第18話 漫画研究会

第18話 漫画研究会(1/3)

 小倉の居場所である暗幕の中。

 薄暗く人一人分程の狭い空間に一つのモニター画面が緑白に光を放っていた。

 画面の中に白地から伸びたおびただしい黒線と文字が描かれた何かの設計図が描かれている。

 暗幕の中にいるユキが話す。

「これがこの箱の設計図になります。凄く細かいのですが、拡大すれば詳細も分かりますよ」

 暗幕の中にいる大野が話す。

「これが……僕達のいる世界の全体像なのか……」

 暗幕の中にいる俺も話す。

「それにしても細かすぎて見えない。拡大したらも今度は他が見えなくなる……」

 暗幕の中にいるカオルは叫ぶ。

「ねえねえなになに!? 私にも見せて!」


「ちょ、ちょおおおおおおおおお!! 人が多過ぎっすよおおおおおおおおおおお!!」


 パソコンの前で、ほぼ俺達の下敷きになっていた小倉が叫び声を上げた。

 コイツの身を案じて俺達は暗幕の外へと出ると、ビシッと小倉は指を差し向けてきた。「お、お大野先輩のPCに映すっすから、皆の者! 控えい控えいぃぃぃ!」


 ということで、ちゃちゃっと小倉が映像を映す場所を大野のパソコンに変える。皆が囲んでモニターを見られるようになった。

 だがしかし、大野のパソコンのディスプレイはそこそこの大きさではあるが、やはり根本的な問題は解決出来なかった。

「……僕達のいる世界……箱の設計図だと思うけど……図が多き過ぎるね」

 大野が画面を見つめながら呟いた。

 彼の言うとおり、設計図が大きいため画面に収まりきらない。縮小しても今度は設計図に書かれた文字列達のせいで黒い塊になって潰れてしまう。

 大雑把に全体像を見るなら、長方形の箱が四つ均等に並んでいる。縦二列、横二列と均等に並び縮小すると一つの四角形のように映った。

 その四角形の真ん中には、丸い空間のような物がある。

 これは大雑把に見えた物で、更にその設計図のデータには別の項目も存在している。

 その項目を見てみると、この世界の断面図のような物が映った。

「ちょっとそこを見せてくれ」

 俺は今まで見ていた[全体構造図]の項目の隣にある[断面構造図]を指さす。

 たぶんこの箱の世界を横から見た構図だと思うのだが、図の下方に例の階段状の下り坂が無いか確認したかった。神瀬の指示で降りた例の大きな穴だ。

 しかし、しばらく眺めてみても、それらしい物は見つからなかった。

「カツヤさん」

 俺の様子を見たユキが声をかけてくる。

「神瀬さんと一緒に見た穴を探しているんですよね?」

「あ、ああ……だけどそれっぽい物が見つからん……」

 いくら探しても、それらしい物が見当たらなかった。

「……分かりました。いったんここまでにしましょう」

 ユキは頷き、今度は大野へと向き直った。

「大野さん。プリンターってありませんでしたっけ? 大きくした方が皆さんがちゃんと見えると思います」

 プリンターか……

 この画面をスライドさせて一つ一つ確認するよりも、印刷して全体を出力する方が早そうだ。

 ユキの言葉に大野は首を横に振った。

「この部室にはプリンターはないんだ。スキャナーならあるんだけどね」

「あ! それって前に文化祭のじゃんけん大会でトモミ先輩が勝ち取った奴だよね! 梅ちゃんが来るまでは、ほとんど使ってないけど!」

 確かにユキしかスキャナーを使っていなかったなとどうでもいいこと思い出す。

 絵の担当であるカオルとユキ。とくにユキはアナログで描いた背景画をスキャナーで取り込み、カオルと中村と共に編集していたな……

 そんなことを思い出していると、カオルがまた声を上げた。

「そうだ! 漫研からプリンターを借りれば良いんだよ!」

 確かに、それが一番手っ取り早い。

 USBにデータを入れて購買にあるプリンターを使っても良いが、量的に金が掛かるし時間も掛かりそうだ。千円で済みそうか?

 まあ、これは借りられなかった時の最後の手で良いだろう。

 そんなことを考えている内に、周りはプリンターを借りようという流れになっていた。誰が借りに行こうかと話し合う所で……

「皆待ってて、私が行くよ! いつもペンタブ借りてるし、顔も利くし!」

 と、カオルが手を上げた。

「お前一人でプリンターを持ってくるのかよ? 俺も手伝うぞ?」

 俺の心配の言葉に「チッチッチ」と人差し指を振り、小生意気に舌を打った。

「フフフーン。別にプリンターは持ってこないよ! 最近のはほとんど無線で繋がってるから、近くにいなくても印刷出来るのだよ! ちょっと許可取ってくれるだけだから」

 得意げなカオル。

 だったら別に俺も一緒に行かなくて良いかと思ったが、別の目的が頭に浮き上がってきた。

「いや、俺も行く」

「え? カツヤ君も来るの? 別に良いのに……あ、分かった! 私と離れるのが寂しいんだね!」

「違う。漫研のあずまに会いたいだけだ。別に、寂しいとかそういう訳じゃない」

「おおおおお!? それってカツヤ君ツンデレ発言だね! 可愛いなもうー!」

「はあ? 別にお前のためなんかじゃ――」

 何を言っているのか理解できない鼻息を荒らげるカオル。誰かフォローを入れてくれないかと、周りの奴らを見る。

 するとユキも大野も小倉も、皆生温い目をこちらに向けてきた。

「そ、その目はなんだお前ら!」

 それに三人は各々の感想を述べる。

「ふふふ、カツヤさんってぶっきらぼうですけど、本当に分かりやすいですよね」

「……今のはさすがに、ちょっと狙い過ぎていると思うよ」

「フヒヒ、ロリペドホモDQN松本先輩から、更にツンデレ属性追加とか……もはや、欲張りバリューセットっすね!」

 好き放題言いやがって……

「カオル、いいから行くぞ。それと小倉、後で表に出ろ」

「ヒェ!?」

 とにかく、俺はカオルと共に漫研へ向かうことにした。

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