第3話 マルチ制作研究部(4/4)
そうこうしていると、部屋のドアが開く。
「あ、大野先輩! おつかれでーす!」
「……え」
カオルが挨拶をし、その聞き覚えのある名前に、俺は固まった。
「……」
ドアの前では長身眼鏡男が無言で立っていた。コイツの姿を見るのは、これで三回目になるだろう。
「……お客さん?」
優しい声色でゆっくり近づいて来る。
「大野ヒロユキ……」
俺は小声で、コイツの名前を呼ぶ。コイツ自身に呼び掛けたのではない。自分自身にコイツのことを思い出させる為に言ったのだ。
俺は心の中で身構える。コイツが現れた時は、だいたい良いことは起こらなかった。そんな俺の気持ちも知らずにカオルは話しを続ける。
「トモミ先輩と一緒じゃないんですか?」
「ああ……今日も風邪を引いたから……早退だって」
大野は俺を横目で見ながら擦れ違って行き、そのまま小倉が居る暗幕の方へ向かって行く。
「おい!」
何事もなかったかのように俺を無視していく大野を止めた。
「……」
無言でこっちを見る大野。睨みながら俺は続けた。
「話がある。空が赤くなって世界がおかしくなった時のことと、アンタがその時やっていたことについてだ」
コイツは何か知っている。
俺はこの時、知りたいという好奇心にかられ周りが見えてなかったが、せっかく作った和やかなムードを自分から壊してしまったのであろうと後々になって気づいた。この時のカオルと小倉はどんな顔をしていたのだろう。
「……外で話そうか」
大野は表情を変えることなく、荷物を置いて出入り口のドアへと向かっていく。
俺もその後に続いた。
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