エピソード47 「そして僕と美少女はオネエを誑かす」
太った男:「調子どう?」
翔五:「えっ?」
凱旋門の
突然、知らない人が話しかけて来た。
太った男:「18番の青山さん、どう思う? 結構美人だよネ。 何とか話する機会作れないかな。」
見ると、周りには、日本人観光客の集団。 一種、独特の雰囲気。
何だか、胸に番号札を付けた男女が、互いに探りを…入れ合っている??
醤油顔の男:「オタクら、そんな処で男同士ダベってないで、どんどん積極的に女子に話しかけないと、今日で最終日だよ。」
太った男:「そういうアンタは、上手く行ってんの?」
醤油顔の男:「俺? 俺はもう、メアドも交換したし。 取り敢えず3人キープかな。 まっ、成田から一人寂しく直帰って事にはナン無いっしょ。」
つまりこれは、
周りを見回すと、20人対20人位だろうか、地味な子から、派手な子まで、色々。
へぇ〜、結構可愛い子も参加するんだ、…と感心したりする。
一方、男の方は、結構、残念な面々、、、
太った男:「因みにアンタ、何番狙い?」
醤油顔の男:「良いじゃんヨ、誰でも、今晩のエッフェル・告白タイムのお楽しみって奴だよ。」
太った男:「教えてよ。
確かに、この太ったヒト、見るからにショぼい、と言うか…卑屈っぽさが滲み出ている。。。 僕も、ヒトの事、言えないけど。
ケバい女子:「瀬戸く〜ん、一緒に写真撮っても、良いかも?」
醤油顔の男:「ああ、良いっすよ、撮りましょう。」
彼、瀬戸君って、言うんだ。
ケバい女子:「チョットアンタら、邪魔だから
ケバい女子:「アンタみたいなミットモナイ日本人がフレームに入ると、折角のパリの雰囲気、台無しなんですけど。 解んないかなあ?」
瀬戸君、苦笑い、
翔五:「僕、此処で、ヒトと待ち合わせしてて、」
ケバい女子:「此処のフリータイム25分しかないの。 ソレで一体、何分、アンタこの景色独り占めしてる訳? 一寸は常識とか考えた事有るの?」
何で、この子、こんなに高圧的な訳??
太った男:「ああ言うのはパスだな、向こう行きましょう。」
翔五:「いや、僕は、違うから、…」
何故だか、僕は、卑屈だけど多分同類には人懐っこい太った男に引っ張られて、凱旋門の正面、シャンゼリゼ大通り側へ移動、、、
太った男:「多少ブスでも良いから、性格の優しい子が良いよね。そう思わない。」
小柄な痩せ男:「君ら、
小柄な痩せ男:「高い金出してワザワザこんな処まで来てんだぜ、手堅い勝負してて、どうすんだよ。」
小柄な痩せ男:「まあ、流石に君らレベルまで「見た目」落ちると、結構キツイモンあるかもな、でも、このツアーに申し込む位だから、ソレなりに金は持ってんだろ?」
太った男、キョトン顔。
小柄な痩せ男:「知ってたか、このツアー料金、8割は男が払ってんだぜ。」
太った男:「道理で!チョット高いと思った。」
小柄な痩せ男:「一方で、女の方は、参加するのに3次審査迄有る訳よ。 ルックス、学歴、家柄、素行、健康診断で選抜されて、勝ち残ったモンだけが参加出来る。 何でだと思う。」
太った男:「さあ?」
小柄な痩せ男:「つまり、女達は、金持ちゲットしに来てんだよ。」
成る程、、、そういうツアーなんだ。
小柄な痩せ男:「ウチ、一応自営の医者だし、あんま妥協はしたくない訳よ。 この前も
太った男:「ウチは、普通の会社経営だな、多分僕が継ぐ事に成ると思うけど。」
小柄な痩せ男:「アンタは?」
二人の視線が、より一層貧相な僕に、突き刺さる。
翔五:「いや、だから、僕は違うって、関係ないって。ほら、番号札も無いし。」
太った男:「ええっ? 君、もしかしてツアーの参加者じゃ無いの?」
小柄な痩せ男:「お前、不細工な面して、混じって
翔五:「そっちが勝手に絡んできたんじゃないか。」
小柄な男、ジロジロと僕の事を値踏みして、
小柄な痩せ男:「確かに、見るからに
ちらりと見ると、柱の影から、万里がコッチを見て、…ニヤニヤ笑っている。
あいつ、何時の間に!?
