第3話 マルチ制作研究部(2/4)

「はい! これカツヤ君の分ね!」

 カオルは持っていた飲料水を俺に手渡す。

「あ、ああ……ありがとう」

 素直に受け取り、ボトルキャップを開けて口を付ける。金を渡そうとしたら、奢ってあげると断られた。

「これは、マキマキの分ね! 置いておくよ、マキマキ!」

 カオルは、ちびっ子の座っていた机に飲料水を置く。ちびっ子はその机の下に隠れ、震えていた。

「し、ししし、し、しし知らない人怖い知らない人怖い知らない人怖い……」

 小声で、何かブツブツ言っているが、そっとしておこう。

 俺は、カオルに目を向け、

「アイツは、何者なんだ?」

 と、ちびっ子を指して聞いてみる。

「え?ああ! 紹介するね! この子の名前は、小倉マキって言うんだ。私達の一つ下の学年の子だよ」

 ちびっ子改め小倉マキは、見た目通り後輩だったようだ。

 それにしても背が低過ぎる……

「結構人見知りが激しいから、優しくしてあげてね」

「今さっきコイツに殴られたんだが」

「あはは、照れてるんだよ!」

 お前は照れて人を殴るのか。

「でも、マキマキはこう見えてもプログラムのソフトやハード面で凄い才能があるんだよ。このサークルではプログラム担当なんだけど、この前私の目覚まし時計を直してもらったしさ、本当に器用なのだよ!」

 そう言いながら俺が座るソファーにカオルも腰掛け、さっきまで抱えていた荷物を目の前の机に置いた。

「まあ、ゆっくりしていってよ。あ! そうだった!」

 カオルは、何処からともなく一枚の用紙を取り出す。

「じゃーん! 入部申請書~!」

 入部申請書と書かれた用紙を掲げる。

「我が部は、猫の手も借りたい程人手不足なんだよ! スキルとか問わないから良い人材を探してきてって部長に言われてたんだよね!」

 カオルに差し出された申請書を受け取る。

「特に若い男に飢えてましてねぇ! 男性への理解が皆不足しているんだよ! 我が部に入って是非カツヤ君のあられもない姿を部員の皆に見せつけてあげて! 男の身体の神秘を教えて上げて! きゃー! これで私もカツヤ君の裸を合法的に見放題だね!」

 俺は、受け取った申請書を破る。

「うわあああああああ! 酷いよおおおお!」

「誰がそんな部活に入るか!」

「ええええ! 入部するんじゃなかったの?」

「入らんわ!」

 こうして、大野が来るまで、しばらく待機することになった。



 十分ほど経ち、俺は緊張と暇の板挟みに合いながら待ち続けた。

「暇なら、これで遊んでて良いよ」

 暇を持て余している俺に気を使ったカオルは、テレビゲームを持ち出してくれた。この部室にはテレビが備わっており、アンテナを調整すれば画質はともかく、テレビ番組も見られる。今時アンテナって……

 やることのない俺は、ゲームで緊張を解しつつ暇を潰すことにした。

 俺とカオルは同じソファーに座り、小倉は元居た場所で暗幕を閉じ、パソコンをイジり始める。小倉は俺が気になるのか、時々暗幕の隙間からこちらの様子を伺い、俺と目が合う度に慌てて暗幕を締め直すことを繰り返していた。

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