第15話 地底の光(5/5)

 例の車型の玩具の上にカメラを括り付けているようで、モーター音を響かせながらこの穴の映像を映し出している。

 玩具は前進を始めジェットコースターのように急な坂を何回も下っていく。途中、玩具が横転したように映像が見えたが、運良く元の進行方向に戻り先へと進んでいく。

 神瀬がしばらく変化が無いことを伝え、早送りして結果を見せてくれた。

 玩具の車が降りた先に、今までの映像には映らなかった物がそこにはあった。

 今までの坂道が続いていたが、それはなくなる。

 そして、暗いながらも真っ直ぐに続く道とその先には一点の光が映っていた。先が気になる所だが、ヒモの長さが限界らしく車はモーター音を唸らせながら止まっていた。



 映像を見終わったのを確認し、俺は止まった思考から出た言葉を投げかけた。

「な、何なんだよ……これは……」

 この映像から分かることは少ないが、一つだけ分かることがある。

 穴の先には何かがあるってことだ。

 神瀬は俺の言葉を聞き淡々と答えた。

「分からないわ。とりあえず底までたどり着いた先には一本道がある。そして、その先は何処かと繋がっている」

「何処か……」

 何処に繋がっているのかを思わず聞きそうになったが、神瀬は知らないのであろう。

 昨日のユキも、この穴の存在を覚えていないと言っていた。いや、覚えていない以前に知らないと言っていたか。この世界の管理者が認知していない領域がある。いったいこの先に何が……

 俺が考え込むと神瀬が話しかける。

「どう? 気になってきたかしら?」

 こちらの表情を伺うように彼女は顔を覗き込んでくる。俺は深い溜息を吐いてしまった。

「気になるも何も、調べなきゃいけないだろ……」

 俺の答えに神瀬はフフと声を漏らし話を続けた。

「それじゃあ決定ね。このロープを体に巻いて一段降りて欲しいの。今回は深さというより、この穴の性質を確かめたいの」

「性質?」

「簡単な構造調査みたいなものよ。すぐ先の段差の経度や摩擦力。壁の感触や臭いや空気なんかを口答で教えてくれれば良いわ。気分が悪くなったらすぐに上ってきて構わない」

 そう言いながら、彼女はロープの用意を始めた。



 一結びと呼ばれる結びでロープへ均等な玉を作っていく。これはロープを上りやすくする為の補佐を果たしており神瀬が説明しながら用意してくれた。

 そして俺の体にロープをしっかり括り付けた後、軍手と簡単なマスク、そして懐中電灯とビデオカメラを貸してくれた。

「足下に気をつけて降りてね」

「……ああ」

 彼女に心配されると何か複雑な思いがしてくるが、気にせず俺はロープを片手に持ちながらゆっくりと滑り降りていく。

 地面の摩擦はあるものの若干滑りやすいようで、玉が無かったら勢いが出て危なかったかもしれない。暗く狭い空間の居心地はあまり良い物ではなかった。

 なんやかんやビデオカメラを構えながら、俺はゆっくりと一段下の段差へと到着する。

 狭いのに変わりないただのコンクリートの

空間に思える。

「松本君。どんな感じかしら?」

「ああ……一段下はそこまで滑りやすくはないな。あまり居座りたい空間ではないけどな」

 靴を地面に擦ってみるが、靴裏のゴムが勢いを止めようとしてくる。坂は寧ろ滑りやすくなっているのを考えると、やはり落ちることが前提で作ってあるとしか思えない。

「分かったわ。次は壁を調べてみて」

 神瀬に言われるがまま壁を触ってみる。

 堅く軍手越しからでも若干の冷たさを感じる。叩いてみるが強く反響することもない。

「ただの壁みたいだ。堅くてコンクリートみたいだ」

 俺の感想に神瀬は納得したように答えた。

「……分かったわ。松本君、息苦しくはないわね」

 その問いに俺が「ああ」と返事するとすぐに彼女から返ってきた。

「じゃあ、戻ってきて。ゆっくりで良いわ」

 案外すんなり戻らせてくれたことに、ちょっと拍子抜けだった。

「もう終わりで良いのか?」

 余計なことを言ってしまったと思った俺だが、そんなことはなかった。

「あまり無理は良くないわ。この続きは世界の終わりの後にしましょ。それに、貴方が居なくなってしまったら本末転倒だもの」

 曲がりなりにも、彼女は一応心配してくれているのだということだ。

 俺は思わず鼻で笑ってしまったが、彼女の言葉通り戻ることにする。

 ふと、この先に続く下の段へと振り返った。

 今度の世界の終わり時の探索はこの先なのだと改めて考えるといろいろな大きな不安の中に、何があるのかという好奇心が自分の中に生まれていることに気づいた。

 彼女の影響を受けている訳ではないが、この世界の裏側を知るというのは、確かに選ばれた存在や、何かを犠牲にした上でしか見れない限られた場所なのかもしれない。

 彼女の知りたいという気持ちは、何となく分かる気がする。

「ありがとう松本君。それじゃあ、明後日って都合は開いてるかしら?」

「明後日? 開いて無くはないが何だよ?」

 上りながら急に彼女の提案を受け戸惑う。

「今度は違う調査をするのよ。授業が終わった後に会いたいのだけど」

「またかよ。今度は何処だ? 何をするんだ?」

「フフ、そうね。と言ったら?」

 彼女の言葉に、ロープを手繰る俺の腕は止まった。

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