第1話 ようこそ、五秒前の世界へ(3/6)

 外に出ると学内中は、騒然としていた。

「いったいどうなってんだよ!」

 至る所に肉を引き裂いて芽吹いた様な草木の塊が転がっている。

「な、何これ? 何なのこれ!」

 カオルも半泣きで怯える。

 いったいどうなっているんだ?

 さっきまで、何も無い平凡な日常だったはずなのに……

「ね、ねえ! カツヤ君! う、上見て!」

 怯えていたカオルが真上を指さし、釣られて俺も空を見上げる。

「何だよ……これ」

 今現在は昼前……のはずだ。

 だが、俺の目に写る昼の空は、決して青なんていう平和的な色はしていなかった。

 赤だ。

 夕日のような暖か味のある橙色でもなく、血で染まった鮮血の赤い空、そして雲は反転したように黒ずんでいる。

 まるで……ここは地獄だ。

 さっきまで平穏な学生生活を満喫していたのに、何でこんなことになっているんだ?

 これは夢か? これは夢じゃないのか?

「ど、どうしよう……」

 カオルは、俺にすがる様に尋ねてくる。

 どうするって言われても……

「と、とりあえず隠れるぞ! こっちだ!」

 何が起こるか分からない。とりあえず、身を潜めて様子を見ようと思った。



 近くの校舎裏の草陰に隠れた俺達は、息を整える。

「大丈夫か……カオル?」

 俺はカオルの様子を伺うと、息を乱しているが、深呼吸をしつつ頷いてくる。

 しかし、この後どうする?

 突然人間から木が生えて死ぬなんて、どういう原理なんだ?

 あれは新手のテロ攻撃か?

 それとも新種の奇病か?

「ああ、くそ!」

 考えても分からん!

 いったい何が起こってるんだよ!

「カ、カツヤ君……」

 頭を抱えていると、カオルが不安そうな声で話しかけてくる。

「私達も……死んじゃうのかな?」

「……」

 確かにこのままでは死ぬかもしれない。

 だが、このまま何も分からないまま死ぬ何て嫌だ。

「心配するな……俺達は必ず助かる」

 俺は、根拠も何も無い言葉でカオルを励ます。カオルとは腐れ縁の仲だが、それなりに愛着は持っている。カオルまであんな死に方をするなんて想像したくない。

 でも、どうする……どうすれば……

「……とにかく警察に電話しよう」

 混乱する頭の中で俺は、助けを求めることを思い付いた。携帯を取り出し、一一〇番に連絡を取る。だが、いくら待っても電話が繋がる気配がない。

「ちくしょう! 何で出ねぇんだよ!」

 一一九番にも連絡をしてみるが、同じように繋がらない。

 ダメだ、公的機関が動いてくれないと、ますますどうすれば良いのか分からなくなる。助かりたい、助けたいと思うばかりで、良い考えが思い浮かばない。

「あ!」

 俺の様子を見ていたカオルは、いきなり声を上げる。

「な、なんだよ?」

「こ、こういう非常時になったら、連絡して集まってくれってサークルの先輩に言われてるんだった」

 俺は思わず「はぁ?」と呆れた声を上げてしまう。

「アホか! それは地震とか火事とかの話だろ! 今はそれどころの話じゃない! テロとか、戦争とか……とにかく今すぐ逃げなきゃいけない時だろうが!」

 俺は、思わずカオルを怒鳴りつけてしまう。それにカオルは涙目になりながらも言い返してくる。 

「で、でも! 逃げるって言っても何処に!」

「そ、それは……」

 そんな言い争いを続けていると、突如カオルのポケットから変な音楽が流れてくる。

「うわっ! ちゃ、着信? だ、誰?」

 カオルは慌てて携帯電話を取り出す。

大野おおの先輩! サークルの先輩だよ! グッドタイミング!」

 カオルは急いで電話に出る。

 しばらく何かを聞いているように「はい!」と連呼を続けた。

「カオル! 電話なんかしてないで早く逃げるぞ! とにかく大学から出て、助けを――」

 俺が言い終わる前に、カオルは携帯をしまい、こちらを向く。

「先輩が、安全な場所を見つけたから一緒に行こうって! 近くに居るみたいだし」

「安全な場所?」

 こんな状況下で、安全な場所なんて……本当にあるのか?

「大丈夫! 大野先輩は、凄く信用出来る人だから! だからカツヤ君も一緒に来て!」

 カオルは涙を拭い、俺の手を引いてくる。

「……仕方ないか」

 引っかかる所はあるが、正直藁にも縋りたい思いだ。仕方なく俺はカオルの後に着いていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る