翔五:「僕、連れが来たから、…もう行きます。」
僕は、逃げる様に、婚活フリー・バトル・フィールドから抜け出して、
翔五:「て、言うか、何で隠れて見てんだよ!」
万里:「いや、何だか面白かったからナ。」
と、地下通路への階段の傍に、黒山の
中心に居るのは、モデル体型のアイドル顔、
明らかに、…朋花。
醤油顔:「君、何番?」
ムサイ男:「君、凄く可愛いねぇ。」
暑苦しい男:「俺、代官山でブティックやってんだけど、ウチで働いてみない?」
朋花:「何? ナニ、なに?? …分かんない!」
翔五:「こうして見ると、皆、必死なんだな。」
万里:「ああ、生きた
朋花:「ちょっと、翔五クン、…何処行ったのー?」
朋花、何だか必死にキョドッてる?
男ども、勝手に写メを撮りまくり、
ムサイ男:「なぬ、ショーゴとな、ドイツだそいつは!」
暑苦しい男:「俺なら月40万出すよ。 絶対悪い様にしないって!」
醤油顔:「これ、僕の名刺、年収と、メアドも書いてあるから、連絡して!」
朋花:「要りません、もう、…間に合ってますから!」
万里:「早く、救助に行ってやれよ。」
翔五:「イヤ、何だか、色々、…怖い、と言うか、…切ない。」
朋花:「翔五ってば〜! 何処ー!」
朋花、何だか半泣き?
男ども、更に写メ、撮りまくり、
〜仕切り直し〜
僕達は、漸く、無事合流して、シャンゼリゼ通りにあるカフェへ、
朋花:「この人が?」
翔五:「ああ、裏切り者の濱平万里さんだ。」
万里:「一言、多いんだよ。」
やがて、
万里には1664(クローネンベルグ)、
僕にはエスプレッソ、
朋花にはエスプレッソ・ダブルが、運ばれて来る。
万里:「ナニ真っ昼間っからコーヒーなんか飲んでんだ?」
翔五/朋花:「イヤ、アルコールは、当分、見たく、…無い。」
僕は、朋花の酒癖の悪さを、昨日の夜、一晩で、すっかり、…思い出していた。
そうして二人が、モロモロ大切なモノを失ってしまった顛末については、又、…別の機会に、、
翔五:「それで、「山猫」を
万里:「ああ、チョロチョロされると邪魔だからな。」
翔五:「酷い奴だな。 それで一体、何人死んだと思ってるんだ?」
万里:「俺は一言も「人殺しをしろ」なんて言ってないぜ。」
万里:「良識の無いのは「山猫」の問題だろ。」
翔五:「まあ、それでも、今は、イカレタお前に頼るしか無いんだけどな。」
万里:「まあ、
朋花:「何をするつもりなの?」
朋花は、さっき婚活ツアーのメンズ達から受け取った名刺の束を、一枚一枚、手品の様に、空中で燃やして消滅させながら、詰まらなさそうに、訪ねる。
翔五:「僕の持っている「呪文」を、…メルカバーに移すんだ。」
朋花:「えっ?」
朋花が、鳩が豆鉄砲を喰らった様な、可愛らしい顔で、僕の事を、…睨む。
翔五:「勿論、メルカバーにその事を言うつもりは無いけどね。」
翔五:「でも、それで、メルカバーは不死身だから、」
翔五:「…死んで世界がやり直しになる、って事は、無くなる。」
朋花:「でも、メルカバーに「呪文」を渡したら、メルカバーは「ソレ」を使って「神の戦争」を起こしちゃうんじゃないの?」
僕は、謎解きをする名探偵の様に、…勿体ぶって、
翔五:「
翔五:「僕は、「呪文」を持ってるけど、使い方を知らないんだ。」
翔五:「
朋花:「ふーん、」
朋花、尊敬の眼差し、、いや、呆れた眼差し…とも言う。
翔五:「だから、同じ様に、メルカバーが「呪文」を持ってたとしても、持ってる事を知らなきゃ、それで使い方を知らなきゃ、「神の戦争」は始まらない、…って言う訳。」
