の腕が、ガトリングガンを連射しつつ、

残る二本の腕が、下半身に格納されていた巨大なブレードを装備する!



銃声:「「…!!!!!!…」」


しかし、ガトリングガンから連射される銃弾は、…

メガテリウムのゼリー状の身体に取り込まれて、…


吸収される!


128-FG-2号機、果敢にも得体の知れない巨大ゴーレムに突進!



副パイロット2:「DOU!(胴!)」(注、何故か日本語、剣道の胴打ちの事!)


ロボットが、下段の構えからブレードを振り上げて、

チタニウム合金の刃が、そのガラクタの詰まったゴーレムの胴体を、半分迄、…


切り裂いた!


が、ブレードはそのままゴーレムに取り込まれて、…



副パイロット2:「It cannot be pull out!(抜けません!)」


元々不定形なゴミの集まりであるゴーレムの胴体の傷も、…

あっと言う間に修復されてしまう。



副パイロット2:「Gun Punch!(パンチ砲!)」


続いて、ブレードを捨てた128-FG-2号機は、左腕の拳を固めて、…

上腕内部の砲身から、大量の火薬で砲撃された左拳を、…


ゴーレムの鳩尾みぞおちに、減り込ませる!


そのまま、ゼリー状の胎内へと、…取り込まれる、128-GF-2号機の左拳!



副パイロット2:「Burst!(炸裂!)」


想定通り!

取り込まれた128-FG-2号機の左拳が、ゴーレムの胎内で、炸裂!!


一瞬、爆発で膨れ上がったゴーレムの胴体が、砕け散って!

腹から上と下で分断されて、巨大な上半身が、…


地面に墜落する!


