第12話 チュチュリナ・チュッチュリー
第12話 チュチュリナ・チュッチュリー(1/4)
赤い空に黒い雲、そして死に行く人々。
誰も止めることが出来ず、誰も回避出来ず、誰も怯える絶望。
世界の終わりだ。
終焉後、何もなかったように再生する。
とにかくそれが、俺達の住まうこの世界では、日常茶飯事となっている。
そして、今も……
「カオル、何か変化はあるか?」
そう問い掛けると、電話越しから返答がくる。
「へ、変化だらけで訳分からないよ! マキマキ分かる? ……やっぱり分からないって!」
赤い空の下、俺は大学の校舎内を走り回っていた。
世界の終わりの最中に、何か日常の風景とは違う変化を見落としてないか……まあ、電話越しのカオルが言った通り、変化だらけで見分けなんて着かないだろう。
カオルや小倉、その他大勢には、この非日常の中に起こったいつもと違う変化なんて分かる訳がなかった。
カオル達はこの世界の終わりの後、記憶を継続させることが出来ない。
無論、この世界のほとんどの人間は記憶の継続なんて出来ない。
継続して、この出来事を覚えていられるのは、俺を含め、三人だけだ。
「やっぱり、そうか……」
今、校舎内全ての監視カメラをハッキングして、少しでも視野を広げようと考えていたのだが浅薄だった。
映像を監視する人間が初見では、変化だらけのこの世界で何が異常なのかなんて分かるはずがなかった。
「失敗した……」
監視役をカオルや小倉ではなく、記憶を継続出来る人間にした方が良かった。
せめて、大野辺りに……
「……ん?」
そんなことを考えていると、俺はある現場を発見する。
一人の人間が地面に対して何かを行っている。
体や思考が変異して、奇行に走っている訳でもなさそうだ。
目を凝らし、様子を伺っていると、何か地面から円盤状の物を取り外したように見えた。
「……何をしてるんだ?」
俺は気になり、近づいてみる。
すると、正体が見えてくる。
女性だ。
非常に綺麗な女性で、身長は男性平均程あり、ロングヘアーで、ゆったりとした服装。
「あれって……」
いつかに出会った中村の友人。
名前は確かフウリ……だったっけ?
彼女は、棒状の道具を使いマンホールの蓋を開けている。
「おい、アンタ……」
声を掛けようとした時、彼女は馴れた身のこなしで、マンホールの下へと降りて行く。
「おい!」
制止しようと近寄るが一歩遅く、彼女はスルスルと地下へと消えていった。
何かおかしい。
この状況の中で、あんなに迷いなく動けるなんて、正直あり得ない。
「……まさか」
俺にある考えが起きる。
アイツも、記憶を継続させられる人間?
もしかして、四人目なのか?
俺は急いで後を追う。
ドブ臭い下水道を走り抜け、フウリの後を追う。彼女を見失わないように追走するが、あっちに追い付けない。
地理を知り尽くしているのだろう、曲がり道も躊躇せず、ネズミの如く駆けて行く。
「おい! アンタ!」
声を掛けるが、聞こえていないのか反応しない。しばらく走った後に、ある地点で彼女は止まる。
ようやく息を吐き、様子を伺うと彼女は、水路の壁に開いた人一人分の大きさがある穴の前に立っていた。今まで迷いのない走りを見せていた彼女が、ここに来て躊躇しているのか、その穴に入ろうとしない。
「ようやく追い付いたぞ……」
俺は息を整えつつ、話し掛ける。
すると、女はようやく気付いたらしく、驚いたように振り向く。
顔を再度確認するが、やはり絵に描いたような美人だ。顔は整っており、スタイルも良く、出る所は出ている。
彼女の表情は、驚きから徐々に微笑みへ変わり口を開く。
「パスワードは!」
大きな声で叫ぶ彼女。
再び聞いたパスワードという単語に、俺は身構える。
「チュチュリナ・チュッチュリー!」
「……は?」
俺は止まった。
何か聞き覚えのある単語だが、思い出せない。
彼女はそれを叫ぶと、例の大きな穴に向かって飛び込んだ。
「あ! おい!」
咄嗟に動けなかった俺は、彼女を制止させることが出来ない。
後を追いかけた。
「なんだ……これ……」
穴の先は斜面になっており、暗くて彼女の姿が見えない。
降りたら戻って来れない。
そんなイメージを植え付けられる。
「うっ……」
胸の辺りに痛みが走る。
たぶんこれは、肉体が変異し始めたんだ。
「こんな……所で……」
俺はその場で崩れ落ちる。
くそ! 体が動かねぇ!
徐々に意識も遠のく……
徐々に、徐々に……
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