第13話 認識の大穴(4/4)

 部室のドアを開けると、突然ボールペンが俺の頬をかすめ。後ろの壁へと突き刺さった。

 部屋の奥には、投球後の綺麗なフォームを維持した中村が居た。

「何だ。誰かと思ったらアンタね。全く驚かせないでよね」

「……驚かされたのは、こっちなんだが」

 俺達だと認識した中村は、いつも通り腕を組み、口元をへの字にして自席に腰掛けた。ちなみ部屋は散乱しており、部屋の隅ではここの部員であるカオルと小倉が互いを守り合うように抱き締めあい、ガタガタと震えていた。

「あの……いったいなにがあったのでしょうか?」

 恐る恐るユキが中へ入る。すると、隅っこにいた二人は勢い良く彼女へと駆け寄り、ユキの腰回りにまとわりつく。

「うあああああん! 梅ちゃあああああん! 死ぬかと思ったよおおおお!」

「あ、あの!? カ、カオルさん!?」

「うあああああん! ドサクサに紛れて自分も梅ちゃん先輩に抱きつくっす! くんかくんかすーはーすーはー」

「こ、小倉さん……汗をかいているので、そんなに臭いを嗅がないで下さい」

 和気藹々わきあいあいとしている奴等はさておき、あまり気が進まないが、中村にこの散乱した部室の経緯を問う。

「いったい何があったんだ? さっきの東とかいう奴に何かされたのか?」

「アンタには関係ないでしょ!」

「いやいや、同じ部活のメンバーなんだから関係あるだろ?」

 そう言うと彼女は息を吸うように舌打ちし、答えてくれる。

「あの東って男は注意した方が良いのよ。アイツはこの大学の中でも五本の指に入る危険人物なんだから」

「危険人物? あの人が?」

 まあ、胡散臭い雰囲気をかもし出していたが、言う程の人物なのだろうか? 更に中村は続ける。

「噂の域を越えないけど、あの東サクマはこの大学に関する権限が大きいのよ」

「なんだそりゃ? 一昔前の生徒会みたいな設定は?」

 俺が首を傾げると、中村の声の音量がもう一段上がる。

「本当のことなのよ! アイツの意見って何故か良く通るの! 人ばっかり多くて創作意欲の欠片もないマンガ研究会の部長って肩書きだけのはずなのに、部の予算の割り当てを優位に仕向けるし! 文化祭も文化祭委員会を差し置いていろいろ好き勝手しまくるし! 本当にこの大学はアイツ中心で廻っているんじゃないかって思えてくるわ! 見ていてムカつく!」

 半分以上ひがみに聞こえるが、本当にそんな奴がいるんだな……陰の実力者的な。

「そう言えば、さっき何か言ってたよな?スパムだのなんだのって」

 スパムっていうと、いわゆる迷惑メールだ。

 中村が彼からそんな嫌がらせを受けているとは思えない。

 いや、この人はそんな玉じゃないと思う。

 いや、さっきそう言えばあずまは、スパムじゃないと言っていたような……

 たぶん間違いメールであって、スパムではないのだろう。

 そんなことを考えていると、中村が自分のノートパソコンの画面を俺に向ける。

「これが、アイツの送ってきたメールよ」

 画面を覗いてみる。

 送信者は東サクマであり、件名は空欄になっている。

 問題はその先だった。

「……なんだこれ?」

 本文であるが、異様な文字列の羅列が続いている。半角英数字、カナや記号など、羅列が端から端まで埋め尽くされていた。

「何か、これって文字化けしてるんじゃないのか? っていうかメールで文字化けってするのか?」

「知らないわよ! あっちが変な送信ツールで送ったらそうなるんじゃない? そんな事よりアタシが一番虫ずが走るのは、何でアタシにアイツがメールを送って来たのかよ!」

「い、いや、何でって……部活に関してメールとかじゃなかったんじゃないの? あっちもマンガ研究部の部長なんだろ? なら部長繋がりで――」

「そういうことじゃないわよ! これは、アタシの個人アドレスよ! 何でアイツが! 本当に気持ち悪いわね!」

「……」

 そうなると確かに気持ち悪い話だ。

 中村じゃなくても、いきなりそんな絡まない奴から意味不明なメールが来たら気味が悪い。まあ大野伝いか、何かの間違えなんだとは思うが……

 何はともあれ中村はアドレスを変更したらしく、それで気を静めてくれたようだ。


 その後、部活動はいつも通りゲーム制作に力を入れていた。梅沢は自分の仕事を終えた後、小倉とパソコンについての話をいろいろしていた。

 何の話しかは分かっていなかったが、今度の部活動の際に何かをやりたいということだった。

 俺も次の休日に向けて準備しないとな。

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