第15話 地底の光

第15話 地底の光(1/5)

 蝉は更に喧しく自分達の存在を主張してくる。

 熱く、人通りが少ないコンクリートの歩道を沿って歩き、俺は神瀬フウリに問い続けていた。地理的には、大学の山の裏手にあたる所だろうか?

「なあ……いい加減、話をしてくれないか」

 もう、曖昧に返されるのはうんざりだった。結局俺達は何処に向かっているのかも分からず、ただ神瀬着いていく他ない。

 その間、俺は彼女に「何処に行くのか」とか「何が目的なのか」などを聞き続けた。

 しかし彼女は「着いてからのお楽しみ」と肝心なことを受け流される。

 どこまで秘密が好きなんだこの人は……

「着いたわ。ここよ」

 彼女が唐突に立ち止まる。

 辺りは人気のない山沿いの道路だ。特に変わった様子も無かった。

 まさか例の見えない壁があるのかと思い手を前に掲げるが、特に何かにぶつかることもなかった。

「ウフフ……そこに壁でもあるのかしら?」

 俺の様子を見ていた神瀬は面白そうに笑っていた。

「……やっぱり、アンタも見えない壁のことを知っているんだな」

「ええ、もちろんね」

 隠す様子もなく神瀬は頷いた。

 彼女の返事に当然の疑問が浮かび上がる。

「何故アンタが、そのことを知っているんだ? あー……また答えを先送りにしたり、有耶無耶にするのは止めてくれよ」

 俺の切実な願いに彼女は笑みを浮かべる。

「分かったわ。それじゃあ話をしましょうか」

 彼女は俺達の足下を指さした。

「……下?」

 足下に目線を向けると、マンホールが目に止まった。

 俺は前回、世界の終わりを体験した時のことを思い出す。あの時、神瀬は棒状の道具を持ち出しマンホールの蓋を開けていた。

 まさかと思い彼女へ目線を向ける。すると、彼女は持っていたリュックを下ろし、中から軍手と例のマンホールを開けた道具を取り出した。

 先端にフックのついた棒を神瀬はマンホールの蓋に開いた穴へと挿入すると、彼女は両手に力でそれを握る。

「よい、しょっと」

 重そうに引きずりながらも、マンホールの蓋はずらされる。

 俺達の足下に下水道へ繋がる穴が開いた。

「この下で話しましょう」

 そう言うと彼女は俺に軍手を渡し、馴れた動きで暗い穴の中へと降りていく。

 俺はためらいなく降りていく様を唖然としながら見ていると、声が響いてくる。

「さあ、早く来て。ちゃんとマンホールは締めて置いてね」

 俺は言われるがまま穴の中に入り、マンホールの蓋を閉めた。



 水滴の音が何滴も響き渡る広い下水道。

 辺りは暗く、近くでドブ臭い水が中央を流れているのが微かに分かる。

 隣にいた神瀬は荷物の中から懐中電灯を取り出し、ボタンの音と共にスイッチを入れた。絞られた細長く伸びる光を緩め、彼女は広く辺りを照らす。何気なく照らした明かりの先に、丁字の別れ道とネズミの走り姿も見えた。

「それじゃあ、進みましょうか。ここからなら近いし歩いて行きましょう」

 神瀬は辺りを警戒することもなく歩き始めた。

「行こうって……いったい何処に向かっているんだ? もしかして……例の穴か!?」

 どうせ答えないだろうと、もう何度目かの問いかけを投げかける。すると、彼女は振り向き楽しげな笑みを浮かべて答えた。

「真の世界への入り口よ」

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