第4話 世界五分前仮説(2/3)

 帰宅後、テレビを付けて例の現象について報道していないかを確認してみる。が、目ぼしい事件は起こっておらず、普段通りの番組内容だった。

 やはり、大野が言った通り、世界の終わりを認識しているのは俺達だけなのかもしれない。

 ついでに、世界五分前仮説についても軽く調べてみた。特にめぼしい記事はなく、思考実験の面白さや世界五分前仮説に対しての討論を語る記事しか見つけられなかった。

「過去の知識とはいったい何なのか……か」

 ネット場に書いてある一文を読んでみる。

 覚えていたという状態で突然世界が生まれたという仮説であり、過去の記録や記憶、出来事では、物事の完全な証明は出来ないといった考え方らしい。

 極端に解釈すれば、過去というものは、何の意味も無いものであるといった考えだ。

「……」

 俺が今こうして世界の終わりについて調べていることは、意味がある行為なのか?

 結果として誰か困っているかと言ったら、誰も困っていない。誰も死んでいないし、俺や大野の寝覚めが悪いだけだ。カオル達なんか気付いてすらいない。

 なら、別に俺が何かしなくても……

「……何考えているんだ俺は」

 俺はネガティブな考えを止める。このまま何もしないことを選んだら、大野のようになってしまう。

 自暴自棄になって、あの世界で殺人鬼になってしまうかもしれない。殺すだけじゃなく、いたぶったり、犯したり、本当に狂ってしまうのではないだろうか。

 誰も咎める奴なんか、あの世界には居ないのだから……

「……いかんいかん」

 俺は首を横に振るい、良からぬ考えを振り払う。

 これ以上考えるのは、止めておこう。

 気を取り直して、俺は最寄りの交番に連絡してみる。決して冷やかし目的ではなく、今日の出来事を確認したいのだ。電話が繋がると、電話の向こうから元気の良い若い婦警さんの声が聞こえてくる。

「はい! こちら、狭間公園前です!」

「あ、あの……」

 もっと年輩の人が出ると思っていたが、年齢の近そうな若い婦警さんが電話に出てきて、少しドギマギしてしまう。とりあえず、自分の名前を告げる。

「それで……お聞きしたいことがあるんですけど……」

「はい! 何でもお答えしますよ!」

「あの……今日、事件とかありませんでした?」

「事件ですか?」

「例えば、その……空が赤くなったりとか」

 婦警さんはしばらく悩んだ後、夕暮れの話がどうとか、最近不審者が出るから気を付けてとか、関係のない話をしてくる。

 特に世界を震撼させる大きな事件はなかったと言ってくる訳だった。やはり、警察も世界の終わりなんて言う現実離れした事件なんか管轄外だろうな。

「……わかりました。ありがとうございます」

 お礼を言って電話を切る。

 やはり、公的機関は当てに出来そうにない。

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