10m級の巨岩の落盤に巻き込まれて、押し潰される、…128-FG-2号機、

これは、想定外…、



パイロット2:「128-FG-2 cannot move!(128-FG-2号機、活動不能!)」


山猫:「どうしてくれんの? 一台200億円スンのよ、あれ。」

翔五:「良いじゃん、どうせ役に立たないんだから。」



そして、

崩れ落ちた瓦礫の粉塵の中から、…


素っ裸の瑞穂が姿を現した。



瑞穂:「イチイチ、服がぼろぼろになるのは、頂けないわネ。」

瑞穂:「何か、もっと丈夫な奴は無いの?」


山猫:「無いわよ。 どうせ脱げるんだから、アンタ水着でも着てなさい!」







5つの巨大な水槽が並ぶ、体育館の様な部屋。


その片隅で、芽衣が、…体育座りしている。

芽衣の傍らには、涼子が、じっと、寄り添っていた。



瑞穂:「今は、何を言っても、無駄よ。」


芽衣の元に近づこうとした僕を、瑞穂が呼び止める。

シャワーを浴びて、新しい服に着替えて来たらしい。


懐かしい、あの、瑞穂の肌の匂いが、僕の鼻腔を、くすぐる。



瑞穂:「こんな自分の正体を、受け入れる事は、…簡単じゃないわ。」

瑞穂:「でも、きっと大丈夫だから、」


翔五:「本当に、大丈夫かな。」


瑞穂:「知らないの?」

瑞穂:「女は、自分以外のモノを胎内に受け容れられる位、…慈悲深くて、強いのよ。」


僕の脳裏に、昨夜のアリアの姿が、…フラッシュバックする。



瑞穂:「私は、私達は、…人間じゃないんでしょう。」

翔五:「ああ、」


翔五:「君の正体は「聖霊」、何時かは分からないけど、何千年も前に、君は、鴫野瑞穂の「命」と「記憶」を乗っ取って、成りすましたんだ。」


瑞穂:「でも、何の為に?「聖霊」の目的は何だったのかしら?」


僕は、エマの事を思い出す。

エマは、どうして自分の命を投げ出して、聖霊を復活させたのだろうか。



翔五:「瑞穂は「聖霊」と一体になる事で、不死身の身体と、チートな能力を手にいれる事が出来る。」


翔五:「一方で「聖霊」はプログラム。「聖霊」が、実際にこの世界に力を及ぼす為には、人間という出力装置が必要。「聖霊」も瑞穂が必要だった。」


翔五:「最初に瑞穂がそう望んだのか、「聖霊」が望んだのかは分からないけど、結果的に、二人は一つになった。」



瑞穂:「どっちが、主体的だったのかは、つまり貴方に掛かっているわ。」

瑞穂:「翔五、貴方は一体、何者なの? どうして私は、貴方の傍に居るの?」


翔五:「僕には、記憶が無いんだ。」

翔五:「何千回も「転生」を繰り返す内に、歴史も少しずつ変わってしまった。元々、僕たちが、どうして一緒にいたのかは、もう覚えていない。」


翔五:「でも、僕は、「神の戦争」を止めようとしていた。 その時に、オリジナルの、人間だった瑞穂達が「聖霊」になったって、…聞いた。」


瑞穂は、目を閉じて、俯いて、それから、…微笑んだ。



瑞穂:「やっぱり、…そう。」


瑞穂:「つまり、この気持ちは、オリジナルの人間だった時から、人間として貴方と一緒に居た時から、ずっと引き継がれている記憶って、つまり、…そういう事よね。」



瑞穂:「翔五、私は、貴方の事が好きよ。」


瑞穂:「恋愛なのか、仲間としてなのか、ただ単に人間的になのか、其処ん所は良く分からないけど。 私は、貴方と一緒に居たい。 貴方を信じていたい。 貴方の力になりたい。」


瑞穂:「この気持ちは、貴方に出会う、…そのずっと前から持ち続けていた、不思議な感情だった。」


瑞穂:「私には、やらなきゃならない事がある。 きっと「前世」からの宿題がある。 そんな感情が、意味も分からず、絶対的に、私の心を支配し続けてきた。」


瑞穂:「だから、貴方からメールをもらった時に、直ぐに分かったの。」

瑞穂:「貴方が、私の探していたモノだって。」


今一度、瑞穂が頬を染めて、僕の事を、じっと、…見詰める。



瑞穂:「私には、貴方と一緒に戦う、理由がある。」

瑞穂:「だから、望んで「聖霊」になる事を受け入れた。 きっと、そう。」


瑞穂:「きっと、芽衣も同じ。 だから、…大丈夫。」


僕も、そうある事を、願っている。 望んでいる。

そうでも無ければ、人間である事を諦めた少女達が、…浮かばれ無い。



瑞穂:「それよりも、アンタ、仮に「呪文」をメルカバーに引き渡せたとして、それからどうするつもりなの? メルカバーは、アンタが「呪文」を持ってると思ってるんでしょ。 引き続き、メルカバーに襲われて、それで「転生」も出来なくなってたら、アンタ、一巻の終わりよ。」



翔五:「やっぱり、姉チンは、誤魔化せないな、」

瑞穂:「茶化さないで、」


照れ隠しだろうか? 途端に語調が変わって、


瑞穂はツンツンと僕の事を睨みつけ、…

僕は以前と同じに苦笑いする。



翔五:「瑞穂、お前、言ったよな。」

翔五:「どういう状態が、僕にとっての「勝ち」の状態か、…って。」


翔五:「僕は、世界を、先に進めたいんだ。」

翔五:「この世界を何時迄も「転生」の繰り返しの中に閉じ込めて置きたく無い。」


翔五:「それが出来れば、僕の勝ちだ。」


僕は、まるで達観を装って嗤い、



翔五:「人間、いつかは、死ぬんだ。」

翔五:「僕は、多分3000年以上生きた。 もう、十分だよ。」


瑞穂は、不満そうに、下唇を突き出して、しかめっ面をした。



瑞穂:「アンタ、やっぱり、…馬鹿ね。」

瑞穂:「私が、絶対にそんな事させないに、…決まってるでしょう。」


こんな、瑞穂を見るのも、…

初めてかも知れない。








約束の日、日没10分前


ノルマンディー地方・南部、広大な牧草地帯の一画に、不自然に佇む要塞の様な屋敷。 その長い塀の見晴し台から、遥か彼方、海岸線の際に、有名なモン・サン・ミッシェルが、陽炎の様に、霞んで見える。