朋花:「成る程、って言う程、上手く行くの?」
朋花:「もし、メルカバーが呪文の使い方を知ってたらどうするの?」
朋花は、立て肘に顎を乗せて、眠そうに
そりゃ、昨日の夜、あんなになる迄、スルから、…仕方が無い。
翔五:「其処ら辺も引っ
朋花:「でも、どうやって行く訳?」
翔五:「そこで、この濱平万里さんの出番だ。」
翔五:「一回位は、活躍してもらわないとな。」
万里:「どう言う意味だよ。」
1664の瓶は、あっと言う間に空っぽになっていた。
翔五:「万里やアリアみたいな
翔五:「どう言う
朋花:「じゃあ、どうして、今度は、ワザワザこの人と行く訳?」
何故だか、朋花は、万里と僕がくっ付くのが、…不満らしい。
まあ、万里の所為で、あの高檜山の事件が起きたのだから、解らないでも無い。
翔五:「理由は、幾つか有る。」
翔五:「一つは、万里は既にメルカバーに僕の事を伝えてしまった。」
翔五:「奴等は、何時、襲って来るんだっけ?」
万里:「3日後だ、」
翔五:「万里がもう一寸、慎重に行動していれば、こんな事にはならなかった。」
万里:「
翔五:「と言う訳で、アリアが目覚めるのを、待っている訳には行かない。」
朋花が、「やっぱり裏切りモンじゃん!」と言う、冷たい視線で、万里を睨む。
翔五:「もう一つは、僕達が神様と会って交渉するのに、一体どれ位の時間が掛かるのか解らないって事。」
翔五:「つまり、僕達が眠り続けている間にメルカバーが襲って来たら、朋花サンやアリアには、僕と万里の身体を護ってもらいたい。」
翔五:「万里は「戦闘」にはカラッキシ役に立たないからな。」
万里:「偉そうに、お前だってそうだろ。」
朋花が、「なに仲良さそうに話してんのよ!」と言う、不審の視線で、僕を睨む。
翔五:「それと、アリアは、日が昇っている間は、活動出来ない。」
翔五:「夢の中でも同じなのか解らないけど、神様に会いに行く時に、この事が、どう影響するのかが、解らない。」
翔五:「もしも、夢の中で半日活動不能に陥ったら、それだけで随分なタイムロスになってしまう。」
万里:「
万里:「そんな事も、覚えてねえんだろうな。」
翔五:「そうなの?」
今度は、僕が、キョトン顔。
万里:「ああ、お前と「お嬢」は、コレ迄に何度かメルカバーに捕まっている。」
万里:「それなのに、今お前がこうして、此処に居られるのは、何故だと思う?」
確かに、言われてみれば、
万里:「「お嬢」は、捕まって、
万里:「トランプの七並べで言う所の「パス」って、奴だ。」
万里:「メルカバーは、「納得する対価」を差し出せば、取引に応じる。」
万里:「奴等に取っちゃ時間は永遠だし、力は無限だし、一寸くらい、「待った」に応じるのは、何とも思わないって訳だ。」
万里:「つまり、有段者の棋士が、子供と将棋打ってるミタイなモンなんだろう。」
万里:「まあ、その代わりに「お嬢」が失った物は、」
万里:「「太陽が出ている間の活動」と「決められた人間以外との接触」だ、」
万里:「今じゃ「お嬢」が接触出来るのは、日か暮れた時間の「俺」と「翔五」と、「室戸」って言うボディガードの3人だけだ。」
翔五:「でも、瑞穂達とは、…」
万里:「あいつらは、…人間じゃ無いからな。」
万里:「つまり、時々はメルカバーもポカミスを犯すって訳だ。」
万里:「付け入る隙が、無い訳じゃない。」
