第2話 夢を見た夢を見て(4/5)

 俺達は、全力で走り回る。

 至る所で人が人を食らい、そしてゾンビは増えていく。

「カツヤ君! これからどうするの!」

 走りながら、カオルは尋ねてくる。

「分からん! とにかく走れ!」 

 正直どうしようもなく、適当な答えを返してやるしか出来ない。

 このままじゃ、また死んじまう。一生懸命考えを巡らせるが、良い答えが出て来ない。

 どうする?

 どうすれば……

「イ、イヤ! 離して!」

 突然、カオルが叫び出す。すぐさま俺は後ろを振り返る。一緒に走っていたカオルの髪をゾンビが掴んでいたのだ。

「てめぇ! カオルから放れろ!」

 俺はゾンビに、振り向きざまに蹴りを入れる。しかし、異様にしつこくゾンビは放してくれない。

 カオルを放すまで、何度でも蹴り続けたが、それでもゾンビは痛みを感じていないのか放す素振りを見せない。

「カツヤ君、逃げて!」

 カオルは叫び、俺の手を振り払う。そのままカオルは腕をゾンビに噛まれてしまう。

「うっ……」

「何やってんだカオル!」

 俺はそれでも、手を掴もうと腕を伸ばす。

「お願い! 早く逃げて!」

「ふざけんな! そんなこと出来る訳――」

 俺はカオルを助けに行こうとする、が――

「……ッ!」

 不意に肩に何か固い物が突き立てられ、荒々しい鼻息が首もとを伝う。

 徐々にその感触は痛みへと変貌していく。

「う……うわあああああああ!」

「いやああああ! カツヤ君!」

 カオルに気を取られている隙に背後を取られ、違うゾンビに肩を噛まれた。一生懸命引き離そうとするが、突き立つ歯から逃れることが出来ない。

 歯はギシギシと俺の肩に食い込んでいき……

「……!」

 皮膚に張り巡らされた神経を切断していく。

 人を食う人。

 血溜まりが広がる地面。

 この現状を言い表すなら、地獄の他にないだろう。

 冷静になっていく。例え後ろで俺の肩に噛み付いている馬鹿を解いたところで、どうすると言うんだ?生きられる見込みなんて全くないじゃないか。

 なら、このまま意識を失ってしまった方が……

「……」

 ふと、頭がぼーっとする。

 血が吹き出す音が耳元から聞こえる。

 ゾンビ野郎の顔も俺から離れ、瑞々しい何かをクチャクチャと噛みしめている音が聞こえてくる。

「あ……」

 足に力が入らず、重力に逆らえないまま地面に倒れ込む。

 赤い空。

 そして、黒い雲。

 力が抜け意識が遠退いていく。

 その時、一瞬だけ見えたものがある。

「あれ……は」

 建物の屋上付近にまた講義中に世界の終わりとか言っていた、例のポニーテールのあの子が立っていた。またアイツは、あんな所で何をやっているんだ?

 俺の周りにゾンビが集り始める。

 ゾンビ達は白目を向き、俺を見下ろしてくる。

 せめて、痛い思いはしたくない。

 そう心から願った。

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