朋花:「知ってる? モン・サン・ミッシェルの近くのレストランで食べれるフワフワ・オムレツって、凄く美味しいんだって。」


瑞穂:「あの、半生みたいな奴の事? …私は嫌い。」

朋花:「これ、終わったら、皆で食べに行かない。」


瑞穂は、屋敷の塀に沿ってゾロゾロと押し寄せて来る、

生気の失せた人間達の群れを見下ろして、軽く溜息を、…吐く。



瑞穂:「私は、食べないわよ。」


まるで映画で見たゾンビの様に、

エクトプラズムを吸い取られて、正気を失った人間達、「聖霊」達に憑依された人間達の群れが、


幾重にも、屋敷の塀を取り囲む。


更に、未だ、遥か遠くから、何十人、何百人の行列が、

まるで蜜を嗅ぎ付けた蟻の様にゾロゾロと、何Kmもの道のりを、歩き、押し寄せる。



朋花:「これ、みんな、翔五クンを狙って来たのかな。」

瑞穂:「そうじゃない。 だと思うよ。」


朋花:「人気者だね。」


やがて、太陽が水平線に隠れて、辺りに、朧げな陽炎が、沈殿し始めると、…

ぽつぽつと、様々な宿主達の「想い」と重なって、様々な形の「聖霊」達が、…


黄昏の荒野に、出現し始める。


あるモノは、コウモリの羽根を持ったガーゴイルの様に、闇を舞い。

あるモノは魑魅魍魎の類いの如くに、地の下を這いずる。



朋花:「まるで、妖怪大戦争だね〜。」

瑞穂:「アンタ、言ってて、自分で悲しくならないの?」


暮れ泥(なず)むフランスの片田舎に、百鬼夜行が続く。



朋花:「一体、何人居るんだぁ?」

瑞穂:「さあね、ざっと数百人、って処かな?」


やがて、殺気の様な静電気が、一瞬で辺りの空気を沈黙させる!



アリア:「1080人よ。」


一人の少女が、何時の間にか、塔の天辺に出現していた。


腰迄かかる長くて豊かなウェイブ、

まるで造り物の様に一点の欠陥も無い白い肌、

この手に抱きしめれば壊れてしまいそうな華奢で中性的な肢体、

薄暗闇の中で、星を集積する夜光虫の様に、…おぼろげに光を放つ。



瑞穂:「なるほど、…「聖霊」のゲマトリアね、」

朋花:「ワザワザ、5人相手に、御大層な事を、…」 (一人当たり、216人、…)







イアン:「さてと、約束の時間だよ、」


歳背格好は14歳位だろうか。 


綺麗な髪、まるで大瑠璃揚羽オオルリアゲハの鱗粉の様な、澄み切った碧空色チェレステ、シーズーみたいな長い前髪の隙間からキラキラした大きな瞳が見え隠れしている。 端正な顔の造形、中性的でスレンダーな背格好。


まるで、生まれたての揚羽蝶アゲハチョウみたいで、もしかすると、女の子よりも可愛い男の娘が、…

夜が零れ始めた空の上から、…


じっと、アリア達の事を、見下ろしている。



瑞穂:「本当! 噂通り、時間に几帳面ね。」

朋花:「良い? まずは、私達を、倒してからにしてもらうわよ!」


イアン:「良いよ。 彼に必要なのは、絶対的な絶望だからね。」

イアン:「変わり果てた君達の姿は、とても良い手向けになると思うんだ。」


4体のメルカバーが、彼らの星座に倣って、東西南北の空中に配座する、


彼らの背中には、星を集積する夜光虫の様に、…おぼろげに輝きを放つ、陽炎の様な、…それぞれ3対6枚の翼が出現していた。



空気の振動:「「…ヴン!…」」


三半規管を不快に揺らす周波数と、鼻につくオゾン臭を撒き散らして!


アリアの放った非常識な静電気嵐が…

半径500mの領域を、…


吹きすさぶ!!



雷鳴:「「「…ピシャーーン…!!」」」



一瞬の後、空気の裂ける轟音と共に、…

数百の「聖霊」の尸童よりまし(注、憑依された人間)達が、…


焼け焦げ、飛び爆ぜた!!



アリア:「翔五には、指一本触れさせない!」


プラズマの残像に紛れ!


一気に!

アリアが、イアン目掛けて!!


特攻を、…


仕掛ける!!!

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