第2話 夢を見た夢を見て

第2話 夢を見た夢を見て(1/5)

 今更ながら自己紹介をさせてもらう。

 俺の名前は松本まつもとカツヤ、理数系の大学に通っている二年生である。

 現在、午前中の講義が終わり大学の食堂で昼食を摂っているところだ。食堂の壁はガラス張りになっており、外の景色を眺めながら食事を摂ることが出来る場所になっている。

 今は六月だというのに外が暑く、壁際の席から少し離れた所で、俺と幼馴染みのカオルは食事をするようになった。

 俺達の通うこの大学は、東京と思えない程山奥にあり、理数系とは名ばかりに体育会系のサークル活動にも力を注いでいる、微妙に方向性が定まっていない大学である。

 田舎から上京して来たというのに、こんな木々が生い茂る大学に合格してしまったのが運の尽き、これじゃあ実家の環境と何等変わらない。

 その象徴と言うべき存在の一つが、さっそく外で歩いているのが見える。ガラスの向こう側で、馬がグラウンドを闊歩しているのだ。何で東京に馬が居るんだ? まあ、別に馬が居ることに対しては、何処かの学科で使う生きた教材かもしれないので良しとしよう。だが、ガラス越しだというのに馬糞の臭いが漂ってくるのだけは、勘弁して欲しいものだ。騎手と思わしき女性は美人でスタイルが良いのは怪しからん。そこだけは許そう。

 他にもこの大学に言いたいことはまだまだある。

 こういった衛生面を気に掛けてほしいのだが、この大学はデジタル化なんてことに力を入れ、学生証にICチップを埋め込み、教室のドアにカードリーダーを取り付けたり、電子パネルを沢山取り付けたりと、俺達学生の学費をどうでもいいことに消費しているのだ。

 俺が言いたいことはまだまだあるのだが、ここはひとまず置いておこう。

 俺も偉そうなことを言える程の人格者ではない。

 一人暮らしを始め、

 大学デビューで茶髪となり、

 タバコも吸い、

 賭け麻雀とパチンコでバイト代を全て飛ばし、

 勉強もろくにせず、

 暇を持て余すようにレンタルした映画を見て、

 休日は惰眠を貪っていく、

 そんな、堕落しそうな日常を送っている俺だが、欲しいと思う物がある。


 変化だ。


 今の俺は、高校生の時と比べて何が変わったかと問われても、何も変わっていないと答えるだろう。高校生が少し大人の真似しているのが、今の俺なのだ。

 ドキドキやワクワクするような面白い出来事が起こらないかと内心思っており、空から可愛い女の子が落ちて来て漫画のような面白可笑しい展開にならないものかと日々思っている。

 ただ、流れに身を任せている俺を変えてくれるような変化が来ないか、今でも待ち望んでいる。

 そんな毎日を送っていた俺だが、もうすでに環境の変化は起こっていたらしく、俺が過ごしていたはずのありふれた日常は、知らない間に非日常へと変化していたのだ。

 待ち望んでいた変化が、ついにあちらから姿を現した訳だ。

 だが、正直ここまでの変化は求めていなかった……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る