万里:「「お嬢」に掛けられた二つの「呪い」は、お前が何回転生を続けても継続している。 多分「お嬢」自身が、転生後も記憶を持ち続けている事と関係があると思うが、だから、翔五の読みは案外正しい。」
翔五:「まあ、と言う訳で、今回は万里に協力してもらう。」
朋花:「本当に、信用出来るの? この前はあっさり裏切ったんでしょ?」
朋花は、もう一度、苦虫を噛み潰した様な複雑な表情で僕を睨む。
そんな、朋花の顔も、…やっぱり、可愛い。
万里:「別に、俺が頼んでる訳じゃない。 好きにすれば良いさ。」
翔五:「僕は、万里を信じる。」
翔五:「理由は、この作戦には、万里以外に頼れる奴が、居ないからだ。」
朋花は、仕方無さそうに、溜息を吐いて、
万里:「なんか、消去法的な発想だな。」
翔五:「まあな。」
実際には、もう一つ、…理由がある。
でもそして、その事は、どうしても、アリアに知られる訳には、行かない。
翔五:「ソレよりも、先ずは、」
翔五:「「山猫」に会いたい。 奴は、何処にいるんだ?」
万里:「そうだと、思ったよ。」
万里:「だから、…此処から歩いて 直ぐの処だ。」
万里は、二本目の1664を、一気に飲み干した。
翔五:「こんな、パリのど真ん中に住んでいるのか。」
アパートのブザーに、意外にも、あっさりと「彼」は応じた。
206と書かれた部屋のドアをノックする。
山猫:「開いてるわ。」
現れたのは、背の高くてほっそりとした、所謂、…「おねえ」的な方、だった。
髭を隠しきれてない、濃い化粧が、…痛い。
山猫:「
山猫:「そんなのは、ウチに入れないで。」
山猫は不遜にも、朋花を指差して、
翔五:「朋花サン、外で、一寸だけ、待ってて、もらえますか。」
朋花:「大丈夫?」
翔五:「もし、20分で出て来なかったら、」
翔五:「このアパートごと、全部、消炭にしちゃって下さい。」
朋花:「本当にそんな事して、良いの?」
朋花は、僕の本気が、何処迄なのかを、不安がる。
でも絶対に、僕の言う事に、彼女が逆らう事は、…無い。
山猫:「私だって、そんな長い話なんか、したく無いわよ。」
山猫:「入って、」
キャラ設定通りの、ピンク一色な、部屋だった。
山猫:「初めまして、…
自宅に大家以外の人間を招くのは、貴方達が初めてだわ。」
翔五:「
普通、悪の組織のアジトって、もっと隠れた山里とかじゃないの?」
山猫:「
山猫:「何か飲む?」
翔五:「コーヒー。」
山猫:「面倒臭いわね、栓抜けば飲める奴にしときなさいよ。」
翔五:「さてと、まず、瑞穂達は返してもらうぞ。」
山猫:「どうせ、私に拒否権なんて無いんでしょ、勝手に持って行きなさいよ。」
翔五:「「聖霊」を掴まえて、どうするつもりだったんだ?」
山猫:「アンタに関係ないでしょ。」
翔五:「僕の「聖霊」だ、多いに関係あるだろ。」
山猫:「「人間」が「聖霊」の力に対抗出来る「武器」を開発する為よ。」
翔五:「どうやったら、そんな事出来るんだ?」
山猫:「アンタ、そんな事聞きに来たの?」
山猫:「あっと言う間に20分経っちゃうわよ。」
山猫:「私は、黒焦げなんて、ゴメンなんですけど。」
翔五:「お前に頼みが有る。…僕は「前世」で、エインヘリャルとか言われている少年を見た。」
万里が、ビクリと、…震える。
山猫:「カイトの事?悪いけど、もう無理よ、あの子は既に改造済み、今更、元には戻せないわ。」
翔五:「そうじゃない、その「カイト」って少年は、確か、腕の中から、武器が出て来た。 こう、腕が、パカっと裂けて、中から「トルコ石の蛇」とか言う、宝石みたいな物が飛び出したんだ。」
山猫:「あんた、色々知ってるのね。 …でも、現実には、「トルコ石の蛇」は、まだ発見されていないわ。 手に入れようったって無理よ。」
翔五:「違うんだ。…あの仕掛けを、僕の腕にも、仕込んで欲しいんだ。」
山猫:「どう言う事?」
翔五:「3日後にメルカバーが僕を拉致しに、此処へやって来る。」
山猫:「馬鹿じゃないの、喧嘩なら、どっか広いトコ行ってやってよね。」
翔五:「て言うか、今度こそ手詰まり、奴等に力で勝てない事は、前回分った。」
翔五:「今度掴まれば、世界を滅ぼす自信が、僕にはある。」
山猫:「やな自信ね、」
山猫:「つまり、これは脅迫してる訳ね?」
山猫:「それで、どうして欲しいの?」
翔五:「奴等は、僕の事を取るに足らない「人間」だと思って油断している。」
翔五:「前回戦ったときもそうだった。 奴等は、直ぐ手の届く距離迄、何の警戒もせずに近づいて来る。 て言うか、警戒する必要がないからな。」
翔五:「その時に、「トリアーナ」で、奴等を卵にする。」
翔五:「つまり、トリアーナを、僕の腕の中に、仕込んで欲しいんだ。」
山猫:「あんた、3つ位、先に知っておいた方が良いわね。」
山猫:「一つ、トリアーナは、アンタの腕の中に隠せる程小さく無いわよ。」
山猫:「二つ、腕の中に武器を隠すアイデアは有るけれど、まだ完成してないわ。 多分、出来るけど、アンタの腕は、二度と使い物にならなくなるわよ。」
翔五:「三つ目は?」
山猫:「位って言ったじゃない。細かい男はモテないわよ。」
万里:「三つ目は、トリアーナはメルカバーには効かない。」
万里が、冷めた目で、僕の事を見詰める。
万里:「奴等は、全ての聖霊を塩に変える「トルコ石の蛇」の光を浴びても、モノの3分もしない内に、無の状態から復活した。」
山猫:「アンタも、見たの? その、メルカバーとか言うの。」
万里:「ああ、山猫、俺からも、お前に伝えておかないとイケナイ事が有る。 奴等「天使」には、「聖霊殺しの武器」は、通用しない。」
山猫:「ふーん、面白いわね、」
山猫:「でも、一旦は、消滅したのね。」
翔五:「ああ、ダメージを与える事は出来ても存在を消す事は出来ない、と言っていた。」
山猫:「じゃあ、やっぱり無理じゃない。」
翔五:「良いんだ、一瞬だけでも、奴等を行動不能に出来れば、それで良いんだ。」
翔五:「これは、僕のけじめだ。 前回、奴等に、一太刀も浴びせられなかった、僕に対する「通過儀礼」だ。 あの時よりも、前進してるって、確信したい。」
山猫:「それでどうするの。結局は捕まって、それで世界を滅ぼしちゃう訳?」
翔五:「それは、させない。 だから、自爆装置を仕込んで欲しい。」
翔五:「前回、瑞穂に言って、僕の身体に生物兵器だか化学兵器だかを仕込んだのは、お前の仕業だろう。」
山猫:「悪いけど、そんな
山猫:「でも、アンタに自爆装置を仕込むのは悪く無いアイデアね。」
山猫:「アンタは、人類にとっての「リセットボタン」ミタイな物なのよ。 追いつめられた時に、安全地帯まで瞬間移動で避難する為の、脱出装置なのよね。」
万里が、俯いて、唇を噛む。
翔五:「上手く行けば、メルカバーに対するトリアーナの効果を「来世」でレポートしてやるよ。」
山猫:「確かに、そのデータは貴重だわ。」
山猫:「解った、一口乗ったわ。」
山猫:「トリアーナの取り寄せに一日、改造手術の準備に一日、明後日の朝、迎えに行くから、ホテルの場所を教えて頂戴。」
翔五:「ああ、頼む。」
僕と朋花は、万里と別れ、
その足で、フランス北部、ノルマンディーの海岸に近い田舎町にある、山猫の秘密基地を訪ねていた。
朋花は、警察としての残務…と言う訳では無いのかも知れないが、基地の中の書類やら、オスプレイの写真やら、得体の知れないロボットモドキのデータやら、モロモロの証拠集めに奔走している。
彼女が、同僚警官を殺されたあの「虐殺事件」を看過して置けない、その心中は察する。
しかし、山猫が「世界統一政府」の一員として活動しているのだとすると、「高檜山の事件」を表沙汰にする事は、恐らく不可能に違いなかった。
その頃、僕は、巨大な体育館の様な建物の中で、
床に並べられた巨大な5つの水槽を眺めていた。
水槽の中に居るのは、
瑞穂と、芽衣と、涼子、…の残骸。
皮を剥がれ、解剖され、筋肉を外され、骨を分解され、小分けされて、
それでも脳が死なない様に、人工のポンプとチューブで酸素と栄養を送られて、液体の中に吊るされた、元は人間の形をしていた、…肉の塊。
綺麗にバラされて、水槽一杯に拡がった食道と胃と十二指腸と小腸と大腸は、上半分を切り剥がされた頭蓋骨と顎にくっ付いたままで、まるで巨大な生き物の様にゆらゆらと蠢いていて、
肺と肝臓と胆嚢と膵臓と脾臓、ソレに腎臓と膀胱、子宮と卵巣は、比較的人体に近い位置関係のままで、肋骨と脊椎に、固定されていた。
上半分が剥き出しになった脳には、二つの眼球が視神経で結ばれたままで、
もしも今の自分の姿を、見る事が出来ているとしたら、
彼女達は、何を想い、何を、…訴えるだろうか。
僕は、水槽に姿を映す、その幻影に問い掛ける。
翔五:「お前は、本当に実在しているのか?」
アリア:「貴方が望むのなら、私は何処にでも実在するわ。」
腰迄かかる長くて豊かなウェイブ、
まるで造り物の様に一点の欠陥も無い白い肌、
この手に抱きしめれば壊れてしまいそうな華奢で中性的な肢体、
暗闇の中で星を集積する夜光虫の様に、…
翔五:「こいつら、元通りになるかな。」
アリア:「大丈夫よ、「聖霊」は不死身だもの。」
翔五:「ずいぶん、長い間、僕を慰めてくれていたんだ。」
アリア:「そうね。」
翔五:「もう十分だ。 もう十分護ってくれた、尽くしてくれた。」
翔五:「今度は、僕が、この子達を、救いたい。」
翔五:「なあ、抱いてくれないか。」
僕は、振り返りもせずに言い、
アリアが、背中から、そっと、僕を、…抱きしめる。
少女の温もりが、冷えきった僕の緊張を、解き
翔五:「アリア、聖霊って、…子供を産めるのかな?」
僕は、突拍子も無く、そんな風に聞き、
アリア:「貴方が望むのなら、私は、何だって出来るわ。 …世界を滅ぼす事だって、出来る。」
彼女は、何の
アリア:「翔五、貴方はどうしたいの。」
翔五:「僕は…、お前と一緒にいたい。」
翔五:「最後の刻が来る迄、僕はお前と一緒にいたい。」
彼女は、…慈しむ様に、優しく、僕に触れて、
アリア:「翔五、…私に、貴方の「命の記憶」を、頂戴。」
僕は、…愛しい者達の屍骸の群れが見守る、冷たい銀色の手術台の上に、
奇跡の様な美少女を、押し倒す、
僕達は、お互いの、温もりと、匂いを、承認し合い、…
吐息と嗚咽の、入り交じる、甘美な、呪文の詠唱を、繰り返し、…
やがて、命を練成する為の、術式へと、…
到達する。
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